松たか子が演じる“バツ3”の設計事務所社長・大豆田とわ子と、3人の元夫たちとの奇妙な交流を描くラブコメディ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系、毎週火曜21時〜)。坂元裕二による脚本や出演するキャストの個性的な演技もさることながら、「松たか子の歌が上手すぎる!」とテーマ曲が話題を集めている。

 エンディングテーマ曲『Presence』(STUTS & 松たか子 with 3exes)は、ラップを主体とした楽曲に松たか子がサビを乗せていく歌だ。放送時には毎回、異なるドラマのキャストがフィーチャリングされるという仕掛けも話題を呼んでいる。第1話の主題歌は『Presence I(feat. KID FRESINO)』、第2話は『Presence II(feat. BIM, 岡田将生)』、第3話は『Presence III(feat. NENE, 角田晃広)』と、クレジットされる曲名も放送のたびに微妙に変わるほどの手の込みようだ。

 YouTubeで公開された第1話の『Presence I〜』のミュージックビデオは再生数200万回を突破(5月4日現在)。「あらためて松たか子の歌が上手い」「ラップとも相性がいいとは」「こんなにソウルフルに歌えるなんて」といった賛辞が送られている。かねて歌唱力を高く評価されてきた松が、新境地を切り拓いているといえそうだ。

「今さら言うのも野暮ですが、松さんの音楽は“役者の余技”などというレベルではありません」と話すのは、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)でのJ-POPの解説でもおなじみの音楽プロデューサー・松尾潔氏。松尾氏が、「歌手・松たか子」の魅力を解説する。

「松さんの歌は、ピッチ(音程)、ノート(音符)の長さ、リズム感の正確さにおいて、J-POPシーンを見渡しても屈指の存在です。特にリズム感については、昨今のポップミュージックで主流のヒップホップからの影響が強い洋楽的なリズムにも対応できます。

 さらに、“音楽的な正しさの基準”であるリズム感に加え、“カッコよさや気持ちよさの基準”である、“ここで声を発する・発さない”という『タイム感』のセンスが非凡。俳優業であることを考えれば当然ですが、つまり“語るように歌う”技術に長けているのです」

 たしかに、『Presence I〜』では、ラッパーKID FRESINOによる英語主体のラップの合間を縫うように、松が「ひとり語り」のようなボーカルをかぶせ、高度なリズム感を披露している。さらに、松尾氏は彼女の「歌声」にも注目する。

「松さんの歌声の魅力は、“人懐っこさを十分に有しながらも湿潤すぎない”という絶妙なバランスの上に成り立っています。それが先ほど述べた『タイム感』のセンスと相まって、“オールマイティーなボーカリスト”という印象を作っています。

 また、デビュー時よりも中低音部の響きの豊かさが増しているのも、昨今のヒップホップやR&Bのリズムからの影響が顕著なポップミュージックの世界的な潮流とも相性が良い。ただし、テーマ曲の『Presence〜』はR&Bの色合いが強いですが、松さんのボーカルはR&Bやゴスペル的な歌唱とは一線を画しており、それが担保となり“マニアックではない、開かれたポップミュージック”になっています。

 たとえると、“和服のこなれた着こなしは言うまでもないが、一方でハイブランドのドレスもよく似合う”といったところでしょうか」

 松たか子といえば、ディズニー映画『アナと雪の女王』でエルサ役の声優を務め、2020年のアカデミー賞授賞式で世界9か国のエルサ役声優とともに歌を披露したことも記憶に新しい。ドレス姿で堂々と歌う松の歌声は海外リスナーからも注目された。松尾氏は、『Presence〜』が世界から評価される可能性があると続ける。

「同曲を作曲したSTUTSさんは、美しいメロディやメロウな音世界を探求している音楽家です。ブラックミュージック的なビート+メロウなサウンドと、メロディ+(涼しげな)松さんのボーカルが合わさり、昨今世界から注目される『シティポップ』といえる仕上がりになっています」

 YouTubeなどのプラットフォームの発達とともに日本の歌謡曲やJ-POPが発掘され、再評価される機会が増えている。特に、山下達郎など洋楽に影響を受けて日本で独自に発達した1970〜80年代の音楽は「シティポップ」として、世界的な注目を浴びている。その潮流に松たか子がハマるのには、「理由がある」と松尾氏は言う。

 それは、松たか子の “本当の夫”である音楽プロデューサー・佐橋佳幸氏の存在だ。

「松さんのパートナーである佐橋佳幸氏は、プレイヤーとしては日本のセッションギタリストのトップ中のトップであり、山下達郎さんのバンドの要的な存在。さらに、実績あるプロデューサーとしてもご活躍されています。そんな環境で、松さんのもとには膨大な音楽シーンの最新情報が届いているわけです」

 歌の才能だけではなく、音楽的センスを支えるパートナーを持つ松たか子。トレンドを取り入れた最新楽曲にもスムーズに対応できるのは、その環境にもよるのだろう。最後に、歌手・松たか子の魅力が存分に発揮されている楽曲を松尾氏に挙げてもらった。

「ドラマ『カルテット』(2017年、TBSテレビ系)の主題歌『おとなの掟』(作詞・作曲/椎名林檎)は、松さんのポップス・シンガーとしての“情報処理能力の高さ”が圧巻です。ともすれば情報量過多で胃もたれしかねない楽曲ですが、彼女の“引き算の美”により、歌唱力と表現力が生きています。松さんの楽曲の中でもベストのひとつでしょう。椎名林檎さんのセルフカバー曲などとも聴き比べてみてください」

 5月4日21時から放送予定の『大豆田とわ子と三人の元夫』の第4話は、松田龍平演じる1番目の元夫・田中八作がキーマンとなる回だ。エンディング楽曲で誰がどのようにフィーチャリングされるのかにも注目したい。

【解説者プロフィール】松尾潔(まつお・きよし)/1968(昭和43)年、福岡市生まれ。早稲田大学卒業。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後、プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、東方神起、三代目J SOUL BROTHERS、JUJU等を成功に導く。これまで提供した楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。日本レコード大賞「大賞」(EXILE「Ti Amo」)など受賞歴多数。今年2月、初の書き下ろし長編小説『永遠の仮眠』(新潮社刊)を上梓した。