本誌編集長 山口 泰博

本誌は、共同研究や事業化、コーディネート、大学発ベンチャー・起業、知的財産、国や自治体の政策、人材育成、海外情報など産学連携の様々な事例を紹介することで、産学連携の推進に役立つよう、2005年1月に創刊され今年で16年目を迎える。さらに、2007年には一般にも広く知ってもらおうとウェブサイトもオープンした。16年6カ月(6月号)までに掲載した記事総数は2,618本。発行号平均にすると14本。7月には16年目にして初のサイトリニューアル予定だ。この節目に本誌を丸裸にし、近年の良く読まれた記事のランキングを基に、傾向と本誌の活用方法を特別編集した。これを機に、読者(ユーザー)、外部執筆者の方々も参考にしていただき、本誌の有効的活用を期待したい。

ランキング
本誌サイトには、過去3年間によく読まれた記事の上位10本を公開している。当初はタイトルだけをリンクさせていたが、出稿者によってアクセスランキングが上位に来ることから、記事の執筆者も併記した。見出しと執筆者によって「読まれる・読まれない」が明確に出ているからだ。その理由は、ランキングを見ながら解説していきたい。外部執筆者の多い本誌の特性上、今後の参考までに。

2017年のランキング10本中、筆者が取材・構成し書いた記事は5本。見出しも自身で付けた。

1位の「博士10人在籍の中小企業驚きの経営術」。本来ならマスコミの話題になっていない地方の中小企業ネタは上位に来ることはない。実のところ筆者自身も期待はしていなかった。しかし実際に話を聞いてみると、産連的には非常に面白く、山本裕久会長の考えにも感嘆した。その結果、話も弾み取材も長時間に及んだ。となれば、筆(キーボード)も走る。この企業の取り組みは、地方の産連を大きく前進させる究極の事例と言える。企業・大学双方で、息の長い強固なつながりを持つ記憶に残る取材だった。そうなれば、見出しが躍り過ぎとなりがちだが、その見出しに引けを取らない内容となり、クリックしたユーザーを裏切らなかったからと思われる。結果的に「産連のプロ」にも注目され、取材先も折に触れて紹介していただいたようだ。

2位は、大学教員がクロスアポイントメントで民間企業へ出向する珍しさと、分かりやすさと第3者目線の客観性が寄与している。

3位「パナソニックが海外の大学と組む理由」は、海外展開が苦手な日本の大学にとって関心の高いテーマであり、日本国内の大学関係者やイノベーション推進企業の関心を誘った。パナソニックの取り組みということもあり本誌コンセプトからより広い一般的な経済記事となったことも起因したのではないか。

4位の「日立×東大・京大・北大…」は、当初筆者が取材し書こうと考えていたが、こちらで取材するか日立の担当者に執筆いただくか選んでもらった。結果、日立の出稿となったが、これもグローバル大企業と組み巨大マネーが動く東大式産学連携は、そのほかの大学にとって垂涎(すいえん)のネタとなった。これも究極の産学連携の一つでプロに支持されたといえる。さらに2〜4位は、誰もが知る大企業が絡む内容のため、産学連携の小さい枠に留まらず、経済記事や高等教育ジャンルに広がり、プロ以外の一般にも支持されたといえる。

5位「日本の大学発ベンチャーの現状と課題」は、ベンチャーを語る上で「顔」ともいうべき松田修一先生のネームバリューといえそうだ。

7位は、知財の“ケンカ屋”が語る日本の大学が大型投資を取り込む方法は、知財のケンカ屋という本誌では付けづらいタイトルに加え、知財でビッグマネーをどう引き寄せるかの関心度、ホンダ、「知財業界」では著名な久慈直登氏のキーワードが貢献したと分析している。

8位は、世界中で利用者の多いフェイスブック(Facebook)とツイッター(Twitter)、インスタグラム(Instagram)といったSNSだ。とりわけライン(LINE)は日本での利用者が多く国内では4大SNSと言える。そのためこれらのキーワードは、世間の関心がひと際高い。特に小・中・高校生など未成年が多く利用するLINEとSNSトラブルは保護者である大人の関心が高いテーマだ。従って社会背景を得たテーマは読まれる必然性がある。

9位は、実を言うと情報提供をいただいたとき「黒い食材」というテーマだけで行けると感じた。このタイトルだけで想像できるし書いたときの中身も想像できた。何とか自分で書きたかったのだが残念ながら取材に伺う時間が取れず、当初からタイトルを黒い食材ありきで平原彰子先生に執筆を依頼した。食材の特徴を「赤い、黒い、白い…」と色分けをし、特集にしたかったが、残念ながら時間の制約でかなわず。特集として実現していれば、さらに読まれていたに違いない。

黒い画集、黒い樹海、黒い福音、黒い空…黒い食材というタイトルから思わずクリックしたくなると意図したが、2017年のランキングでは、筆者執筆記事が5本。分かりやすく、客観性、タイトルの付け方が重要で、補完的に検索に乗りやすい大企業、著名人がキーワードとして浮上した一例である。

2018年は、10本中9本が筆者の取材・構成・執筆原稿である。そして3本は難病をテーマにした特集で、1位は産連とは無関係の難病や障害の基本的な情報を解説した記事だった。2位とは3倍以上引き離し断トツだった。これは誰もが意外だったに違いない。筆者もこの記事が1位になると想定していなかった。難病特集を読む上で事前に知っておくとさらに理解が深まる基礎的情報だ。

なぜそれほど読まれたのか。その理由は、筆者自身が過去、何度か新聞などで取り上げられたことがあったこと、さらに自治体の障害難病団体理事として書いたことから、少なからず難病患者の中で名が知られていることと相まって本来の読者ではないイレギュラーなアクセスを獲得した。

それを証明するかのように2位は、共同研究を推進する本誌の立場から逆行した刺激的なタイトルの記事だった。

この記事を書いていただくにあたり、正城敏博先生に直接意図を説明し慎重に進めた。場合によっては辞退されるかもしれないタイトルであり、内容によっては問題視されるかもしれないオピニオンになるからだ。1位になるのではと期待しながらも内心はドキドキだった。

3位は、毎年受験者数を伸ばし、刺激的な広報と広告手法がメディアで取り上げられ話題をさらっていた近畿大学である。産学連携伝わらなければただの自己満足と挑戦的なタイトルも奏功した。コミュニケーションは「伝えたか」ではなく「伝わったか」伝わっていなければ意味がない。

4位は潰瘍(かいよう)性大腸炎とクローン病の新薬をテーマにしたが、特にこの二つの難病に絞れば、筆者の部分的知名度による。6位は、特集の線上で、命の期限を区切られた難病患者の家族の取り組みが支持されたかっこうだ。

7位は、産連業界のプロからは支持されないが、独立行政法人国立高等専門学校機構北九州工業高等専門学校のベンチャーが手掛けた「はなちゃん」だ。体長約15cmの犬型のにおい計測ロボットは愛くるしく、一般読者向けのホットな話題である。

8位は、迷わずタイトルからだろう。当事者の秋山演亮先生からは、一瞬だがこのタイトルに難色を示されたが、何とか理解いただいた。

9位は、体臭といった触れにくいテーマに対し明快に取り組んだ興味深い記事となり、一般読者の共感を得られたようだ。

10位は、横浜の関東学院大学が20年の「鎖国」から「開国」した、そのタイトルによるところが大きい。今号のクローズアップでは、関東学院大学の規矩大義学長に話をお聞きしているが、このときの取材が発端で、取材させていただく日の頃合いをうかがっていた。2年を過ぎてしまえば任期を終え退任されてしまうかもしれない。コロナで外出制限が発動されてからでは対面でのインタビューは実現できなかっただろう。

余談だが、取材活動はフットワークである。そのフットワークで情報がもたらされるネットワークが構築され、次への取材につながる。ビデオ通話アプリのリモートでは得られないリアルがそこにある。

2019年の上位10本中4本は筆者が、そして5本が、元本誌編集長で群馬大学特任教授の登坂和洋氏の地方国立大学は産学官連携でどう活路を見いだすかをテーマに1年にわたる連載である。当初3〜4回の予定だったが12回も続いた力作だ。

後述するが本誌サイトは、おおむね10%の正統的読者と90%の産学連携に感心のない一般読者が訪れる。この連載は、正統的産学連携のテーマで、その重厚さは回を重ねるたびに常にランキング上位に顔を出していた。10%の正統的読者であるプロの強い支持を得たのではないかと考えている。

10%の正統的読者で熱心なプロなら読んで分かるだろうが、筆者はこのような正統的記事をこの1年間書いていない。正統的記事は編集委員会や外部からもたらされる情報にお任せしていた。一般向けの話題は出てこないからだ。そのため一般読者90%に補足する情報を筆者が担うとアクセス数にどんな影響が出るのか実験してみた。これは亜流なのかもしれないと思いつつの実験だった。

さて1位と2位は、JSTらしく最先端の科学技術で、素材と遺伝子操作、ゲノム編集、クリスパーを扱った。取材対象者は共にノーベル賞候補として名を連ねる東京工業大学の細野秀雄栄誉教授、九州大学の石野良純教授である。

最先端やノーベル賞は本誌のコア読者に限らず、広く関心の高いキーワードでもあることからより多くのアクセスを獲得したが、筆者は、常に1番、2番と目先の単発記事では瞬発力はあっても元編集長のような記事は自分には書けないと秋以降の後半には、精力的な取材活動が失速した1年だった。

6位、「10億円の寄付を集める」というタイトルと「京都大学IPS細胞」、7位は特集で組んだ「天使となるか ゲノム編集」からのトマトのゲノム編集、8位では、「エース級行員」などこれらの見出しによるところではないだろうか。(読まれるための法則 紙とウェブは同じと思ってはいけないへ 続く)