朝のまちは、においに満ちている。しっかりとだしを取った、みそ汁のいい香り。きっと丁寧に家事をこなす方なのだろう。炒めものや揚げものの濃いめのにおい。食べ盛りの子どものお弁当かな。おや、もう灯油ストーブのにおい。高齢のお宅だろうか。まだお休み中なのか、何もにおってこない家もある◆外からはわからない家庭の内実が、においにこもっている。右に左にくんくん鼻を鳴らして歩けば、なんだか犬になったよう。においの誘惑がこんなに多い世の中だもの、行方不明者の捜索中、逃げ出した兵庫県警の警察犬クレバの気持ちもわからないではない◆日本では「嘘ついたら、針千本飲ます」と指切りをするが、中国では「嘘ついたら、犬になる」と屈辱的。米国では大統領選の「犬笛戦術」がひんしゅくを買った。犬にしか聞こえない笛のように、特定の支持者に訴えかけ人種差別をあおる。険悪な両大国でこうなのだもの、犬の扱いはちょっと気の毒◆見えないものをかぎわけ、聞こえないものを理解する。犬たちは人間が気づかない変化も敏感に察知している。各地でクマの出没が伝えられ、山の荒廃が進んでいる。手綱をふりほどいて走った先に、一刻を争う探し物があったのかもしれない◆なあクレバ、君には何が見えたんだい? 答えを聞くのは怖い気もするけれど。(桑)