メジャー/インディー問わず、各レコード会社は現在、アーティストとの契約プロセスの変化に直面している。あるレーベルのA&Rはこう話す。「私は基本的には『勘』に頼るタイプですが、現在の状況下では数字の精査が不可欠です」

アトランティック・レコーズのA&R部門を率いるピート・ガンバーグいわく、アーティストとレコード契約を結ぶことはデートに似ているという。しかし、トゥエンティ・ワン・パイロッツやクリスティーナ・ペリーと契約し、『ハミルトン』『ディアー・エヴァン・ハンセン』『グレイテスト・ショーマン』等のキャストアルバム/サウンドトラックを大ヒットさせた彼が言うには、2カ月前に始まったロックダウンによって、遠方に出向くことやミーティングの開催、そしてライブ会場に足を運べなくなったことで、A&Rという業務はすっかり様変わりしてしまったという。

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アーテイスト&レパートリーの略であるA&Rとは、レーベルにおける新人発掘部署のことだ。アーティストとレコード契約を交わした後、A&Rの人間は作品の制作にも携わることが多く、同部署のスタッフはアーティストの窓口係となって、様々な業務の履行や問題解決に取り組む。「レコード契約の基本のひとつは、アーティストとの個人的な信頼関係の構築なんです」。ガンバーグはそう話す。

A&Rを仕切る人々の多くは、アーティストと直に接することなくレコード契約を交わすことの難しさを訴えている。「新規契約アーティストの数は明らかに減っています」。そう話すのは、トラヴィス・スコットやマライア・キャリー、オジー・オズボーン等を擁するエピック・レコーズのA&Rを率いるエゼキエル・ルイスだ。「新人発掘は継続していますが、隔離生活が続く中で誠実なアーティスト育成に取り組むことは困難です。レーベルの資本を新人に注ぎ込むにあたっては、感触というものが不可欠です。最善の選択肢がZoomでのビデオ通話である現在、A&Rのプロセスはより慎重になり、あらゆることを精査する必要があります」

アーティストを業界の中心地であるニューヨークやロサンゼルスに呼び寄せてもてなすというやり方は、この業界における常套手段だ。「パートナーとして相応しいとアーティストに感じてもらえるよう、私たちはできる限りのことをします。個人的にどうしても契約したいアーティストであれば、当然ながら力が入ります」。そう話すガンズバーグによると、ポップミュージックにおけるアーティストとの新規契約の動きは鈍化しているという。


ロック系アクトとの契約は減少傾向にある

今年の上旬、アトランティックはTeddy Swimsというアーティストとの契約を検討していた。結果的に彼は同社の姉妹レーベルであるワーナー・レコーズと契約したが、アトランティックは彼を迎えるために多くの時間と労力を割いたという。「ジョージア州出身の彼は、テディベアのような巨体で顔にタトゥーを彫っているんですが、ものすごくゴージャスな声の持ち主なんです」。ガンズバーグはそう話す。「ボニー・レイットの”夕映えの恋人たち”のカバーがバイラルヒットして、誰もが彼に夢中になりました。私たちは彼をニューヨークに呼び寄せたのですが、直に会ってますますファンになりました」



Swimsとガンズバーグはどちらもミュージカルの大ファンであり、「ダンスの最もロマンティックなパートのような親密さ」を互いに感じていたという。「彼はミュージカルが大好きで、私はアトランティックで数多くのミュージカル作品を手がけています。『君はどれくらいの頻度でこの街に来るんだい? せっかくニューヨークにいるんだし、ショーでも観に行ったらどう?』。私がそう持ちかけると、彼はこう答えました。『もちろん! 喜んで行かせてもらうよ』。『ハミルトン』だったか『ディアー・エヴァン・ハンセン』だったか忘れましたが、私たちが音楽を監修したどちらかのショーに彼を招待しました。確か母親を連れて行ったと思うんですが、ショーを堪能したようでしたよ」

レーベルについて知ってもらう上で、アーティストと直に会って話すことは大切だとガンズバーグは話す。彼はいつもアーティストに本社を案内し、ロックの殿堂の創立に尽力したアトランティックの共同設立者アーメット・アーティガンに寄贈された賞のことなど、同社の歴史に触れてもらうようにしているという。またアーティストが辺鄙なところに住んでいる場合には、A&R側から出向くことも珍しくない。

人と直に接する機会が失われている現在、アトランティックは契約を検討しているアーティストたちとビデオ面談を行っている。しかし結果として、契約成立のハードルは高くなってしまっているという。

特に苦戦を強いられているのがロックバンドだ。「売りにしている面はアーティストによって異なります」。ルイスはそう話す。「中にはライブを最大の魅力としているアーティストもいます。そこに重点を置いていない人もいますが、ロック系アクトとの契約が減少傾向にあるのは、おそらくライブを売りにしているケースが多いからでしょう。今後しばらく、そういうアーティストはレコード契約の獲得に苦労するでしょう」

またルイスはレコード契約の締結プロセスと契約内容について、現在の状況を反映したものに「自然と変化していく」はずだとしている。「私自身が1作品限りの契約を交わしたわけではありませんが、もしこの状況が長引くのであれば、様々な条件や市場の動きに柔軟に対処する必要が出てきます」。彼はそう話す。「自分の要望を提示するだけの実績と数字を既に残しているアーティストの中には、長期的な契約を望まない人もいるかもしれません。短期的なディールが双方にとって有益だというケースは出てくるでしょう」

エピック EVPのA&Rであり、ルイスの同僚でもあるジョーイ・アービジーはこう付け加える。「私は基本的には『勘』に頼るタイプですが、現在の状況下では数字の精査が不可欠です。潜在的なリスクをも見極めようとするようなアプローチは、普段の私のやり方ではありません」


インディーレーベルはメジャーよりも有利?

新人発掘の大半がオンラインで行われる現在でも、アービジーを含むA&Rの大半は、日常生活の中で偶発的に才能あるアクトと出会い、鍛え上げたその嗅覚が反応するというシナリオを好む。前者を出会い系アプリに例えるなら、後者はスーパーでのロマンチックな出会いのようなものだ。「あるクルーズ船でのチャリティーイベントに参加したときに、私はAJ・ミッチェルの演奏を偶然耳にしました」。アービジーはそう話す。「そういった形での出会いは今でもあります。真のマジックはそういう運命めいた出来事から始まる、私はそう信じています。あの場では誰も彼に関心を払っておらず、レコード契約のことなどまるで頭にないようでした。私が彼と契約を交わしたのは約10カ月後で、その時点では誰もが彼に注目していましたが、私たちは既に信頼関係を築いていました。クルーズ船で出会った翌週の月曜に彼が私のオフィスを訪れて以来、私たちは毎日会話を交わしていたんです」

言うまでもなく、現在レコード会社が直面しているのはレコード契約の問題だけではない。ガンズバーグによると、多くのレーベルの重役たちは現在、新規アーティストとの契約後にすべきことを実施できずにいるという。「ショーケースイベントの開催、ラジオ出演、ローリングストーン誌本社での取材など、できないことばかりです」。彼はそう話す。「今は何もかもがバーチャル空間で行われています」

ルイスは楽曲制作のプロセスについて、「リモートレコーディングへとスムーズに移行できたのは、一流中の一流とされる人々だけ」だとしている。アーティストを支えるチームのメンバーたちは、普段のように小さなスタジオに集まって仕事に取り組むことができずにいる。中堅クラスのポップ系アクトたちはプロ用機材の導入やサポートを得られるだろうが、それでも既に自宅にホームスタジオを構えているビッグスターたちのようにはいかない。「彼らは早急に、遠隔作業でのヴォーカル録音のノウハウを知り尽くしたプロデューサーを見つけなくてはなりません」。ルイスはそう話す。「スタジオがどこも閉鎖している今、彼らに必要なのは人材ネットワークです」

アービジーが所有するホームスタジオでは、クローゼット内に吊るしたブランケットの前にマイクを設置し、レコーディングにやってくるアーティストがオフィスの通用口から入れるようにしているという。「状況に応じてアレンジできるようにしているんです」。彼はそう話す。

大規模なA&Rチームを持たないインディーのアーティストたちは、より柔軟な姿勢を見せている。自身のラップトップだけで作業を完結させるアクトも多く、TuneCoreやVydia、CD Baby、Soundrop、United Masters、Ditto等のDIYプラットフォームでは需要が軒並み増加しているという。

インディーレーベルもまた経営方針の変更を迫られているが、大企業のように膨大なタスクを抱えていない分だけ、契約や作品のリリースにより柔軟に対応することができている。

「私たちは精力的に稼働し続けていて、最近ではEvann McIntoshと契約したことにとても興奮しています」。そう話すのはコートニー・バーネットやトム・モレロ、スリーター・キニー等を擁するMom + Popの創立者兼共同オーナーのマイケル・ゴールドストーンだ。「ものすごく才能に恵まれた彼女はカンザスに住んでいるのですが、会いに行く直前にロックダウンが始まってしまったため、私たちはまだ対面できていないんです。私たちはこれまで通り、自分たちの美学に沿って積極的にレコード契約を結んでいくつもりです。A&Rのプロセスが変わるなら、それに順応するだけです」



ゴールドストーンはさらにこう付け加える。「そういった過程において、インディーであることが有利だということは確かです。あらゆる決定を自身で下せるわけですから」

時間に余裕ができたガンズバーグは現在、より多くの音楽を聴き、前向きであり続けているという。「アーティストたちは音楽を生み出し続けています。それを聴いて契約の可否について判断するという、私たちの仕事は変わりません」。彼はそう話す。「そう遠くないうちに新しいアーティストと契約を交わすでしょうが、当然クオリティを求めます。アーティストとレーベルが相思相愛になるまでの過程が、今後はバーチャル空間で行われるというだけのことです」