臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、“トイレ不倫”で世間の話題をさらったお笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部健について。

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 複数女性との不倫を『週刊文春』に報じられ、活動を自粛している渡部健。その渡部が再び同誌のインタビューに応じ、「今でも妻も愛しています」と告白した。

 お相手の一人だったという女性に、六本木ヒルズの地下にある多目的トイレでの不倫を赤裸々に暴露され、女性を性のはけ口としか見ていない言動に、「顔も見たくない」「気持ち悪い」と世間からは非難が殺到。第一報が報じられる前日に出演していた民放各社に自粛を通知するという異例の対応を見せたことも、事の重大さを物語っていた。

 渡部といえば芸能界一のグルメ王として知られ、多彩で豊富な知識と華やかな人脈を持ち、見た目もソフトでコミュニケーション能力にも長け、数々の番組でMCを務めていた超売れっ子。プライベートでは女優の佐々木希さんと結婚し、1児の父親だ。度々、妻や子供と一緒に映った写真がメディアに流れ、公私ともに充実していると思われていた中での衝撃の報道だった。

 妻の佐々木さんはインスタグラムで夫の不倫を「申し訳ございません」と謝罪し、離婚を否定。アンジャッシュの相方、児島一哉さんは代役で出演したラジオ番組の生出演で「天狗になっていた。勘違いしていた」と発言した。「人の痛みを感じることや、思いやり、優しさ、愛がないからこういうことになる」とも語った。

 今回のインタビューで渡部は、複数の女性を「安全な遊び」相手として結婚前から関係があったことを認め、「彼女たちに対して気持ちのないまま接していた」と告白。「仕事も増え、自分の描いたビジョン通りに物事が運んでいったことが慢心を生んでしまった」と話した。

 児島さんのコメントのように、彼は仕事もプライベートも順風満帆に進んでいく人生に、何でも自分の思い通りになると勘違いし、全て思うがままになるという「幻想」を持ってしまっていたのだろう。「今まで浮気が妻にバレたことは一度もありませんでした」とも話しており、妻にも周囲にも不倫が一切バレず、彼を知る人たちからも悪口は聞かれず、出てくるのは好印象のみという状況が、その幻想に拍車をかけた。

 心理学ではこのような幻想を「コントロール幻想」と呼ぶ。これが強いと、自分の影響力を過信するあまり、ギャンブルやスポーツの勝敗という自分ではコントロールできないことや、天気や相手の気持ちなども、まるで自分でコントロールできているかのような錯覚を感じてしまうのだ。

 こうなると、ここから抜け出すのはなかなか難しい。幻想に浸っているほうが幸せだし、万能感を感じられるからだ。またこういう状況に置かれると、冷静に自分の状態を判断できなくなる。誰かが進言やアドバイスをしても、聞く耳を持たない。思い通りになるのだから、聞く必要がないとすら感じるからだ。今回の渡部のように、アクシデントや暴露など何らかの大きなきっかけがなければ、自分がそういう状態にあると気付くことが難しくなる。

 今回の騒動で、渡部を擁護する人はほとんどいなかった。コントロール幻想は誰にでも起こりうるものだが、物事が思うように進んでいる時こそ天狗になり、人に対して横柄で嫌なやつになっていないか、自分を見直すことが必要だろう。