PRESIDENT Online 掲載

高校の新しい教育課程では「統計教育」が重視されることになった。数学講師の大淵智勝さんは「日本ではデータの恣意的な使い方が多い。データに騙されないためにも、日本人は統計のリテラシーを身に付けるべきだ」という――。

※本稿は、大淵智勝『大淵智勝の 数学B「統計的な推測」が面白いほどわかる本』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■テレビでみかけた「統計的」なコメント

「統計」は今や現代人に必要なスキル。この言葉、既に見飽きている方も多いだろう。

「わかってはいる。ただ、統計学の深い方の、何だっけ、その、正規分布とか、カイ何とか検定とか、そういうところまでは手が出ないけど、でも、データはしっかり見て考えているし、データの裏付けがなければ信用しないようにしている。」という方も多いのではないだろうか。

では、こういうのはどうだろう。

2015年10月某日。あるテレビ番組であるコメンテーターの一人が「ハロウィンが日本に浸透した」というテーマでプレゼンを始めた。その中に「経済効果が2014年にはじめて『バレンタインデー』を抜いた」というものがあった。

これを聞いて皆様はどのように思うだろうか。確かにある研究所の算出によれば、2014年のハロウィンの経済効果は1100億円であり、同年のバレンタインデーが1080億円であるから、確かにハロウィンのほうが多くなっている。この件は、正規分布だとか仮説検定だとかそういったことを使っているわけではない「統計」の事案である。

どうだろうか? 「なるほど2014年の段階で、ハロウィンは日本にだいぶ浸透していたんだな」と思われるだろうか。

この当時、この番組を見ていた私は「そんなにハロウィンが浸透しているか?」という疑問が生じた。

ちなみにハロウィンに関して渋谷で軽トラックの事件が起こったのは2018年、「地味ハロウィン」は2014年に始まったものの、渋谷で大々的になったのは2017年である。2014年の段階ではJR東日本・京葉線の某駅にある夢の国では確実に浸透していたが、一般的にはそこまでではなかったというのが私の認識であった。

■「ハロウィンは日本に浸透した」は本当か

この件がそうであるが、「統計」に対して無知であることの怖いところは「専門的な知識まではたどり着いていない」といったところではない。「知っているはずの統計データに思考を左右されてしまうこと」である。

「2014年の段階でハロウィンの経済効果は確かにバレンタインデーを抜いた。」

この一文に知らない用語はない。「経済効果」も定義はしらなくても、金額の大小で一般的に広く受け入れられているのかどうかを考えることのできる値だろうというくらいは分かる。そこに「ハロウィンは日本に浸透した」という言葉が付け加えられたとき、多くの人は「なるほど、そうなんだな」と思ったのであろう。

ただ、考えていただきたい。このハロウィンの相手として出されているバレンタインデーは日本に浸透はしているであろうものの、そもそも経済効果というのはどうなのか。意外とバレンタインデーに使われる金額ってどうなのだろうかと。

そして思うのではないだろうか。

このようなイベントで、ハロウィンの2カ月後にあるクリスマスと、何故比較しないのか。

なお、第一生命経済研究所の2005年の発表によると、クリスマスの経済効果は名目GDP換算で7424億円という。