地方国立大学は産学官連携でどう活路を見いだすか② 拠点構築に「勢い」が必要な理由

地方国立大学は産学官連携でどう活路を見いだすか② 拠点構築に「勢い」が必要な理由

(群馬大学 研究・産学連携推進機構 特任教授/本誌元編集長 登坂和洋)

 

▍地域での存在感 

前回は産業界からの研究費導入が急増している山形大学を俎上(そじょう)に載せ、トップ主導で重点研究分野を定め、その研究基盤整備を進めることの意義、効果を見た。同大学が有機エレクトロニクスを重点分野とし、体制整備に乗り出した時期は2007年秋から2年余り。10年ほど前のことだが、このタイミングも重要で、科学技術政策における「選択と集中」、競争的資金プログラムの大型化が進む前に、その受け皿になり得るシーズ育成、拠点構築ができた。その後、2代の学長の下、優れたマネジメント、研究経営を継続してきたことが、大型競争的資金プログラムの獲得、組織体組織の本格的な産学連携に結び付いている。 

同大学が「稼ぐ」大学のモデルケースと見なされている背景に、こうしたストーリーが読み取れる。 

特定の技術シーズに集中投資する大学と評されている山形大学は、野球の投手に例えると豪腕の速球派。これに対し、山形大学と競い合う地方国立大学の雄、信州大学は多彩な変化球を持っている投手。別の表現をすると、信州大学は大学の特徴・強みが生まれるまでのプロセスや、その強みを生かして研究・産学連携推進の拠点を構築する仕組みが柔構造的である。結果的に、優れた技術シーズの「引き出し」が多い。

 

▍特色ある研究の5研究所

文部科学省の「2016年度 大学等における産学連携等実施状況について」によると、同年度の信州大学の民間企業との共同研究費受入額は約5億8300万円で、大学別では17位。トップ大学のRU11を除くと、山形、広島、神戸、千葉、名古屋工業の各大学に次ぐ。研究者数1,000人以上1,500人未満の27大学等に限定すると、東京工業大学、山形大学の次である。 

しかし、産学連携のデータでは信州大学の強さの秘密は分からない。大学の研究成果を基にイノベーション創出を目的とする競争的資金はどうか。 

信州大学は、文部科学省と科学技術振興機構(JST)が推進するセンター・オブ・イノベーションプログラム(COI)18拠点の一つ。同大学を中核機関として、株式会社日立製作所、東レ株式会社、国立研究開発法人理化学研究所、長野県などが参画している「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」(以下、アクア・イノベーション拠点)である。革新的な造水・水循環システムの実現を目指すプロジェクトで、ベースはナノカーボン材料を中核とする材料科学の研究。 

また、JSTの産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)には「生理学的データ統合システムの構築による生体埋込型・装着型デバイス開発基盤の創出」という研究課題で採択されている。 

COIもOPERAも拠点ものと呼ばれる大型のプログラムだ。このクラスの競争的資金プログラムを複数走らせている地方国立大学は少ない。 

技術シーズの「引き出し」が多いことを象徴しているのが、同大学の五つの研究所で構成する「先鋭領域融合研究群」。カーボン科学研究所、環境・エネルギー材料科学研究所、国際ファイバー工学研究所、山岳科学研究所、バイオメディカル研究所の五つだ。いずれも同大学の特色ある研究、強みだ。 

COIのアクア・イノベーション拠点はカーボン科学、OPERAの生体埋込型・装着型デバイス開発基盤創出はバイオメディカルにそれぞれ関わるプロジェクトだ。この二つ以外の研究分野も水準が高い。

 

▍非競争領域の情報共有化

信州大学が幹事機関となってOPERAで取り組んでいる「生理学的データ統合システムの構築による生体埋込型・装着型デバイス開発基盤の創出」は、多くの企業、大学等でコンソーシアムを形成している。 

体に埋め込んだり装着したりする医療機器(人工内耳、人工補助心臓、人工関節、酸素濃縮器など)の研究開発は従来、個別あるいは狭い専門分野ごとに進められてきたので非効率だった。 

このため、医療機器の共通的、基礎・基盤的研究開発の知見とプロセスを集約し、活用可能なデータとして体系化するシステムの構築を目指す。非競争領域の情報の共有化である。このオープンイノベーションにより、医療機器の認証に必要な期間の短縮と開発コスト低減を実現し医療機器開発を加速させようという気宇壮大(きうそうだい)な計画だ。

 

▍メディカル産業に着目

信州大学の医工連携(医療機器開発)はなぜここまで強くなったのか。 

信州大学が医療機器開発に本格的に取り組むようになったのは10年ほど前からだ。平成20年代初頭、長野県内の製造業の総生産額は大きく落ち込み、事業所数や従業員数の減少にも歯止めがかからなかった。こうしたことを背景に、県から同大学に、長野県の製造業の構造を転換して新しい産業を創出できないかと相談があったのがきっかけだ。 

同県は精密加工の企業が集積する全国有数の県である。かつて製糸で栄えたが、時計などの精密機械工業への転換を経て、精密加工技術を生かした電子、情報、自動車等の加工組立型産業が中心になっていた。その加工組立型産業の生産額が大きく落ち込んでいる。そこで信州大学は、加工組立の活路として高付加価値化が見込めるメディカル産業に着目した。 

強みは「世界トップクラスの実績を持つ材料研究」。当時、「ナノマテリアル(カーボン材料)」と「ファイバー」の研究・産学官連携拠点があった。2012年には「複合材料および繊維材料の2カテゴリで世界被引用数上位50大学にランクイン」したことがその実力を物語る。 

産業界や地域の課題を解決したいという思いを背景に、世界トップクラスの実績を持つ材料研究と医学部・同附属病院の高度な臨床実績と多診療科での医工連携実績を融合させて医療機器開発を中心とする新しい研究・産学官連携拠点を構築していきたいと考えた。

こうしてプロジェクトが動き出し、外部資金を獲得しながら拠点を整備し研究を進めてきた。インパクトが大きかったのは2011年8月、産学官が提案した「次世代産業の核となるスーパーモジュール供給拠点(長野県全域)」構想が文部科学省・経済産業省・農林水産省の「地域イノベーション戦略推進地域(国際競争力強化地域)」に選定されたこと。

 拠点形成型の補助金等では、2010年3月、JSTの地域産学官共同研究拠点整備事業(26種類の医学的解析機器を整備・共用化)、2011年7月、経済産業省「技術の橋渡し」拠点整備事業(医工連携研究棟を建設)にそれぞれ採択された。また、2011〜2012年度、経済産業省事業で医療機器開発6件を支援、2011〜2015年度は文部科学省「地域イノベーション戦略支援プログラム」を活用して医工連携人材やコーディネータを育成した。 

上に記した初期の数年間を見るだけでも破竹の勢いで拠点を構築していることが分かる。 

OPERAで取り組んでいる挑戦的なプロジェクトはこの延長線上にある。この間の取り組みは大学の地域貢献のまれに見る成功例でもある。

 

▍ネットワークを広げる

COIのアクア・イノベーション拠点にも触れておきたい。この拠点ではナノカーボンを用いた水処理膜研究を中心としたプロジェクトを推進している。思い描いているのは、地球上の多様な水源から使える水を造り、飲料、農業用、工業用、生活用の水を循環させ、世界中の人々がいつでも十分な水を手に入れることができる社会だ。 

研究リーダーは遠藤守信同大学特別特任教授。触媒気相法カーボン・ナノチューブを発見・開発したことで知られる。前回、山形大学の有機エレクトロニクスの研究基盤整備に関して、初期の2009年度にJST「地域卓越研究者戦略的結集プログラム」に採択されたことが幸運だった、と述べたが、同プログラムに同時に採択(採択は2件)されたもう一つが遠藤氏(当時は工学部教授)のカーボン研究だった。 

カーボン科学研究所はCOIだけでなく、さまざまな研究資金を得たり、外部機関と連携している。農林水産省(農研機構)研究事業「『知』の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業異分野融合発展研究」はその一つ。農産廃棄物からつくられるセルロースナノファイバーとナノカーボンを組み合わせた新素材を開発し、これらの資材の製品化により次世代施設園芸における廃棄プラスチックの効率的なリサイクル体制を構築する。信州大学が代表機関になり、東京大学や企業とコンソーシアムを組んで進めている。 

また、埼玉県の「先端産業創造プロジェクト」にも深く関わっている。 

このようにネットワークを広げていることが、次の、さらに大きな研究プロジェクトに結び付いていく。

 

▍若手研究者、次の拠点を育成

信州大学発イノベ―ションの断面をスケッチしてきた。公開情報に基づいて記述するという本連載の方針からは逸脱するが若干感想を述べる。医工連携の経緯から筆者が受ける印象は「集中力」。なぜ集中力――中長期的には「スピード感」――が重要なのか。離陸期においては、公的支援(採択された競争的資金プログラムなど)のある3〜5年間に産学官連携の取り組みを自立化できる分岐点以上に高める「勢い」が必要だからだ。そして巡行速度になっても、あれだけの外部資金を獲得し続ける集中力とスピード感。 

長野県・信州大学等の知的クラスター創成事業を取材したことがあり、その後の推移を見ていると、信州大学は研究・産学官連携の成果を次のプロジェクトにつなげる手堅さがある。異分野融合(例えば材料研究と医)を得意とするが、これは強い技術シーズの横展開でもある。 

カーボン科学でも着実に縦(研究成果をさらに大きなプロジェクトへつなぐ)、横(異分野融合・新しい連携により強い技術シーズで新分野を開拓)に研究を発展させている。先鋭領域融合研究群のキーワードの一つが「クロスブリード」(領域・学系を超えた融合と協働)である。 

もう一つ。料理に例えると仕込みの手際の良さだ。異分野融合による新しい分野の開拓だけではない。10年先をにらんで、優れた若手研究者、次の研究・産学連携拠点を育成している。こう書くと「どの大学にもそうした計画はある」という声が聞こえてきそうだが、それを極めて高い水準で実質化できているところが、柔構造の強さでもある。

(産学官連携ジャーナル 2019年3月号)


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