ファンクやソウルのリズムを取り入れたビートに、等身大で耳に引っかかる歌詞を載せて歌う4人組ロックバンド、トリプルファイヤーの音楽ブレインであるギタリスト・鳥居真道による連載「モヤモヤリズム考 − パンツの中の蟻を探して」。前回のクルアンビンとリオン・ブリッジズのコラボ最新EP『Texas Sun』収録曲「Midnightの考察に続き、第11回となる今回はヴルフペックの「Cory Wong」(ライブ・バージョン)を徹底考察する。

先月の原稿を書いていた時点では、世界がこのように様変わりしてしまうとは思ってもみませんでした。音楽ファンの方は悶々とした日々を送っていることかと思います。私もそうです。とにかく皆様のご無事を祈っております。

今回はコリー・ウォンがフジロックで来日を予定しているとのことで、ヴルフペックの「Cory Wong」を取り上げます。昨年の12月にリリースされたライブ盤『Live At Madison Square Garden』収録のライブ・バージョンのほうを聴いていきたいと思います。

※「Cory Wong」は7:55〜



「Cory Wong」は、コリーの名前がそのままタイトルになった曲です。マイルス・デイヴィスの「John McLaughlin」や「Mtume」といった曲を思い出しますね。ヴルフペックのリーダー、ジャック・ストラットンはコリーを紹介するときに、「彼の両親はヴルフペックの曲名に因んで子に名付けました。コリー・ウォン!」と冗談を言います。

2016年の『The Beautiful Game』に収録されたスタジオ版は彼らの言うところの「ロー・ボリューム・ファンク」なミニマルなサウンドです。スタジオ版ではあるものの、途中からライブ音源がカットインされます。ところどころ、おかしなシンセが重ねられていたり、どこまでライブ音源なのかよくわからないミックスで、ちょっと人を食ったようなところがヴルフペックらしいといえます。

「Cory Wong」の単音ギター・リフはちょっとミネアポリス・ファンク、というかプリンス的なところがあります。「1999」のような鋭角なリズムのファンクと言ったら良いでしょうか。またはザ・タイムの「777-9311」のカッティングも連想しました。

コリーの地元はプリンスと同じミネソタ州ミネアポリス。ミネアポリスにはバンカーズというライブが聴ける料理店があります。ドクター・マンボズ・コンボという昔ながらのR&Bをレパートリーにするハウスバンドが売りのお店です。 1990年代初頭にお店を訪れたプリンスがその箱バンのドラマーだったマイケル・ブランドをスカウトして、彼のニュー・パワー・ジェネレーション(NPG)に加入させたなんていうエピソードもあります。

コリーは学生時代にその店に足繁く通ったそうです。そのちドクター・マンボズ・コンボのメンバーと顔なじみになり、やがてボーリングで怪我をしてしまったギタリストの穴を埋めるために、バンドに加入することになります。コリーはそこでマイケル・ブランドと知り合ったそうです。ヴルフペックの「Hero Town」にはマイケル・ブランドが参加していますが、コリーがブランドをヴルフペックに紹介したようですね。ちなみに、NPGのメンバーだったベーシスト、ソニー・Tはコリーのソロ作に参加しています。

コリーとヴルフペックのメンバーの出会いもバンカーズでのことでした。ヴルフペックのメンバーはダレン・クリスのバックバンドとしてツアーを回っていました。ここで、ダレン・クリスって誰? という方に説明すると、名作ドラマ『glee/グリー』のブレイン役の俳優で、彼は主人公のひとり、カートの恋人を演じていました。なぜヴルフペックがダレン・クリスのバックバンドをしているのかといえば、彼もまたヴルフペックと同様にミシガン大学の学生だったからです。



クリスとのツアーでミネアポリスに訪れたヴルフペックのメンバーたちは、地元で評判のバンカーズに行ってみることにします。コリーは来店したヴルフペックの一団を見てきっとミュージシャンに違いないと思い、ステージの合間に話しかけてみたそうです。これが彼らと知り合ったきっかけとのこと。2012年のことです。

「Cory Wong」のプリンスっぽさはコリーの出自から来ているのではないかと考えています。ちなみに「Cory Wong」の初出は2013年にYouTubeで公開された「TOUR VLOG 002 /// Cory Wong」という動画です。



例のごとく前置きが長くなりましたが、ライブ版の「Cory Wong」を聴いていきましょう。アルバム版の「Cory Wong」のちんまりしたロー・ボリューム・サウンドとは打って変わり、いかにもライブといった熱っぽい演奏となっております。

まずはコリーが単音のギターリフです。こうしたタイプのギターのルーツを遡るとJBを支えたギタリスト、ジミー・ノーレンに当たると思いますが、この曲のリズムはJBというより、やはりプリンスと言えます。

ここで注目すべきは、4小節目の3拍裏に入るピッチを下降させるスライド。これがまた気持ち良い。躍動そのものを音で表現したようなフレーズです。神は細部に宿ると言いますが、こういう細かい遊びにリズムのセンスが出るものです。これのタイミングが悪いと一気に野暮ったくなってしまいます。

続いて、ジャックのコード弾きが加わります。譜割はコリーと同じです。そして、ジャックの「ベイス!」という掛け声とともにバンドが演奏に加わります。オーダー表は以下の通り。ベース、ジョー・ダート。ドラム、セオ・カッツマン。クラビネットおよびオルガン、ウッディ・ゴス、エレピ、ジョーイ・ドーシック、パーカッション、リッチー・ロドリゲス。

この箇所は注目ポイントその2となります。バンドの演奏が入るタイミングが4拍目のウラということを意識して聴いてみてください。

イントロから続くコリーとジャックのフレーズは1拍目の裏から始まっています。さらに、コリーの遊びのフレーズを除くと3拍目4拍目は空白が置かれています。一拍目裏でスタート、3・4拍目が空白というフレーズを積み重ねたうえで、空白が置かれていた4拍目裏でバンドがインするので、聴いているほうはハッとするわけです。「ベイス!」という掛け声と、ベース及びドラムが食って入るまでの無音の間が実にスリリング。怖い話でいうところの「おまえだあ‼︎」というフックみたいなものです。ここはアドレナリンがドバドバ出ます。

テンポの速いタイトな16分音符で構成されたグルーヴはセオの十八番です。そして、ジョーのベース! キックとベースが張り付いているかのような一糸乱れぬコンビネーションはまさに磁石といえましょう。

メインのパートが続き、JBでいうところのブリッジに突入します。16分音符の洪水はここで小休止となり、ギターと鍵盤がジャーンと白玉でコードを鳴らします。ジョーはミネアポリスというより1960年代のモータウン的ともいえるオールドファッションなフレーズを弾きます。

バンドのリーダー、ジャックはアレンジを組み立てる際にメンバーの自発性を大事にするそうです。過去の音楽マニアがアレンジを考える場合、「この曲ではマッスル・ショールズのサウンドを再現したいの! なんでデニチェンみたいなオカズを入れちゃうの! おかしいでしょ!」という調子で時代考証(?)を大切にすることがあるかと思います。ヴルフペックの面々は音楽マニアと言えますが、マニア性に拘泥せずに遊びを楽しむタイプです。フォーマルというよりカジュアル。自分には偏執狂なところがあるので、ヴルフペックの音楽に触れるたびに一層の開放感を感じるのであります。もっと遊んでいいんだ! というように。

この曲には「ライブ映え」する見せ場がいくつもあります。ブレイクでジョーがフィルを入れる箇所(ウッディが笑顔になる箇所)、コリーがモニターを足を載せてソロでカッティングを披露したのち、ジャック、ジョーと続き、3人がビッグ・スマイルでステップを踏む箇所、ジャックが「リトル・ストリングス・セクション」と呼ぶギターとベースの3人だけでトリッキーな絡みをする箇所などです。さらに、こうした見せ場の合間にも、ウッディとジョーイが小粋なオブリガートを入れています。気の利いたフレーズとはまさにこのこと。もちろんリッチー・ロドリゲスも打楽器の連打で盛りたてています。

ところで、ひと月前に『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』を観ました。MCUなどでもよく見られるものですが、チームが機能している戦闘シーンってあるじゃないですか。自分の持ち味を生かしつつお互いにフォローしあって敵と戦うというようなアクションシーンです。こういうシーンを観ると無条件に泣いてしまいます。「Cory Wong」を演奏しているヴルフペックもチームが機能しているので聴いていると涙しそうになります。

現在はコロナ禍を受けてライブを開催するのが困難な状況です。私もバンド活動に従事する身ゆえ、出演予定のイベントが中止になったり延期になったりするといった事態を経験しています。ライブハウスやイベント制作に携わる人は本当に大変な思いをしているはずです。さらに、楽しみにしていたライブに行くことができず、モヤモヤしている方も多いことでしょう。こうした日々が続くとやはり鬱々としてきます。

今回、原稿を書くために久しぶりにヴルフペックのライブ盤を聴きました。このところ、音楽を聴いても大して心が動かない日々を送っていましたが、メンバーと観客の熱気に当てられて、「またこういうことができる日が来ないわけがない!」という根拠のない楽天的な気持ちがかすかに湧いてきました。それがたった1%の希望だとしても持っていなければやってられません。私の場合、それをもたらしたのがヴルフペックが表現する躍動そのものといった音楽だったわけですが、みなさんもそれぞれ一人ひとりが、聴けば楽天的な気分になるような音楽とともにあらんことを心から願っております。


鳥居真道
1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」
Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター」
Vol.8 「ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖」
Vol.9「1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究」
Vol.10「リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察」

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