プロ野球トライアウト 生保や警視庁採用担当も来場し熱視線

プロ野球トライアウト 生保や警視庁採用担当も来場し熱視線

 プロ野球の“オフの風物詩”となっている12球団合同トライアウト。今年は11月15日に広島・マツダスタジアムで開催された。選手たちに熱い視線を注いでいるのは、必ずしも「球団のスカウト」ではない。現場で熱心に声をかけているのは“第2の人生のスカウトたち”だ。テレビには映らない実像をノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。

 * * *
 トライアウトの会場には、国内外のプロ球団や独立リーグのスカウトが集まる。だが、より熱い視線を注ぎ、精力的に動き回るのは、選手をセカンドキャリアへと向かわせる「第2の人生のスカウト」たちだ。

 ソニー生命保険の新里賢は、2015年のトライアウトで元広島の塚田晃平に、昨年は元ロッテの青松敬鎔に声をかけ、入社へと導いた。新里自身もロッテの元選手で、現役引退後は一時期、同球団のスカウトを務めた経歴を持つ。新里は言う。

「会社では営業所長として、社員の採用・育成を担当しています。ヘッドハンティングの一環で、優秀な人材を探すためにここに来ました。ビジネスの世界で通用する人材がプロ野球界には多いと思っています」

 この日は、塚田や青松らと総勢6人で来場した。

「勤務地が関東中心になりますから、地方を拠点とする選手には声をかけづらい。良い人材が見つかったとしても、全員を受け入れることは難しいし、他の業種を希望する選手もいる。その場合は、G.G.佐藤さん(元西武ほか)が立ち上げたアスリートのセカンドキャリアの支援団体につないで、企業を紹介しています」

 一般の客席からトライアウトの様子を見守っていたのは、大手スポーツジム「ゴールドジム」の福岡地区クラブマネージャー・重松大だ。彼は選手に直接、声はかけず、ノートに名前と特徴をメモしていた。

「すでに元プロ野球選手に、ゴールドジムベースボールクラブでプレーしてもらっていますし、ジムのトレーナーとしての採用もしています。やっぱり、鍛えられた身体のトレーナーのほうが、会員の方に対する説得力がありますから。うちのような業種は、プロ野球選手に最適です」

 トライアウトに参加した選手は、自分の出番が終われば各々、帰路に就く。マツダスタジアムの外では、縦縞のスーツにショールを首に巻いた若い男性が選手たちにパンフレットを配っていた。声をかけると、

「ズバリ、スカウトです」

 と明快な回答。プロ野球選手を不動産販売の営業マンとして採用したいという。

「今回、初めてトライアウトに来ました。同業他社で元プロ野球選手が活躍しているケースがあるんです。ぶっちゃけ、営業職って、大事なのはガッツですよね。小さな頃からコツコツ野球をやってきて、いろんな試練に耐えてきた野球選手にはそれがある。業界のことはゆっくり覚えてもらえたらいい。不動産業はインセンティブがあって、能力に応じて年収は上がる。普通に頑張ってもらえれば、年収1000万円ぐらい余裕でいけます!」

 他にもコンサルティング会社の採用担当者、大手通信会社や中堅菓子メーカーの関係者が来場していた。驚いたのは、こんな“異業種”の姿があったことだ。

 出入り口にテーブルを設置し、足を止めた選手に封筒を手渡す。そこには「警視庁」の三文字。現場に来ていたのは警部補の斎田匡史だ。同庁第4機動隊では2009年、隊員の士気や団結を高める狙いで硬式野球部が創部された。

「公務員ですからチームの練習は勤務が終わってから。社会人チームのように、午前中だけ働いて午後から練習するようなことはできないし、専用グラウンドもありません。しかし、野球部を作ったからには、都市対抗なんかで結果を残したい。トライアウトの現場に来たのは、昨年に続き2回目です」

 現在、同野球部には2人の元プロ野球選手が在籍し、昨年のトライアウトで声をかけた大田阿斗里(元DeNAほか)も、現在、研修中でいずれ加わる予定だという。

◆野球には戻るな

 自身も巨人の元選手で、プロ野球選手のセカンドキャリアを支援する日本リアライズ(プロフェッショナル・セカンドキャリア・サポート事業部)でアスリート支援を行っている川口寛人は、NPBから戦力外選手のリストを受け取り、個別に声をかけていく。選手の意向を聞き、20社以上ある協力企業から各選手に適した企業を紹介していく。これまで20選手以上を一般企業へと送り込んだ。

「毎年120〜130人の選手が戦力外となりますが、一般企業への就職を希望するのは約1割です。野球界の仕事は単年契約も多く、福利厚生の有無を含めて、不安定です。いつまたクビを切られるかわからない。私は一般企業への就職を希望する選手の割合を増やしていきたいという強い思いがあります」

 元甲子園のアイドルで、宮崎の都城高校から南海にドラフト1位入団(1985年)した田口竜二(白寿生科学研究所総務部人材開拓課長)は、プロ野球選手の心情に寄り添ったセカンドキャリア支援を行っている。

「戦力外通告を受け、進路に悩んでいる選手がいたら、球団関係者を通じて連絡が来ます。会ってまず確認するのが『野球への未練』です。社会人野球であれ、軟式野球であれ、現役を続けたいというのであれば、残念ですがお手伝い程度しかできない。それはファーストキャリアにまだ続きがあると思っているということですから。私が支援するのはあくまでセカンドキャリアです」

 プロ野球選手は、幼い頃から野球漬けの日々を送っており、社会経験のない選手が多数を占める。

「だからこそ、戦力外となった選手は不安を抱える。“俺は野球以外、何もできないんじゃないか”とネガティブ思考に陥ると、野球に関連する仕事にしか就くことができない。間違った選択とは言いませんが、そこから真の成功が得られるかといったら……」

 実は今回、積極的に元プロ野球選手を採用していると聞いた企業に取材を申し込んだところ、苦笑交じりにこんな回答が返ってきた。

「確かに以前は、実験的に採用していました。しかし、採った全員が野球の世界に帰っていきました。現在は採用を見合わせています」

 プロ野球での競争に敗れた選手が、夢の世界への未練を断ち切れないままでいれば、不幸な結果が生まれることもあるだろう。「第2の人生のスカウト」たちは、彼らの心強いサポーターになろうとしている。
(文中敬称略)

※週刊ポスト2017年12月1日号

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