<人(ひと)> 美しすぎる短大教授は、博士課程の大学院生

<人(ひと)> 美しすぎる短大教授は、博士課程の大学院生

アカデミアではあまり見かけない異能なオーラを放つ短大教授がいる。さらに学生、パティシエの顔も併せ持つ。「人生で今が最も大変でつらいが、障害がある方が得るものも多い」と、積極的に外へ出て、自治体や企業などと地域や産業界との連携を実践している。

(本誌編集長 山口泰博)

 

常に変化を求めて

1999年に名古屋商科大学商学部を卒業した山田実加氏は、企業に就職するより手に職を付けようと、地元の洋菓子店に就職した。3年間の修行の後、単身フランスに渡り、パリのエコール・リッツ・エスコフィエなどスイーツの本場で研さんを積んだ。1年間の武者修行を終え帰国すると、今度はフレンチレストランで働いた。 

フランスでは、人生を左右する「学ぶ菓子の原点」を教えられたといい、これまでの修行経験を生かそうと、2005年から名古屋文化短期大学(NFCC)で、教員として洋菓子の製造やデザインを教えることになる。2008年には、もう一度勉強がしたいと、NFCCで教べんを執りながら、中京大学大学院ビジネス・イノベーション研究科(夜間修士課程)に学び、平日の夜と土・日は大半の時間を勉強に費やした。「だいたい3年に一度は、勉強したくなったり、今の仕事の中でも生活パターンを変えて違うことをしたくなるのです」と、常に変化を求める。そして今につながることが起こった。 

中京大学大学院時代に、名古屋工業大学から講師として来ていた先生から「博士にチャレンジしてみないか」と勧められた。しかし、自分には勉強は向いていないと進学はせず、NFCCでの教育に専念していた。だが最近になって勉強がしたくなり、名古屋工業大学の博士課程へ進学、短大教授の傍ら、社会工学を研究する学生になった。2017年、40歳の時である。 

働きながら博士課程で学び、3年で卒業する者はいない。最低でも4年以上はかかる。中には10年間の挑戦の末、博士号取得を断念した人もいると、進学してから知った。進学後に途中で挫折し、退学する人も多いのだ。 

 

多忙でも地域との連携は積極的に

フルタイムの教員であると同時に博士課程の大学院生という立場は結構多忙だ。少なくとも1カ月に一度は大学にコンタクトを取り、Skype(スカイプ)での授業や博士課程在学者同士のゼミ、進捗(しんちょく)ディスカッションに加えて、自身の研究活動や論文執筆、さらに複数の学会での発表や投稿などをこなさなくてはならない。 

短大を含む大学では、教育は必須で、研究も評価対象となる。だが社会との連携はやらなくても罰則はない。特に私立の短大や小規模大学は、手間がかかる上に収入になりにくいことから、産学連携に消極的にならざるを得ないと指摘する関係者もいる。それでも、山田氏はNFCCの教員の中でも、産学連携を最も多くこなす一人だ。「観光資源がなくても、食文化だけはどの地域にもあります。スイーツなどは、SNSなどの仮想空間で見るだけでなく、実際に香りや味に触れてこそ楽しめるもので、必然的に食は連携しやすいテーマになります」と前向きだ。 

例えば、愛知県の西部に位置する常滑市とは、同市をはじめ半田市、碧南市、西尾市の4市が持つ「醸造・器・和の心」を生かした観光ルート「竜の子街道」プロジェクトを実施中だ。これら4市の境界を結んだ形がタツノオトシゴに見えることから「竜の子街道」と名付けられ、新商品の開発を進めてきた。さらに西尾市とは、抹茶スイーツで地域ブランド開発に力を注ぐ。国内の生産量の約30%を占め、特許庁の地域ブランドにも認定される西尾市は日本有数の抹茶の里だ。同市の抹茶を使った焼菓子やスイーツ、菓子パン作品を募り、優秀作品を決める「高校生パティシエによる抹茶スイーツ選手権2018」で、山田氏は大会アドバイザーを務めた。優秀作品は商品化され、今年11月にコンビニエンスチェーンのミニストップで販売される。また稲沢市に本部を置く大手スーパーマーケットのユニー株式会社とは、パティシエを目指すNFCCの学生らとコラボしたケーキの制作などの開発を指導した。 

連携は愛知県内にとどまらない。岐阜県恵那市では、都市との交流を深めるインバウンド対策に関わる。同市は岐阜県南東部に位置し、愛知県と長野県に隣接した豊かな自然に恵まれた山紫水明の地域だが、中でも日本の棚田百選にも選ばれる坂折棚田が観光資源として検討されている。里山の環境保全を進めながら農業の活性化を図るものだ。 

このほか、地域の農産物の旬や食べ方の工夫を紹介するテレビ愛知(テレビ東京系列)の情報番組「とれたて!」にもレギュラー出演し、食というテーマで地元に貢献するなど、活躍の場は広範囲に及ぶ。

 

「かなり異質だと思います」

「いろいろな仕事をしていると、素材や地域性を背景として実際に“スイーツ”という一つの形にするという付加価値を付けられます。作れなくても提案はできますが、説得力に欠けます」と、食に対するメーカー指向は学生時代から変わらない。どんなに忙しくても、自分を追い込みながら毎年違うテーマにチャレンジするのが産学連携の楽しさだという。食に関するアドバイスや商品開発、監修などのオファーが多方面から来るというが、今は始めたばかりの博士号取得を最優先に据える。「本当に博士号を取得できるかどうか」と、漠然とした心情を吐露しながらも、「人生で最大にして一番大変な苦労をしている時ですが、どちらかというと楽な道を選ぶタイプではありませんし、障壁がある方が得られるものも多いです」と極めて前向きだ。 

博士号を取った後はどうするのかという問いにも「時流の変化が早く、今決めておいてもまた変化するので何も考えていませんが、“スイーツを通して伝統と人をつなぐ”ことに注力したいと考えています」と明快。「かなり異質ですね」というストレートな感想に「かなり異質だと思います」と笑いながら答える姿が印象的だった。

(産学官連携ジャーナル 2018年11月号)


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