以下の記事は、2009年10月に弊社より刊行された「新型インフルエンザ対応マニュアル」(絶版)をそのまま掲載しております。
 新型インフルエンザを対象とした内容となっており、古い部分もございますが、新型コロナウィルスが流行する中、企業の労務管理の対応方法としてご参照いただければと存じます。
 第1節第2節第3節はこちら

 新型コロナウイルスに関する最新情報は、厚生労働省のWebサイトをご参照ください。
 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)〔厚労省Webサイト〕

1 使用者の責めに帰すとは?

(1)労基法上の休業手当

 賃金は、原則としてノーワークノーペイの原則に従い、労務の提供がなされないときは支払義務が生じません。

 しかし、労基法では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない」(第26条)と規定しています。

 「使用者の責に帰すべき事由」とは、第1に使用者の故意、過失または信義則上これと同視すべきものよりも広く、第2に不可抗力によるものは含まれないと解されています。

 事業主としては、新型インフルエンザは事業場外で生じるものですから、不可抗力の範囲に属すると考えたくなります。しかし、雨天等について「それが自然現象によるものであるという理由のみで一律に不可抗力による休業とみなすべきではなく、客観的に使用者として行うべき最善の努力を尽くしてもなお就業不能であったか等を勘案する必要がある」(昭和41年6月12日基発第630号)と解されています。

 安衛則の条文上は、「病毒伝ぱの恐れのある伝染病にかかった者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない(就労制限の対象でない)」(第61条)という文言も存在し、病気に罹患したという理由のみで一律に不可抗力とは主張できません。

 基本的には、行政側の要請に応じて自宅待機させる場合※には、事業者の責に帰すべき事由とはいえませんが、そこまで至らず、会社が自主的な判断で休業を選択した場合には、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払が必要となります。信用上の風評保持や社会的責任、地域の感染防止への協力等の大義名分があっても、自主判断によるものは不可抗力に含まれないとする立場が有力です。

※いわゆる濃厚接触者について、外出自粛を要請するケース(第3節参照)等も含みます。

(2)民法上の責任負担

 民法では、「債権者の責に帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」(第536条第2項)と規定されています。

 事業者(債権者)の責めに基づく事由で休業を命じた(労務の受入れを拒否)ときは、従業員(債務者)は100%までの賃金請求が可能です。

 民法の「債権者の責に帰すべき事由」と労基法でいう「使用者の責に帰すべき事由」とは、イコールではありません。民法の定義では「債権者の故意、過失またはこれと同視すべきもの」に範囲が限定されますが、労基法のカバーする範囲はこれより広く、親会社の経営難による資材不足等も含まれると解されています。

 新型インフルエンザによる休業は、社会的責任に基づく必要性等がないにもかかわらず事業者が恣意的に休業を発動する場合等を除けば、民法による狭義の定義には該当しないと解されます。債権者の責に帰すべき事由にあたらなければ、債務者(従業員)が裁判に訴えても100%の賃金支払義務は生じません。

民法と労基法の関係

 ノース・ウエスト航空事件(最高裁判所昭和62年7月17日判決)では、「労基法の『使用者の責に帰すべき事由』とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法の『債権者の責に帰すべき事由』よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である」と述べています。

2 休業の種類別の対応

(1)従業員の病気申請に基づく休業

 従業員が自主的に、または事業者の勧めにしたがって病院等に行き、行政上の措置に従って、または医師の判断等を尊重して自ら休業を選択したとします。

 従業員は、年休または病気欠勤の申請をします。

 年休(企業が独自に病気積立年休制度等を設けているときは、それに基づく年休を含みます)が申請されたときは、事業者は100%の賃金支払義務を負います。年休は「病気療養のために利用する場合も、付与しなければならない」(昭和24年12月28日基発第1456号)ので、事業者は「無給の病気欠勤を申請するように」と強制できません。

 病気欠勤の場合は、行政上の措置に基づくものでも無給で差し支えありません。

 医師が「療養のため労務不能」と認めれば、休業4日目から健康保険の傷病手当金(賃金の3分の2)を受給できます(下記の業務上災害の場合を除きます)。最初の3日間の休業について、事業者が賃金補償する義務はありません(健康保険法第99条)。

 新型インフルエンザが仮に業務上の疾病と認められ、医師が「療養のため労務不能」と認めれば、休業4日目から労災保険の休業補償給付(賃金の60%)・休業特別支給金(同20%)を受給できます(労災保険法第14条、特別支給金支給規則第2条)。最初の3日間の休業については、事業者が休業補償(同60%)する義務があります(労基法第76条)。

(2)行政上の措置としての休業

 行政側の要請に応じる形で、事業者が休業発令に踏み切るケースも想定されますが、この場合には「使用者の責に帰すべき」休業に該当せず、賃金の支払(60%の休業手当支払)義務は発生しないと考えられます。

 年休は「労働義務のある日についてのみ請求でき、休職発令後は年休を請求する余地はない」(平成3年12月20日基発第712条)ので、上記ケースに該当する場合、事業者は従業員を無給で休ませることができます。

 しかし、実務上は、従業員の年休消化を認め、生活の安定を図るのが望ましいのはいうまでもありません。

(3)事業者の自主判断に基づく休業

 行政からの要請がなく、事業者の自主判断で休業・自宅待機を発令したときは、原則的に、「使用者の責による休業」に該当し、休業手当(賃金の60%)の支払が必要になります。

 年休との関係は、前記(2)と同様で、できる限り年休の活用を図るべきでしょう。

(4)保育所閉鎖等による従業員の休業

 従業員本人が新型インフルエンザに罹患していなくても、保育施設や高齢者の入所サービス等を行う事業所が臨時休業となった場合、育児・介護のため休業を余儀なくされるケースも想定されます。

 育児介護休業法の休業・休暇の要件を満たさなければ、従業員は年休・自己都合欠勤を申請するほかありません。

 年休を利用できれば、賃金も100%受けられるので問題ありません。事業者としては、年休の残日数がない従業員に対しても、特別休暇(有給・無給)を与える、短時間・在宅勤務を認める等の優遇措置を講じるべきでしょう(基本的対処指針およびQ&A)。無給の休暇であっても、「欠勤によるペナルティーを課さない(昇給・賞与・退職金の算定等)」という保障があれば従業員のメリットは小さくありません。