最新アルバム『After Hours』が話題を集めているトロント出身のシンガー、ザ・ウィークエンド。ここでは同作の2曲目「Snowchild」のリリックを掘り下げる。
  
ニヒリズム、コカイン、ナルシシズム、ミソジニー:これらはザ・ウィークエンドの最新アルバムをウィークエンドの作品たらしめているものだ。予想どおり『After Hours』にはそのすべてが収められているが、このポップスターが10年かけて緻密に作り上げてきた神話を壊そうとはしていない。その代わりに、トロントのシンガーはこの4枚目のアルバムで音のテクスチャ―、2016年の『Starboy』におけるダフト・パンク主導の荒涼とした未来主義を、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの手による不吉で美しいものに置き換えてみせた。さらに、彼がもっとも得意とするセックス・ジョークを用いた、ハイリスクな賭けにも出ている。

内容にふさわしい曲名を冠した「Snowchild」の2番目のヴァースで、彼はこんなふうに歌っている。”彼女は俺の新しい宇宙船のフューチャリスティックな音が好き / フューチャリスト(未来派)のセックスは彼女にフィリップ・K・ディックを与える”。フィリップ・K・ディックはSF作家で、1982年のリドリー・スコット映画『ブレードランナー』のインスピレーション源となった小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』で知られている。彼の苗字「dick」は英語で男性器を表わすため、ウィークエンドの曲中でダブル・ミーニングとして使われているのだ。

過去10年以上にわたって、ザ・ウィークエンドは時代を代表する「セクシャル・サヴァン」(性体験の豊富な人)としてふるまってきた。よって、彼が"未来的なサウンド "に合わせて、"未来的なセックス "を世界に紹介したいと思うのは、ある程度は理にかなっている。しかし、彼は「Snowchild」の残り部分のほとんどを、セックスについて自身がもつ進歩的な考えをリスナーに知らせ、それとフィリップ・K・ディックの物語との相似性を説明することに費やしている。フィリップ・Kのペニスは、ディストピア的な恐怖感を残すのか、それとも権威主義の危険性を教えてくれるのか。彼のディックは問いかける。”あなたは人間か、それとも行き過ぎたテクノロジーとその実験による産物か? 神は我々のしてきたことを許すだろうか?”

「彼女は男を必要としていない、彼女は男が必要とするもの」という次のラインで、ウィークエンドはおそらく、肉欲的な快楽について男が役立たずになった世界を示唆しているのではないかと思われる。だが、私たちはすでにそのような現実のなかで生きている。願わくば次のアルバムでは、将来的にセックスがどのようなものになるのかもっと聞いてみたいし、私たちにもフィリップ・Kのディックがあるなら、きっとそれが共有できるはずだ。