街は危ないから大自然へ──。コロナ禍が長期化する中、アウトドア志向がますます高まっている。キャンプ、焚火、山歩き……、最近目立つのは女性たちの姿だ。いったい、何が彼女たちを惹きつけているのか。ジャーナリストの山田稔氏がソロキャンプを体験レポートする。

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 首都圏が緊急事態宣言下にあった2月後半。東京都心から車で1時間半程度(圏央道相模原ICから20分)という抜群のロケ―ジョンにある道志川沿いのキャンプ場を訪れた。「青野原野呂ロッジキャンプ場」(相模原市緑区青野原)だ。

 このキャンプ場は、清流・道志川の河川敷を利用したサイトを三段にわたって展開し、売店、炊事場、トイレ、バンガローなどが併設されている。テントサイト(8m×6m)の利用料金は1区画4500円(枠内駐車代込み)。サイトに車を横付けできるので、荷物の出し入れが楽でいい。

 さらにソロキャンパーにとってうれしいのが、同じスペースを格安で利用できる「ソロキャンププラン」だ。車の場合は1区画2200円、バイクだと1700円だ(2人利用の場合は1100円の追加料金が必要)。しかもサイトではWi-Fiが通じるからありがたい。

 筆者はこのプランで予約し、13時半過ぎにチェックイン。祝日のためかデイキャンプエリアは賑やか。宿泊サイトも多くのサイトが埋まっている。半分ほどがソロキャンプ組だ。犬を連れてきている中年の夫婦もいる。

秘境スポットで味わう「至福の時間」

 さっそくテントを設営し、焚火台をセット。この日は風が強く、隣のソロキャンパーは設営に手こずっている。

「新しいテントを買ったので試そうと思ってきたのですが、風に飛ばされてしまって、張るのに小一時間かかっちゃいましたよ」

 そう愚痴りながらも、真っ青な空、せせらぎの音に満足しているのか、目が輝いている。

 ひと通り準備ができたので、キャンプ場内を散策。この日は女性のソロキャンパーは見かけなかったが、カップルや家族連れを含めると3割ぐらいは女性だろうか。

 炊事場とトイレもチェック。トイレは洋式で水洗だ。掃除が行き届いていて清潔感がある。これは重要なポイントだ。せっかく大自然の美しさに感動しても、トイレが不衛生だと台無しになってしまう。

 チェックイン時や炊事場、トイレなどに向かうときは利用者はみなマスク姿だ。感染対策にぬかりはない。もはやマスクは最低限のマナーとなっている。

 目の前を流れる道志川の淵には「飛び込み岩」と呼ばれる大岩がある。夏場は楽しそうだ。キャンプ場前の橋を渡って、歩いて25分ほどのところには神奈川の名滝16選に選ばれている「牧馬大滝(まきめおおたき)」もある。秘境感たっぷりのスポットだ。

 そうこうするうちに日が傾き始めてきたので、焚火の準備を始める。焚火台をセットし、薪の束を解いて、鉈で火付け用に細かくカットしていく。焚火台に着火剤を置き、その上にカットした薪を並べ着火。ゆらゆらと火が熾きる。ファイヤースターターも用意してきたが、着火剤のほうが手早い。少しずつ太めの薪をくべていく。

 火が安定してきたら炭を投入。網を載せてコッヘルで湯を沸かす。まずは駆けつけ一杯。シエラカップにアツアツの湯を入れて、そこにウイスキーを注ぐ。少し冷えてきたので、ホットウイスキーで暖を取る。

 川原でデイキャンプを楽しんでいたカップルやファミリーが帰り支度を始めている。チェアで寛ぎ、せせらぎの音をBGMにゆったりとした時間が過ぎていく。

焚火と星空を眺めながら「贅沢ディナー」

 日が落ち始め、キャンパーたちが夕飯づくりに取り掛かっている。こちらも始めよう。

 まずは前菜。網の上にアルミでくるんだジャガイモととうもろこし、ウインナーを置いて炭火で焼く。風はだんだん収まってきた。ホットウイスキーをお代わりして焼き上がりを待つ。火を眺めながらボーっとする。非日常の世界に浸るひとときはキャンプの醍醐味の一つだ。

 焼き上がったジャガイモ、トウモロコシにバターを塗ってかぶりつく。うまい! この時ばかりは冷たいビールだ。クーラーボックスから冷えたビールを取り出し、カップに注いで飲み干す。

 ソロキャンパーが多いせいか、周囲はいたって静かだ。夏休みのファミリーキャンプ地のような喧騒とは無縁。ときおり、隣のサイトの愛犬がクンクンと声をあげるぐらいだ。

 続いては本日のメインディッシュの牛肉ステーキ。前日の夜からマイタケと塩麹に漬け込んできた安いアンガス牛がどこまで柔らかくなっているか。小さめのスキレットを網の上で温め、オリーブオイルとガーリックで焼き上げる。肉の焼ける匂いが漂う。焼き過ぎないように頃合いを見計らって裏返し、ミニトマトと茹でてきたブロッコリーを添える。

 さあ、焼けた。ナイフで切り刻み、口の中に。う〜ん、これはいける。十分に柔らかくなった肉片をかみ砕き、ビールで流し込む。ガーリックの香りが食欲をそそる。真っ赤に燃える火を眺めながらの贅沢ディナーだ。

 食事を終えると夜空に無数の星が輝いている。テントサイトのランタンの柔らかい灯りと夜空の星。大自然のなかで夜がゆっくりと更けていく。

『ゆるキャン△』が火をつけたブーム

 翌朝、5時過ぎに目覚めた。夜明け前、まだ星が出ている。再び火を熾し、暖を取りながらコーヒータイム。清々しい大気の中で飲む一杯のコーヒーでしゃきっとする。久しぶりのキャンプだったが、充実の一夜を過ごすことができた。

 今回かかった費用は、ソロキャンププランの2200円と薪代の500円で合計2700円。キャンプ場までは一般道を利用、食材や飲み物代は自宅から持ってきたので、本当に安上がりのレジャーだ。

 キャンプ場のスタッフに話を聞くと、「コロナ禍のリモートワークで休みも変則になり、平日にソロキャンプに来る方が増えています。平日は6割ほどがソロの方ですね」とのことだった。

 また、別のスタッフはこんなことを言っていた。

「キャンプ漫画の影響なんでしょうね、一昨年ぐらいから若い女性のソロキャンプが見られるようになりました。車でいらっしゃる方だけでなく、バスを乗り継いでキャリーケースを引っ張ってくる女性もいますよ」

 まさに女子高生が主人公のキャンプ漫画『ゆるキャン△』の世界である。漫画だけではない。ネット上にも女性のソロキャンプの動画がいくらでもある。ユーチューブには、テントを設営するシーン、火を熾すシーン、料理をつくるシーンなどが実に魅力的に流れている。それも、こんな美女が…と思うような女性が、慣れた手つきでファイヤースターターで火を熾したりしている。本格的なのだ。

「ひとりなら何から何まで自由だから」

 彼女たちは、どこにソロキャンの魅力を感じているのだろうか。知人の女性キャンパーや、彼女のアウトドア仲間たちの話をまとめるとこんな感じだ。

「やっぱり大自然の中で、自分だけの時間を好きなように過ごせることがいちばんの魅力ですね」
「普段と違うアウトドア料理に挑戦することが楽しみ」
「人と一緒だと行動が制約されるけど、ひとりなら何から何まで自由だから」
「山歩きも好きだけど、行動時間が長く、山小屋はいつも混んでいるから落ち着けない。その点、ソロキャンはまったりできるから好き。コロナ感染の心配もほぼないですしね」

 ユーチューブには50代の女性がソロキャンプを楽しんでいるシーンもある。年齢層も幅広いようだ。

 もちろん、女性のソロというと気になるのは安心と安全性だろう。ネット上にはこんな指摘が見られた。

・管理人が常駐しているキャンプ場を選ぶ
・フリーサイトよりも区画サイトの方が安心
・Wi-Fiや電波が通じること
・就寝時はテントの内側からカギをかける
・防犯ブザーの携帯

 やはり、それなりの準備と対策は必要ということだ。

 ところでキャンプ人口はどのくらいいるのだろうか。日本オートキャンプ協会の「オートキャンプ白書2020」によると、2019年のオートキャンプ参加人口は860万人で、7年連続の増加となっている。同行者を見ると、ひとり(ソロキャンプ)が4位で、前年の7位からランクアップしている。コロナ禍もあり、2020年のソロ人気はさらに高まったはずだ。

 キャンプから帰った直後、FBにアップした焚火シーンを見た50代の女性ライターから連絡があった。

「焚火、したくてたまりません。ぜひ焚火部をつくってください。コロナ自粛はもうウンザリ。人の少ない大自然の下で焚火を見ながら、ボケーっとしたいです。○○ちゃんと○○ちゃんも参加したいと言っていますよ」

 どうやら、アラ還女性の心にまで火を焚きつけてしまったようだ。