高齢者のみならず精神障害者、身体障害者や、薬物、アルコール中毒患者など生きるために社会の支援を必要としている人は数多く存在します。基本的にはともに暮らす家族が支援することが望ましいのですが、家族介護には限界があります。今回は、2020年3月に埼玉県で成立した「ケアラー支援条例」の内容と合わせて、介護者に起こるリスクについて考えてみたいと思います。

無償の介護者「ケアラー」に対する支援の必要性

2000年に介護保険制度がスタートしたことにより、認知症や病気によって体に不自由のある高齢者でも介護サービスを受けながら安心して暮らしていける仕組みが定着してきました。ところが、有料老人ホームは費用が比較的高額であることから誰でも入居できるわけではなく、公的な機関により運営されている特別養護老人ホームも、入居待機者が数百人を超える地域があるなど、介護保険サービスも福祉として正常に機能しているとは言い難い側面もあります。

このような場合、自宅で共に暮らす家族がケアをする在宅介護を選ばざるを得なくなります。満足に介護サービスを受けられず、やがて家族介護の負担が増大していくと、今度はケアにあたる家族の社会的孤立が浮き彫りとなってきます。

先の見えない介護に対し、不安や疲労から介護者自身がうつ状態や病気になってしまうケースや、介護のために仕事を辞めなくてはいけなくなるケースなど、さまざまな問題が起こるようになりました。そして介護に割かれる時間が増えるほど、趣味や習い事などリフレッシュするための時間が削られ、ご近所や友人と会っておしゃべりするなど人間にとって大切な"社会とのつながり"が持てなくなってしまうのです。

このような状況を防ぐため、2010年に日本ケアラー連盟が創設(翌年に法人化)されました。同連盟によると「ケアラー」とは、「こころやからだに不調のある人の『介護』『看病』『療育』『世話』『気遣い』など、ケアの必要な家族や近親者、友人、知人などを無償でケアする人」と定義しています。決して介護だけでなく、日常的な見守りや声かけも含まれる内容です。それだけに家族だけにとどまらず、コミュニティを形成するすべての人が「ケアラー」と定義されるのです。

日本ケアラー連盟では、介護者が抱える悩みを一家庭の中だけでなく社会問題として認識し、将来的に介護に携わる可能性のあるすべての人たちが手を取り合って、共通の課題として社会の仕組みを改善していくために活動を続けています。

晩婚化による若年代ケアラーの増加と社会的リスク

家族介護と言えば、通常は家庭の主婦がおこなうイメージが強かったのですが、近年は女性の晩婚化に伴い、若年代が担うケースも増えてきています。総務省が2012年に調査した「就業構造基本調査」によると、介護をしている若年層(15〜29歳)は約17万7,600人に達するとの報告もありますが、現在ではさらに増加している可能性もあります。

上記の場合、母親(主婦)に代わり子どもが祖父母の介護にあたるケースも考えられますが、高齢出産をした家庭では、実の親の介護を未成年の子どもがおこなうケースも考えられます。また、核家族化や少子化によって、一人っ子が年老いた両親の面倒を同時に見るという、非常に負担の大きい介護を強いられるケースも増えてきています。

こうなると、介護に時間を割くため、学校を休んだり早退したりする日数が増え、学業に悪影響を及ぼします。部活動を辞めなくてはならず、放課後や休日に友だちと遊ぶ大切な時間も削られてしまいます。そればかりでなく、経済的な事情も重なり進学をあきらめなくてはいけなくなることも考えられ、今後の長い人生に大きく影を落とすことも十分に考えられます。

高校時代に、自営業を営む父親の介護にあたっていたある男性は、家業の手伝いもやらなければならず、本来校則で禁止されている自動車の運転免許の取得を学校に頼んで認めてもらい、在学中に取得しました。ただし、教習所に通うために学校を早退する日が増え、大学進学は苦労したようです。

介護のために就職しないでいると、「あの家の子はいい年をして働く気がない」という世間の目にさらされることもあります。その後、親の死別や施設入居が決まり働けるようになった場合でも、「この年齢まで仕事もせず何をやっていたんだ」という目で見られ、就職に不利となることも考えられます。このように若年代ケアラーに対する社会の無理解も意識改革していかなければなりません。