新型コロナウイルスの蔓延が世界の保護主義に拍車をかけている。自国優先の風潮のなか、多くの国々が医療品などの輸出制限やため込みに動き、「人類共通の敵」ウイリスへの戦いを阻害している。

コロナ禍は世界的な相互依存関係が深まり、人やモノの世界的往来が飛躍的に拡大する中で起きた。米国・トランプ政権の「自国優先主義」や英国の欧州連合(EU)離脱に象徴される「反グローバル化」を加速させている。
 
戦後の国際社会を主導してきた米国の影響力が弱まり、「リーダー不在」が指摘される中で、コロナ禍に見舞われ、世界的な危機につながった。米国は世界最多の感染者、死者を出す一方で、世界保健機関(WHO)への資金拠出を一時停止するというが、自らリーダー役を放棄したともいえる。
 
コロナ禍の前から対立していた米中関係がさらに悪化することも懸念される。トランプ政権は責任回避の思惑もあり、中国が感染拡大の初期に情報を隠蔽したと批判を強めている。米国には一足先に感染拡大を抑えた中国が世界的な影響力を増すことへの警戒感も強いようだ。対立がさらに深刻化すれば、米中「新冷戦」が加速するリスクがある。

中国政府にも「品格ある振る舞い」を求めたい。広域経済圏構想「一帯一路」に沿った国々に医療援助を進め、東シナ海、南シナ海での活動を続けるなど独り勝ちを狙うような動きを見せていることには国際社会の批判も高まっている。

米中の対立が続けば、国際社会が足並みをそろえて途上国への支援を進めることが困難になる。途上国で感染拡大が続けば、世界全体での収束にはつながらない。米中2大国は国際社会の発展へ協力する必要がある。コロナとの闘いを収束させ、世界を繁栄の軌道に戻すには国際協調で乗り切るしかない。
 
こうした中、開かれた貿易を保つため各国独自の取り組みもスタートした。シンガポールとニュージーランドは共同宣言により、医療関連の物資や食料が円滑に届くよう空路、海路の輸送網を維持し、新たな輸出制限などを設けないことを定めた。これら重要品目の貿易を妨げる要因があれば、取り除くことも申し合わせた。

趣旨に賛同したオーストラリア、カナダ、チリ、ミャンマーなどを含めすでに10カ国以上が宣言に参加した。保護主義をけん制する大事な一歩として歓迎したい。

民間の政策監視機関「グローバル・トレード・アラート」によると、年初から3月下旬までに54カ国・地域が医療品の輸出を制限した。ドイツがスイスやオランダ向けの輸出を禁じたのが一例だ。米政府高官は重要な医療品を国内で製造すべきだと主張している。こうした貿易制限は保護主義を助長し、感染収束後の世界経済の回復も妨げかねない。米中の貿易戦争を受け、2019年の世界貿易は金融危機下の2009年以来の減少に転じた。

米国が引き上げた対中関税には医療用マスクや手袋のほか、体温計、心拍計、人工呼吸器、ハイテク診断装置の機材も含まれていた。3月、米政府はこれらの関税を一転して下げた。貿易障壁が不利益になると認めたわけである。

各国は、この現実を直視し、コロナ危機を克服するまで自由貿易を堅持するとまず宣言してはどうか。医薬品などを手始めに開かれた貿易を広げようとする、シンガポールとニュージーランドの取り組みはヒントになる。これら自発的な動きを浸透させ、環太平洋経済連携協定(TPP)など地域協定の約束事に昇華させる発想もあっていい。自由貿易体制や地域の安定の下で繁栄を享受してきた日本は、米国と中国に自制を求め、国際協調体制の再構築を目指すべきである。米中や開発途上国とも良好な関係にある日本の役割は大きい。

<直言篇117>

■筆者プロフィール:立石信雄
1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。
(立石信雄)