<特集:広報の上手下手で実績は変わる> 20年の「鎖国」を経て「開国」した関東学院大学 広報と社会連携がもたらしたその効果

<特集:広報の上手下手で実績は変わる> 20年の「鎖国」を経て「開国」した関東学院大学 広報と社会連携がもたらしたその効果

江戸時代、200年以上も鎖国を続けてきた日本。開国後、本格的な貿易が開始された横浜で、数年前までの20年間、「鎖国」を続けていた横浜の大学がある。外へ情報発信する広報と外とのつながりを構築する社会連携のことだ。しかしあることがきっかけで自ら「開国」に転じ、わずか数年で見違える効果を打ち出している。

(本誌編集長 山口泰博)

 

わずか18年で志願者が8割減

1万人以上の学生を抱える関東学院大学(神奈川県横浜市金沢区)は、理工、建築・環境、社会、法学、経済、経営など11学部を擁する総合大学だ。ラグビー部の大学選手権10年連続決勝進出記録や箱根駅伝6回出場の常連校という実績から「スポーツ先行の大学」というイメージが強いかもしれない。事実、同大学の調査でもこの二つが突出していた。しかしスポーツ先行型の認知度は、大学を志願する要因にはならないという。 

1991年度の同大学志願者数は3万7000人。その年をピークに、2009年度には7,500人にまで、坂道を転げるように落ち込んだ。わずか18年で8割も減ったことになる。これには衝撃を禁じ得ない。こんなに落ち込むことがあるものなのかと率直な疑問をぶつけると、「この落ち方は日本記録に近いと思います」と安田智宏広報課長は自嘲気味に言った。

 

「鎖国」で失われた20年

1990年代から2000年代後半までのおよそ20年間、関東学院大学では交際費、交通費、広告費を「無駄の3K」として、その失費を認めなかった。その学内方針の下、組織的な広報部門は設置されず、2〜3人でほそぼそと対応していた広報不遇の時代がある。それはバブル崩壊からリーマンショックまでの経済低迷期と、志願者が急激に落ち込んでいった時期とも符合する。

 同大学はプラスチックにめっきを施す技術の草分けで、材料・表面加工では実績がある。「材料・表面工学研究所」は永続的に産学連携を実践してきた優等生だ。しかし、志ある研究者が個人的に産学連携活動を行ってきたものの、広報と同様、大学の第3の機能ともいうべき社会貢献(ここでは主に社会連携、地域連携、産学連携を指す)に組織的に取り組む部門がなかった。そのため、社会(行政や企業、地域住民など)との接触(渉外活動)はなく、学外と大学をつなぐ広報および社会連携(地域連携・産学連携含む)は機能せず、およそ20年にわたり「鎖国」状態だった。「関東学院の“失われた20年”」といえよう。その機会損失はボディブローのようにじわじわと効き、内部への損傷は志願者数の激減という形で現れたのだ。

 

広報部門の拡充

そこで、経営陣が変わったことを機に大転換を図る。2010年ごろから、大手広告会社に勤務するOBの力も借りて、大学として外部に情報を発信する組織を模索し始める。人的かつ金銭的に投資しない経営方針だった広報そのものの機能や役割について、まずは大学内部に理解を求めることから始め、外部へもアクセスを求めていった。当然のことながら、メディアはもとより地元の行政、地域の企業などとのパイプはなく、コネクションを作るためにどこにでも顔を出した。 

神奈川県の大規模私立大学といえば、神奈川大学(横浜市神奈川区)と関東学院大学だ。また学生の出身地域を見ると、東京と神奈川でおよそ65%を占める。にもかかわらず都内のメディアではまったく知名度がなかったという。そこで、全国紙のうち1紙に絞り広告費を捻出し、プロモーション活動を実施。まずは記者に大学の名前を知ってもらわないとリリースさえ読んでもらえない。「名もない大学」が名前を売る努力を重ねた結果、メディアに取材されることも増えた。今では広報不遇の頃より倍以上に増員し、兼務込みで9人の体制となった。現在、広報課は経営企画部の直下に置き、学生募集と広報を担当する重要なセクションであり、企業でいうマーケティングや広報・渉外、宣伝、販売促進に相当する仕事を一手に引き受けるまでになった。その努力は数字にも表れ、底を突いていた志願者数は徐々に持ち直し、2018年度は1万4530人までに回復。まさに地の底から這い上がった瞬間だ。

 

社会連携センターを設置

前述したように、関東学院大学には、組織として社会連携に取り組むための窓口となる部門がなかった。安田課長は「外部資金獲得に対して疎い学内文化がありました。個人研究費もある程度大学が負担していたので、外部に取りに行かなくてもよかったのです」と明かしてくれた。社会連携に積極的でなかったことがうかがえる。 

だが、2014年以降、一気に方針を変えて組織的に社会連携に取り組み始めた。きっかけは、2013年度の「地(知)の拠点整備事業(COC)」の応募だ。応募資料には、横浜市の理解を得た上で市の押印も必要となる。しかし、横浜市にキャンパスを置きながら、当時は市とのパイプさえなかった。その時は採択に至らなかったが、地域社会との関係の希薄さを問題視し、社会連携を組織的に推進する方向へ全学でかじを切った。そして2014年、地域社会との窓口として「社会連携センター」を設置。その事務組織の社会連携課は広報課と同様、経営企画部直下に置いた。初年度には100件を超える相談が寄せられ、予想以上の反響に組織力の重要性を痛感した。

 

広報と社会連携 両輪の効果

社会とのつながりが限定的になりがちな大学において、広報課と社会連携センターが常にタッグを組んで、相互にコミュニケーションを図りながら地域の企業や自治体などと連携を図れるようにした。その効果は大きく、広報課も直接接する企業の業種や機関が飛躍的に向上した。 

例えば2016年には、少子化や人口流出、地場産業の衰退エリアの定住・交流人口の向上などを目的に立ち上げた「三浦半島地域活性化協議会」は、かながわ信用金庫、神奈川新聞社、関東学院大学、京浜急行電鉄、三浦商工会議所、横須賀商工会議所、横浜市立大学が協力し三浦半島地域の活性化に向けた活動コンソーシアムだ。さらに2017年4月には10社の企業サポーター(アーバン・コーポレーション、KADOKAWA、京浜急行電鉄、中外製薬、野毛印刷社、博報堂、毎日新聞社、三菱東京UFJ銀行(現 三菱UFJ銀行)、モスフードサービス、相鉄ホテル「横浜ベイシェラトン」)による社会連携教育プラットフォーム「K−biz」を組織した。ビジネスプランをグループワークによって構築するPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)で、企業と密接に連携したプラットフォーム教育に成長しつつある。このほか、神奈川県内の10自治体の首長が1科目ずつ担当する地域創生特論科目群も設置し、独自性を打ち出す。これら社会連携センターの活動に広報課が関わることで、同課だけでは得られない日常的なマーケティング活動に役立つ重要な広報情報を得られ、情報発信が質的に変化した。 

このほか、自然科学や人文・社会科学などの視点から防災対策を研究する「防災・減災・復興学研究所」は、「平成29年度私立大学ブランディング事業」に採択され、規矩大義学長が自ら所長として攻めの姿勢への転換を図っている。

 

「開国」から8年

JR横浜駅から、桜木町、関内、石川町、山手の各駅の路線付近は、みなとみらい地区、中華街やそのほかの飲食店、ファッション、行政機関などが集まる商圏の中心だ。一方、その中心からおよそ15km離れた関東学院大学金沢八景キャンパスと金沢文庫キャンパスは、駅が隣で同じエリアの立地のため、商圏が重複し社会連携教育や活動が限られてしまうというデメリットを抱えていた。

 そこで、2022年4月、JR関内駅(横浜市中区)近くの横浜市教育文化センター跡地に新キャンパスの開設を計画している。少子化対策と、大学の授業により多くの地域と連携し、社会連携教育を取り入れるためでもある。地上17階・地下1階の建物の下層階は市民が利用できる施設にして地域に開放、社会連携や広報部門も置く。 

社会連携センターと広報の活動にも、地の利の良さが有利に働く。「全国紙の横浜支局にリリースを持っていき取材を頼んだ際、金沢八景は遠いからと断られたことがあります。企業との連携には交通至便な商圏の中心が有利ですから」と安田課長は当時を振り返りながら神奈川県内での「都心回帰」の必要性を訴える。続けて、「社会連携や産学連携活動は、本学を知らない人たちに知ってもらう機会で、広報活動に似ています。しかし広報視点では、総合大学なのでトータルイメージを統一していくのが一番の課題です」と、特色をどう打ち出すか苦慮しているという。 

2017年に小田原キャンパスの法学部を金沢八景キャンパスに移し、関内キャンパス(仮称)には、金沢八景キャンパスの社会科学系の学部を移転する。県内4カ所になるキャンパスの再編を図ろうとしている。 

広報課立ち上げから7年、社会連携センターは4年目だが、今では年間300件以上の相談が寄せられ、地域から頼られる存在になった。広報と社会連携の取り組みは緒に就いたばかりだが、経営を左右する部門に成長しつつある。

(産学官連携ジャーナル 2018年9月号)


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