新型コロナの新規感染者数が減少に転じ、緊急事態宣言の解除が検討される状況であっても、コロナの感染対策をめぐる世の中の緊張感は表面上、変わっていない。ところが街中を見ていると、対策の実効性よりも「対策しているアピール」のほうが大事になっていることに気付く。コロナ対策の「マナー化」である。

 こうして生まれた新たなマナーを「令和しぐさ」と名付けたのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏だ。

「一時期、『江戸しぐさ』なるマナーが話題になりました。互いの傘を外側に傾け濡れないようにすれ違う“傘かしげ”、すれ違う瞬間にお互いの肩を後ろに引く“肩引き”などが有名ですが、令和しぐさにもそれと通ずるものがある。

 たとえば、オフィスやカフェでマスクを片方の耳にだけ引っ掛けておいて『いつでもマスクをしますよ』とアピールする“耳掛け”、外を歩く時にコーヒーのカップを右手に持つことでノーマスクの免罪符とする“手コーヒー”などがあります。店の入り口にある消毒スプレーを、ほんの少量しか手に取ってないのに手指に揉み込むしぐさだけは派手にする“手揉み”なども、典型的な令和しぐさでしょう。
 
 いずれも実際には感染対策はしていないのですが、周りの人へのマナーとして『対策しているアピール』だけはしておこうとして、やっていることです」
  
 言われてみると、人々がコロナ慣れするにつれ、感染対策をめぐるさまざまな新マナーが定着しつつある。顎マスク状態で人とすれ違う時に慌てて人差し指をマスクの中に差し入れて引き上げるそぶりをする“顎指”、ゴミ出しの時など完全なノーマスク状態で近隣住民と会ってしまった時に会釈しながらさりげなく手で口を覆う“口覆い”など、思い当たることばかりだ。

「飲食店ではトイレに行く時にマスクを着ける“危険便所”、会計を終え外に出る時に一斉にマスクを着ける“危険店外”があります。要するに、仲間うちでいる時はマスクは不要だけど、一旦仲間という結界から出る場合はマスクを着用するのがマナーとなっているのです。

 また飲食店では、客がテーブルの上に置かれたアクリル板を話しやすいように動かしても店員が見て見ぬ振りする“板移動”というのもあり、お店としては客が来るまでは感染対策の準備をしておいて後は客に任せますよという姿勢を示している。タクシーの“シートベルトをお締めください”の自動アナウンスに近く、『うちは対策をやっていますよ』と対外的に言い訳できればいい。コロナ対策が形骸化しつつある現われでしょう」

 ちなみに、江戸しぐさは江戸時代に実在していたという史料がないとの指摘もあるが、令和しぐさに関しては私たちが実体験している。このおかしなマナーは歴史として残るのか、それともすぐに忘れられることになるのか。