医療の進歩により、がんは治る、もしくは長期にわたる安定状態が期待できる病気になってきた。かつてのようにがんにり患したからといって、即、退職を考えるような時代ではなくなっている。

 企業にとっても、がんという理由で、貴重な人材を自ら失うような施策をとるのは得策ではない。病気になった者への会社の対応を、他の社員はよく見ているものだ。「がんになったら、この会社はすぐに見捨てる…」と社員が感じ取ってしまったらどうであろう。社員の仕事に対するモチベーションが上がるわけがない。

 逆にいえば、がんになっても社員が安心して働くことのできる環境が備わっていれば、職場の士気が低くなることはないだろう。「この会社のためにがんばろう」という意欲が湧いてくるに違いない。

 社員を大切にするという会社のメッセージを発信することによって、会社の雰囲気はよくなる。職場のコミュニケーションがよくなることは、生産性の向上にもつながっていく。がんに罹っても就労できる制度や環境をつくることは、健全な経営戦略といえるだろう。

 一方で「治療と仕事の両立」は時代の要請でもある。わが国はすでに高齢社会となっている。今年3月末に70歳就業確保法案が国会で可決、成立し、来年4月に施行される。努力義務ではあるものの来年には「定年70歳時代」が到来すると言っても過言ではない。

 ご承知のように、がんは高齢になるほど罹る人が増えてくる。社員の高齢化に対応するためにも、長期的な治療を続けながら、就労可能な仕組みづくりを行うのは、リスク管理的な経営戦略の側面もある。

 また、厚労省の策定した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」の「高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応」の項にも「高齢者に適切な就労の場」を「何らかの疾病を抱えながらも働き続けることを希望する高年齢労働者の治療と仕事の両立を考慮すること」と示されている。

 企業にとって「治療と仕事の両立」の問題は最早、避けては通れない。