誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない夢の馬券生活。調教助手を主人公にした作品もある気鋭の作家、「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆する須藤靖貴氏が、ネット投票の利便性のひとつである“オッズ投票”に挑戦した顛末についてお届けする。

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 ネット投票にもすっかり慣れ、キー操作も軽快である。一方で体は重い。

 運動不足だ。思えば、競馬場通いは格好のトレーニングになっていた。府中にしても中山にしても、もちろん京都・阪神でも、競馬場の広い空の下に辿り着くまでにずいぶんとカロリーを消費した。場内でもパドックと本馬場の間をサクサク動いた。ダッシュしたり階段をかけのぼったり。腹の底から大声を出したり。

 それがゼロだ。そこでレースの合間に腕立て伏せや反復横跳びを……との珍案も過ったが、そんなものは本筋じゃない。動かないぶん頭を使えばいいのだった。

 ネット投票での馬券(?)の買い方は5通り。通常投票、オッズ投票、マークカード投票、予想印投票、パック投票。ゲートが5つもある。

 もっぱらマークカード投票だ。競馬場での買い方と同じで慣れ親しみ、他は目に入らなかった。しかし買い目が増えると面倒なこともままある。そこで他の買い方にも手を伸ばしてみた。オッズ投票である。

 やってみると便利だった。3連複を狙うときなど、オッズがわかりやすく、決断の参考になるのだった。

 検討の結果、1頭軸、ヒモを6頭に絞ったとする。組み合わせは15通り。全部のオッズが一目瞭然で、15倍を下回っているのは2組。これが来てもマイナスだから、決然と外す。目的は的中ではなく当てて儲けることだ。

 先のダービーや安田記念のように、圧倒的な人気馬がいるときこそ役立つような気がする(馬券、外したけど)。安田記念を振り返れば、いくら穴党とはいえアーモンドアイを絡ませないわけにはいかない。ところが決着の3連複は840円! これじゃ馬券的妙味は塩を入れ忘れた澄まし汁だ。

 そこで1番人気馬ではない2頭を狙うワイドに定めた。2番3番人気の組み合わせでも590円。3連複と比べるとこっちの方がいい。これをオッズ投票で確認する。他の候補馬の組み合わせで10倍を超えるものもある。

 一方で3連複も狙った。1番人気馬が連を外した場合は高配当ばかりで投入金額を絞ることができ、全体でプラス収支を目論んだのだが…。

 別の日の早いレースでは【11】を軸にした3連複20通りを買った。果たしてヒモの2頭がきた! ただし肝心の【11】は着外だった。嗚呼。

 パドックを凝視して走る馬を定め、返し馬を経て決断する。勝負はここで完了している。しかし第二段階の「儲かる組み合わせで投票する」が出現すると、第一段階は完璧だと錯覚してしまう。

 まさに捕らぬ狸の皮算用なのだった。

●すどう・やすたか 1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。

※週刊ポスト2020年7月10・17日号