群馬大学 研究・産学連携推進機構 特任教授/元産学官連携ジャーナル編集長 登坂和洋

「科学技術・学術審議会産業連携・地域支援部会第10期産学官連携推進委員会」は2019年9月末、「産学官連携の更なる発展に向けた今後の改善について」と題した17ページの報告書を公表した。新施策を検討するために実施したヒアリングなどをまとめたもの。節目となるような特別な資料ではないが、現場の本音が表れている。

報告書の目的は、産学官連携の課題や新たな展開のニーズを調査し「共通する課題と制度上の隘路(あいろ)」を明らかにするとともに、大学や国研の共同研究機能等の外部化(大学・国研の出資範囲の拡大)の有用性が高いと思われるケースについて整理すること*1である。

調査は①同委員会において大場好弘山形大学理事、加藤滋名古屋大学学術研究・産学官連携推進本部長補佐ら6人からヒアリング、②センター・オブ・イノベーションプログラム(COI)、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)等の事業*2の中核機関(計34機関)に対するヒアリングとアンケート――によって行われた。

調査が浮き彫りにした「産学官連携における主な課題」は人材、マネジメント、資金の三つの分野で整理されており、主なものを抜き出したのが表1である。


◆ 産学官連携の手法は進化
研究者のインセンティブがない、秘密保持のために論文発表ができないと博士・修士学生の参画は難しい、研究者は論文優先、企業側から見て大学内の意思決定のプロセスが不明瞭――従来から指摘されてきたことがほとんどとはいえ、このような委員会から改めて示されると、考えさせられるのではないだろうか。同報告書のことを知らない人に、これは10年前、あるいは15年前の資料だと言っても、誰も疑わないだろう。

では、わが国の大学が産学官連携に取り組んできた約20年間は停滞続きだったのかといえば、そんなことはない。競争的資金を中心にその手法は進化してきた。2010年代に入ってからは「選択と集中」策の影響が大きい。

●シーズ起点一辺倒の技術移転の取り組みは、今は昔。ニーズプルという単純なものだけでなく、将来のあるべき社会像からのバックキャストで技術を活用するというプログラムもある。今、プログラムを設計する上でのキーワードの一つが、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」にもつながる「社会課題解決」だ。

●この数年はオープン・イノベ―ション関連施策が花盛りである。

●大きな競争的資金プログラムではプログラム全体のプロデューサー役、各プロジェクトのマネージャー役といった機能を導入。大学発ベンチャーの創出でも、民間事業プロモーターが主導して推進するといった工夫も行われている。

●採択課題を期間の途中で柔軟に見直す(拡大、軌道修正、中止、支援機関の入れ替えなど)ようになった。

●イノベーション・エコシステムという考え方が導入され、シーズ発掘−研究開発−(ベンチャー創出)−事業化という循環の中に「資金」を絡ませるようになった。また、アントレプレナー育成などによる目利き機能強化、シーズ発掘に注力する一方、大学の出資(投資)の門を開いた。にぎやかな官民ファンドもこの流れか。

●企業との「組織」対「組織」の共同研究を推進するための大学・国研の改革。

以上、思いつくままに述べたが、政策は劇的に変わったと言っていい。従って、産学官連携に携わる大学人の悩みは、文字にすると10年前と同じでも、質的には相当変化しているのかもしれない。

◆ 変わり切れない部分が残る
では、なぜ表1の内容は興味深いのか。「官」が次々に新しい施策を打ち出して大学に「改革」を求めてきたが*3、大学には変わり切れない部分がいかに多く残っているかが透けて見えるからではないだろうか。

地方国立大学は「どの大学も同様の課題を抱えているのだな」などと納得しているわけにはいかない*4。なぜなら、変わり切れない状況こそが「選択と集中」を促進させ、地方国立大学にとってますます厳しい環境を招いているからである。

この壁を突破するには、この連載で繰り返し確認してきたように、一つは重点研究分野を徹底的に強化すること。日本でトップクラス、日本を代表して世界と戦える研究分野を持つことだ。それが産学連携に結びつく。山形大学の有機エレクトロニクス、信州大学の複数の材料科学、弘前大学の地域コホート研究、静岡大学の光科学などは強力な突破力を示している。

もう一つは地域(特に産業界)との連携を強化し、それをバネにして本格的な産学連携・資金獲得、研究力強化を進めることである。この連載で取り上げてきた地方国立大学は、例外なく地域バネをフルに活用している。

◆ 学内のコミュニケーションの力
前回の12月号では、研究の高度化や外部資金獲得で実績を挙げている大学において、現場の力はどう生みだされるのかという問いを起点にして大学の断面をスケッチしてみた。

筆者の印象では、トップ集団を走る地方国立大学に共通していることは、職場の雰囲気が明るくて教職員間のコミュニケーションがよく取れていること。そのためか、大学執行部の危機意識が教員にも比較的浸透している――そんな思いがあるからだ。(信州大学は強力なURA(リサーチ・アドミニストレーター)チームを持つことで知られるが、彼らが、事務職員やコーディネーターなど様々な人たちと同じ70〜80人の大部屋にいることを読者の皆さんはご存知だろうか。)

◆ 危機意識を共有する
様々な職種、人と人の歯車を噛み合わせて、現場の潜在力をどう引き出すのか。

金沢大学については前回述べた。横浜国立大学については、筆者はこんなことに注目している。同大学は、前回触れた大型の競争的研究資金獲得実績や優れたグループ研究のほかにも研究、資金獲得で健闘した研究者を公表する仕組みがある(表2)。それぞれについては他大学にも類似の仕組みはあるが、これらすべてで研究者名をウェブサイトに掲載している大学は少ないと思う。こうした“信賞”は、研究者のインセンティブを高めることが狙いだろうが、こんなところにも同大学の危機感が読み取れる。

徳島大学では、地域経済と大学をつなぐ月刊誌「企業と大学」が、執行部の考えていることを教職員に伝える役割も果たしているようだ。

制度、仕組みは出発点に過ぎない。現場に血が通い、戦える集団になっているかがチェックポイントだ。

2019年2月号からスタートした本連載は今号でひとまず終了する。実験的な内容だったので迷いながらの執筆ではあったが、各地の大学をはじめ、府省、ファンディング機関、地方自治体、企業など、様々な分野の方々からいただいた感想、激励が力になった。1年間お付き合いくださり感謝申し上げる。(本連載は今回で終わります)

2020年1月号から
注)仕様上、写真、図表の掲載が1枚のみとなっていますので、詳細は産学官連携ジャーナルでご覧ください。