音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」。第24回は人とのコミュニケーションで考慮されるべき「アサーション」をテーマに、産業カウンセラーの視点から考察する。

コミュニケーションは、人が生きていく上で欠かすことのできないものです。同時にそれがうまくいかない場合にはストレスの元にもなってしまいます。対人関係において、自分の言いたいことを相手とトラブルにならずに伝えることができればストレスも軽減されますが、そのためのスキルのひとつに「アサーション(アサーティブ、アサーティブネス)」があります。アサーションという単語には「主張」という意味がありますが、心理学的には、単なる自己主張ではなく、自分と相手の両方に敬意を払い、相手の立場や権利を尊重しながら自分の言いたいことを率直に表現することです。

何かを主張する行動は、次の3つに分類することができます。1つ目は「受身的行動」です。これは言いたいことがあってもそれを我慢し、相手の言いなりになる行動です。自分の本当の主張は達成できず、不満が残ります。2つ目は「攻撃的行動」です。これは、相手を無視して自分の主張を強引に通す行動です。自分の目的は達成されますが、相手は傷ついたり、不満や怒りを抱いたりして、場合によっては報復されることもあり得ます。そして、3つ目が「主張的行動」です。これがアサーションにあたります。ここでは、相手の権利や立場を尊重しながら、自分の言いたいことを率直に表現します。この場合、自分も相手も傷つけず、自分の目的も達成できます。このときポイントとなるのは「相手の行動を直接責めない」「自分はこのように思うと伝える」「相手が反発する否定的な言葉でなく、肯定的な言葉を使う」ことです。そして「私」を主語にして話します。「あなた」を主語にすると、否定的に受け取られやすいのです。たとえば「あなたは間違っている」ではなく「私の考えは、あなたの考えとは違っています」だったり、「あなたはどうしていつも○○の提出が遅いんだ」ではなく「私は、あなたが早く出来上がると助かります」などといった形です。

このアサーションの考えと行動は、以前も取り上げた公民権運動にはじまります。アフリカ系アメリカ人も白人と同じ権利を持って良いという主張は、それ自体は白人を否定するものではありません。当時全米でアフリカ系アメリカ人は全人口の10数%程度でしたので、自分たちの主張を通すためには多数派の白人たちが動くことが必要でしたが、アサーションの考え方による意見表明によって、運動の支持拡大ができたのです。公民権運動の歌としても有名なサム・クックの「A Change Is Gonna Come」の歌詞も、「私は信じている、私に変化が訪れる」と、「私」を主語にしながら自分の主張を明確に表現していて、アサーション的なものに聴こえます。


 
このように、「言い方を考えること」は大切ですが、その一方で正当な主張や感情表現までも「言い方が悪い」と批判したり、議論せずに抑圧してしまったりすることには、とても注意が必要です。「トーンポリシング」という言葉がありますが、これは、主張の内容よりも言葉遣いや態度を非難して議論をすり替え、相手の発言を封じる手法のことを指します。「言いたいことはわかるけど、そんな言い方じゃだめだよ」「そんなふうに大げさに言うから議論できないよ」などといったやり方です。トーンポリシングは、力の上下関係や差別・被差別のような関係性において「困っている当事者」が「困っていない非当事者」から受けやすいという傾向もあります。更に、トーンポリシングによって「声を上げても変わらない」「世の中はそんなに甘くない」というような「学習性無力感」に繋がってしまう危険性があります。

 アサーションはあくまでも自分の気持ちと本来の自分を大切にして、自分自身の主張をしっかりと伝えるためのものです。アン・ディクソン著の『第四の生き方—「自分」を活かすアサーティブネス』には「11の権利」が提唱されています。

1. 私には、自分の要求を言葉に表し、日常的な役割に縛られない一人の人間として、物事の優先順位を決める権利がある。
2. 私には、賢くて能力のある人間として、‎対等に、敬意をもって扱われる権利がある
3. 私には、自分の感情を言葉で表現する権利がある
4. 私には、自分の意見と価値観を述べる権利がある
5. 私には、「イエス」「ノー」を自分で決めて言う権利がある
6. 私には、間違う権利がある
7. 私には、自分の考えを変える権利がある
8. 私には、「わかりません」と言う権利がある
9. 私には、欲しいものを欲しいと言い、したいことをしたいと言う権利がある
10. 私には、他の人の問題に責任を取らなくてもいい権利がある
11. 私には、人から認められることをあてにしないで、人と接する権利がある

「こんな世の中だから黙っていろ」「不平不満ばかり言うな」「そんなふうに声高に主張するな」などとも言われがち昨今ですが、アサーティブであろうとすることを大事にしながら、私たちは「おかしいものはおかしい」「困っているものは困っている」と、しっかりと主張してかまわないのです。

参照
『第四の生き方—「自分」を活かすアサーティブネス』アン・ディクソン著 監訳 竹沢昌子 小野あかね つげ書房新社


<書籍情報>


手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

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