今思えば、昭和は煙草に寛容な時代だった。職場でも自分の席で吸えていたし、多くの公共の場で堂々と喫煙できた。駅のホームはもとより、長距離電車の肘置きには灰皿が付いていた。幼少のころ、男性は大人になったら煙草を吸うのが当たり前と信じて疑っていなかった。

 映画でも主人公が煙草を吸うシーンは格好がよいとされていたが、平成に入ると存在が「煙たがられる」ようになる。受動喫煙の健康被害は明白なものとして、世界的に分煙ではなく全面禁煙が進むようになった。アイルランド、イギリス、トルコ、アメリカの州の半数以上では屋内を全面禁煙する法律が成立。喫煙者よりも飲食店などで働く人の健康が優先されたのだ。

 今夏に東京オリンピック・パラリンピックを開催するわが国としては、時勢の潮流に乗り遅れるわけにはいかない。それが4月1日から施行される改正健康増進法だ。第一種施設である学校、病院、行政機関の庁舎などは「敷地内禁煙」となり、第二種施設の事務所や工場などは「原則屋内禁煙」となる。後者は、喫煙専用室を設置できるが、煙の流出防止措置など厳しい基準が課せられる。

 法規制が進む一方で、国民の健康意識は向上していった。企業にとっては、健康経営の視点から関心が高い。認定基準の一つに受動喫煙対策が必須になっているからだ。

 さらに、労災防止の面でも気になるデータがある(特集Ⅰ参照)。ニコチンが原因で中毒になると、イライラや落ち着きがなくなるなどの禁断症状が現れる。ニコチン濃度が下がったときに集中力が低下することで、災害リスクが高まるという。

 また、喫煙のため自席を離れる従業員に非喫煙者からの厳しい目があることを忘れてはならない。非喫煙者からみれば、しょっちゅう休憩しているように捉えられ、不平等に感じる。職場の人間関係や士気の面からも禁煙対策は重要といえるだろう。

 少々、愛煙家の方にとっては耳の痛い話になってしまった。世界的にみれば、日本の煙草の価格はまだ安いようであり、禁煙への流れは止まりそうにない。