中央最低賃金審議会(藤村博之会長)は、令和2年度の地域別最低賃金に関し、引上げ目安額を示すのは困難で、「現行水準を維持することが適当」との答申をまとめ、加藤勝信厚生労働大臣に提出した。本欄も従来から、コロナ禍の今年度においては「最賃凍結以外に選択肢はない」と主張してきており(6月1日号本欄参照)、今回の中賃審の結論に全面的に賛意を表したい。

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、まさに最賃引上げによる影響を受けやすい中小零細企業を直撃している。業種では、食料品・縫製・金属製品などの製造業に加え、卸・小売業、理美容業、宿泊業、飲食店、運送業などである。コロナ禍で立ち行かなくなっているなか、さらに最賃引上げの圧力が加われば、経営自体を諦めざるを得ないケースが増加するのは明らかだ。

 賃金分布をみると、多くの都道府県で最賃水準に張り付いている労働者が少なくないのが実態である。パート労働者を例にとると、愛知では8万人程度、神奈川では7万人程度、千葉では4万人程度が最賃水準付近にある。たとえ10円、20円の引上げでも、中小零細企業に多大な影響が生じよう。

 GDP(国内総生産)がわずかでも拡大してきた昨年度までなら、国による経費支援などを受けながら最賃引上げ分を吸収することができたろう。非正規労働者層の処遇を徐々にアップさせていこうという社会的合意も形成されていたが、今年度は様相が一変した。優先すべきは、最賃の引上げではなく、地場中小零細企業の体力をいかに温存するかに移っている。

 ここ数年にわたる最賃引上げの流れを断ち切れば、デフレ回帰を惹起しかねないとの懸念は、経済全体にかかわる重要な視点ではある。しかし、アベノミクスが始まってある程度の賃上げが続いたものの、デフレ脱却、インフレ転換には程遠い状況にあった。仮に数十円の最賃引上げが、デフレにどれほどの影響があるか疑問だ。デフレ回帰を食い止め、目標とするインフレに戻すには、正しいマクロ経済政策が不可欠である。