9月25日発売の音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan vol.12」。特集「音楽の未来」では、国内外の事例を紹介・分析しながら、最先端のテックやプラットフォーム、メンタルヘルス、教育や価値観など、様々な角度から音楽文化にとっての”よりよい未来”を探る。ここでは同特集より、ジェイコブ・コリアーのインタビュー(抜粋)を先行掲載。パンデミックでライブの制限が続くなか、ミュージシャンが活動を持続させ、クリエイティビティを発揮するための方法とは? 聞き手はジャズ評論家の柳樂光隆。

魔法のように高度な音楽理論と、突拍子もないアイデアを組み合わせてしまうジェイコブ・コリアー。アカペラの多重録音に楽器演奏も自らこなし、ベッドルームからのYouTube配信で名を馳せた彼は、ここ数年で世界観を広げるように大物たちとコラボを繰り広げ、ジャンルを超えた快進撃を見せてきた。それはコロナ以降も変わらず、最新アルバム『Djesse Vol.3』を発表し、いくつものリモート・ライブを実施。自宅に籠っているとは思えないアクティブさで話題を提供し続けている。この状況下に「音楽の化身」は何を考えていたのか。


ジェイコブ・コリアー
1994年生まれ、ロンドンを拠点に活動中。様々な楽器を操るシンガー/作曲家/プロデューサーとして、2度のグラミー賞に輝いている天才マルチ・ミュージシャン。2011年から多重録音のアカペラと楽器演奏による動画を自宅のベッドルームからYouTubeで配信すると、クインシー・ジョーンズの目に留まり2016年にデビュー。一躍スターとなり、ハービー・ハンコック、ハンス・ジマー、ファレル・ウィリアムスなどと共演/コラボを果たす。


―もともと『In My Room』(2016年の1stアルバム)で活動していたあなたはそこから飛び出して、『Djesse』プロジェクトで誰も見たことがない壮大な世界を描いてきました。それがCOVID-19により移動が制限され、また『In My Room』に戻らなければならなくなった。でも、最近の活動を見ていると、ロックダウンで家に閉じ込められているのに、なぜか不自由そうに感じなかったんですよね。

ジェイコブ:その通り。人生で初めてツアーに出て、それにようやく慣れてきたところで、今度はまた部屋に戻れと言われ、とても不思議な感じだった。でも、このロックダウン期間はやり忘れていたクリエイティブなことに取り組む良い機会になったんだ。僕の中にはやりたいことはいっぱいあって、でも一日中走り回っている時は座って頭で考えるだけで、実行できなかった。今はすぐに実行できるんだ。

―まず最初に何をしたんですか? イギリスでは3月23日からロックダウンが始まったと思いますが。

ジェイコブ:欧州/USを廻る10〜11週間のツアーが始まることになっていて、3月27日からリハの予定だったけど、すべてキャンセルになった。『Djesse Vol.3』は当初3月末にリリースする予定だったけど、最終的には8月まで時間をかけて完成させることができた。僕としてはミキシングやプロデュースに十分な注意を払うことが出来たし、さらに新曲を書き、大好きなコラボレーションも追加できた。それはすごくありがたかったね。他にもNPRの「Tiny Desk (Home) Concert」や、Jimmy KimmelやJules Hollandといった番組のためにビデオを作ったり、マスタークラスで教えたり、『TED』用に家から生配信したり、音楽を作ったり……いろんなことを考えて、いろんなことを楽しんだよ。


2020年7月、米公共ラジオ局NPRの「Tiny Desk (Home) Concert」に出演。ロンドンの自室から、4人のジェイコブによる多重演奏が届けられた。

今日のテクノロジーがあれば、人は一つになって音楽を作れる

―ロックダウンの期間は練習や研究、実験をする時間にもなったのでは?

ジェイコブ:そうだね、再び本来の意味で音楽を作ることが出来たのは良いことだった。ある段階まで行くと、音楽を仕事としてやることになってしまう。ツアーをして、ステージで演奏して……でもアルバムの完成後は、仕事というのを抜きに、ただ楽器を演奏して実験する時間が持てているよ。それって僕が世界で一番好きなことだったのに、ここ何年もやれていなかったんだ。

―この期間に何か新しくマスターしたことはありますか?

ジェイコブ:ひとつはサウンドを作ることーーミックスしてプロデュースすることーーに関して、上達したんじゃないかな。それは『Djesse Vol.3』にも反映されているはず。これまでは実際のサウンドよりも音楽(music)に意識が行ってたけど、今回は音楽の中のサウンドということを考えた。つまり音楽をinternalize(内在化)し、「このサウンドをどう感じさせたいか」「このサウンドはどこに配置されたいのか」というようにね。要するに、”サウンドが作る宇宙全体”に関心が向くようになった。もうひとつは演奏自体をする時間が増えたこと。特にドラムとベースとピアノ。これまでは曲を書いている時、「ちょっとベースで試してみよう、ここはピアノで試してみよう」という風に「ついでに」弾くものだった。でも今は、ちゃんと一つの楽器に向かい、好きなレコードに合わせて弾いたり録音したり……それが演奏の上達につながったと思う。うまくなるには、継続的にやらなきゃダメだってことだね。

―リモートでのライブをいくつかやっていましたね。まだ不十分なテクノロジーを使って、試行錯誤しながら、リアルタイムの遠隔セッションを試みた理由を教えてください。

ジェイコブ:いま、やりたくてもやれないことの一つが、他のミュージシャンとのジャムセッションだ。クリス・マーティン(コールドプレイ)、ダニエル・シーザー、トリー・ケリー、JoJoなどとセッションを行なったけど、イージーではなかった。まずは何より、物理的に離れていることの違和感だよね。もう一つの問題はインターネット上で通信のレイテンシ(遅延時間)が0.5〜1秒くらい発生してしまうこと。そこでセッション中は、僕が頭の中で誤差を修復しながら、つまり常に0.5〜1秒の”未来で”演奏するようにしたんだ。つまり、相手が僕のちょっと後、もしくは前から入ってくると想定し、オーディエンスから聴いてシンクロした状態にするんだよ。

#TogetherAtHome with @coldplay s own stratospheric Chris Martin, live on Instagram yesterday evening! The full video is over on IG, if youd like to dive upon it. @GlblCtzn @WHO pic.twitter.com/pW5TUEhGSj — Jacob Collier (@jacobcollier) May 8, 2020 インスタライブで実現したクリス・マーティンとの共演。ジェイコブはピアノも演奏。

―それはすごい(笑)。

ジェイコブ:今日のテクノロジーをもってすれば、人は即座に一つになって音楽を作れる。たとえ何千キロ離れていようと。『Djesse Vol.3』のコラボレーションの多くもリモートで行った。例えばタイ・ダラー・サイン、マヘリアとの「All I Need」もそう。タイ・ダラーはLA、マヘリアはロンドンからーー彼女は僕の家からそう遠くはないんだけどーートラックを送ってくれて、それを僕の自宅のこの部屋でミックスした。

キアナ・レデとの「In Too Deep」の場合は、LAのキアナの家に録音用のマイクを送り、彼女のコンピューターにあるプログラムをインストールして、リモートデスクトップで遠隔操作できるようにした。録音は僕も彼女もクリック一つでリアルタイムで行なえて、それが僕のスピーカーから聞こえる。実際は何マイルも離れているのに、まるで彼女がすぐ隣にいるみたいに一緒にセッションを行ない、音楽を作れるんだからすごいことだよね。これまでもオーケストラ、ロックギタリスト、R&Bシンガー、クワイアなどとやって来たけど、このアルバムは世界中のアーティストとリモートでもこれだけやれるんだってことが証明出来た一作になったね。


2020年5月、TV番組「Jimmy Kimmel Live」で披露された「All I Need」のリモート・パフォーマンス。ジェイコブは自宅のバスルームで演奏、タイ・ダラー・サインとマヘリアが鏡越しに共演。

クラウドファンディングの可能性ー技術と情熱、やさしさを共有する意味

―あなたはクラウドファンディング・プラットフォーム「Patreon」も活用していますよね。

ジェイコブ:今の時代、ファンとアーティストの間に距離はそこまで必要ないんだ。20年前はアーティストが音楽を作ったあと、レーベルに提出し、それがパブリシスト経由で雑誌に載って、ようやく個人に届いていた。今はアーティストは個人に直接届けられるし、その逆もありだ。Patreonはまさに21世紀型インターアクションとファンドレイジングの形だと思う。しかも段階がいくつかあって、遊びの要素もあるので、これまで以上にアーティストとファンの関係は密になる。僕のPatreonにいるのはかなり熱心なファンばかりだから、彼らにはとっておきの特典をつけるんだ。Zoomでのファンミーティングを月に一度やって曲を演奏したり、彼らの質問に答えたり。「Logic Session Breakdown」というのもあって、そこで『Djesse Vol.3』の曲を解説したり、そういうことを実現出来る場があるのは素晴らしいことだね。

今、世界中のミュージシャンが稼げなくて苦しんでいる。ミュージシャンの多くはライブ・パフォーマンスが主な収入源だから。僕は想像力を働かせて、それに代わる別の方法を考えたいんだ。音楽を作り続け、このライフスタイルを持続させるためにもね。でも、より大切なのは人とつながること。音楽にできることがあるとしたら、世界を一つにすることだ。ロックダウンだからと言ってそれができなくなる必要はない。


Patreon(パトレオン)は2013年、米サンフランシスコで設立されたプラットフォーム。2020年9月現在、20万人のクリエイターと600万人のユーザー(パトロン)が登録し、年間の総支援額は10億ドル(約1060億円)。アーティスト第一主義を掲げ、ファンとコネクトしながら長期的に活動できるよう、一括課金型ではなくサブスクリプション型を採用している。

―ライブの収入が絶たれたバンドメンバーやスタッフのために、自宅から一人楽曲制作する様子を8時間ライブ配信して、1日で31000ドル(約330万円)をクラウドファンディングで集めたりもしたそうですね。そこでもPatreonを活用したみたいですが、そのことについて聞かせてください。

ジェイコブ:実は2016年にも、『In My Room』のレコーディング費用をすべてPatreonでまかなったんだ。Patreonを使ったのはその時が初めてだった。そして「#IHarmU」というキャンペーンを始めた。アマチュアやプロのミュージシャンを問わず、世界中のファンに15秒のメロディを送ってもらい、今座ってるこの椅子に座りながら僕がそこにハーモニーを乗せ、それを何人ものジェイコブが歌って演奏するのをビデオにしてSNSにあげたんだ。最終的に130くらいのメロディが送られてきて、数年越しで70くらいにハーモニーを付けた。『In My Room』はお金を僕に払ってくれたファン全員によって作られた、とてもクールなプロセスだった。

しかし、まだいくつかのメロディが残ったままだったので、それを利用して何か助けることは出来ないかと考えた。そこで8つのメロディを次々と、全くの無音からフルのハーモニーまで重ねる様子をYouTubeで生配信したんだ。大変だったけど、楽しかったよ。今、バンドやクルー達には収入がない状態なので、彼らへの募金を募ったんだ。ツアーに出る予定で仕事を約束していたから、それが叶わなくなり、わずかでもお金を彼らに渡すのは僕の責任だと感じた。思っていた以上に、みんなからのやさしさを受け取れて、少しでも友人達のためにお金を集められて満足しているよ。


2016年に公開された「#IHarmU Vol. 1」にはジェイミー・カラムも参加。


2020年5月、1日で3万ドル以上の寄付を集めた「#IHarmU Epic Marathon」の様子。

―先ほど話していた「Logic Session Breakdown」は、自身が作った楽曲のLogicの編集画面をシェアして、ソフトの仕組みを解説するというもので、1年くらい前にスタートしましたよね。どういう意図で始めたんですか? 

ジェイコブ:僕は自分のアイデアや、曲の仕組みや音楽一般について説明するのが好きなんだ。音楽ってすごく面白い言語だからね。よく「このクレイジーな音はどうやって作っているの?」という質問がくるから「じゃあ、それに答えよう」と。普段から家の中にある変なモノを使った音だったり、ツアー先で携帯に録音したーー飛行機の音とか人が歩いてる音とかーーそういった音はすべて曲の一部になるから。

そうやってクリエイティブになるためのドアをたまに開けて中を見せて、何があるかを話すのはとても面白い機会じゃないかと思うんだ。誰もがクリエイティブになるという意味でね。見た人が「どんなものを使ってでも音楽が作れるんだな」と驚いたり、インスピレーションを受けるのを見ると、僕も嬉しくなる。正式な音楽教育を受けてなくても、何かのエキスパートじゃなくても、アイディアを実現させたい気持ち、それが変化を起こしている過程を見る気持ちがあれば、それでいい。「Logic Session Breakdown」がそれを証明してると思う。

僕は何か特定の楽器の達人というわけではない。ただ、絶対に結果を出してみせると決めているんだ。あと、自分の気持ちに寄り添うものを追求することに関しては完璧主義者だ。それを説明すると、リスナーの音楽の聴き方自体が変わるみたいだよ。僕の音楽に対してもね。

―そんなふうに手法がシェアされることで、みんな大きな学びを得ていると思います。そして、あなたはPatreonを介し、スキルをシェアすることから収入を得ると。

ジェイコブ:これまでとは違うお金の生み方だけど、僕にはすごく理にかなっていると思えるよ。



第62回グラミー賞で「最優秀アレンジメント インストゥルメンタル/アカペラ部門」に輝いた「Moon River」のMVと、「Logic Session Breakdown」の一環で同曲について解説した動画。


※インタビューの続きは「Rolling Stone Japan vol.12」に掲載



『Djesse Vol.3』
ジェイコブ・コリアー
Hajanga / Decca / ユニバーサルミュージック
配信中
視聴リンク:https://jazz.lnk.to/JC_Djesse3PR


「Rolling Stone Japan vol.12」
発行:CCCミュージックラボ株式会社
発売:株式会社ネコ・パブリッシング
発売日:2020年9月25日
価格:1100円(税込)
※全国の書店、ネット書店、CDショップなどで販売

特集「音楽の未来」

◎WONK
密着取材で迫る、未来的バーチャルライブの舞台裏

◎King Gnu
混沌に満ちた2020年に届けたライブ表現

◎常田大希(King Gnu / millennium parade)×江﨑文武(WONK / millennium parade)
スペシャル対談「よりよい未来のために語ったこと」

◎インタビュー
宇川直宏(「SUPER DOMMUNE」主宰)
アンソニー・マチェット(VR音楽アプリ「MelodyVR」CEO)
ジェイコブ・コリアー
ヌバイア・ガルシア

◎コラム
「メンタルヘルス問題から考える、産業から解き放たれた音楽の役割」(若林恵)
「これからの音楽を支える、テックとコミュニケーションの新しい形」(辰巳JUNK)
「ヒットを量産するTikTokの裏側」(Ethan Millman)
「ベルリンと音楽文化、『特別な夏』の記憶」(冨手公嘉)

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