産学連携の国際展開 大学生の国際的産学連携「D−Lab」

産学連携の国際展開 大学生の国際的産学連携「D−Lab」

京都工芸繊維大学(以下「工繊大」)は、1899年の開学以来、古くから伝わる知恵と技術に根差した職人ネットワークと新しい技術に基づいた産業が並び立つ古都・京都で、デザインとエンジニアリングの実践教育の場として在り続けてきた。

大学の役割が時代とともに変遷する中で、欧州やアジア、オセアニア、米国など世界の大学や各種機関とのネットワークを広げ、世界の研究者やデザイナー、建築家などと共に、社会的課題の発見と解決をしようと、国内外の企業や地域社会と連携し、社会貢献を進めている。国際的産学連携は、工繊大にとってごく当たり前のことで、有機的連携へと成長してきた。

(国立研究開発法人 科学技術振興機構 産学官連携ジャーナル編集長 山口泰博)

 

▍地域での存在感

地元の中小企業と共同研究を実施するなど地域に密着した取り組みは、京丹後市から提供を受けた「京丹後キャンパス」を拠点に、北部に集積するものづくり企業の技術や経営課題の解決に寄与している。2013年からは「COC推進拠点」を設置して全学で地域志向を推進し、舞鶴工業高等専門学校と協働で、京都北部でのものづくりや観光産業の振興に力を注いできた。この取り組みが評価され、13年には、文部科学省が実施する「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」に採択され、さらに16年には、福知山キャンパスを設置し、地域産業の活性化や地域課題に取り組む「地域創生Tech Program」を開設。「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」にも採択され、COCとともに推進されている。

 

▍スタンフォード大学で始まった国際的産学連携プログラム

同時に、文部科学省の大学機能強化事業の下で社会的課題の発見に取り組む、建築学とデザイン学を中心とした教育研究拠点「KYOTO Design Lab(D−Lab)」を2013年に設立し、「革新のためのインキュベーター」としてさまざまなプロジェクトを立ち上げ、精力的に活動している。14年には、「スーパーグローバル大学創成支援」事業(SGU事業)にも採択されるなど、国際展開を進めている。

 米国カリフォルニア州のスタンフォード大学が中心となって行う国際的産学連携プログラム「ME310/SUGAR」への参加は、今回で4度目。これは異分野横断型の国際プロジェクトで、スポンサーから提示された課題に対し、学生が中心となり約9カ月かけて取り組むグローバルイノベーションプログラムでもある。世界の大学10校以上から、200人以上が参加する。「ME」は、Mechanical Engineering(機械工学)の頭文字、「310」は修士課程の演習を意味する。当初は、スタンフォード大学の産学連携授業だったが、同大学のラリー・ライファー教授が「他の国と協働することでもっと面白くなるのでは」と提案し、2009年ごろから世界へと広がり始めた。

 それぞれのプロジェクトには、少なくとも2校以上の大学とスポンサーとなる企業が協力し、企業の課題に学生たちが応える形態をとる。今回、凸版印刷株式会社(以下「凸版」)とヤンマー株式会社(以下「ヤンマー」)をスポンサーとして、プロジェクトの足掛かりを構築した。そして両社と何度も協議を重ね、二つのプロジェクトを主導し、テーマに合う海外の協働する大学を指名する。

 

▍キックオフ

2015年の10月にスタンフォード大学で開催されたキックオフには、世界各国から23大学、300人の学生と教員(見学も含む)、スポンサー企業などが集結。デザイン思考によるワークショップが行われた。また、実際のプロジェクトに入る前のウオーミングアップイベント「Paper Bike Race」も開催された。これは、各国で製作したペーパーバイク(段ボールなどの紙で作った車)のパーツを、近隣の工房で組み立て、スタンフォード大学の緑地広場で競争をするというものだ。「ME310」の秘訣(ひけつ)を捉えた課題であり、「体を動かす」「作る」「実験する」をチームで共有し、「早く成功するには早い段階でたくさん失敗しろ」という哲学を体験する。起伏の多いコースでは、破損するペーパーバイクが続出、ガムテープなどで応急処置を繰り返しながらレースを続ける。 

キックオフの全プログラムを終えると、参加者はそれぞれの大学に戻って協働する海外の大学(今回はスタンフォード大学とスインバーン工科大学)とスカイプなどで何度も協議を重ねる。調査のためには海外へも出掛けるなど、学生たちはスポンサー企業の課題調整に苦労することになる。

 

▍凸版チームはスタンフォード大学、ヤンマーチームはスインバーン工科大学と

凸版からのテーマである「観光地における非言語コミュニケーションデバイスの提案」を目標に、工繊大とスタンフォード大学でチームを組んだ。日本を訪れる外国人旅行者は、ガイドブックの情報に頼り、皆が同じ観光地に行ってしまう。もっと生活に根差した場所に行きたいと思っても、その地域の生活者は外国語が苦手な場合が多く、コミュニケーションがとれないという問題点を発見した。その課題を解決するために、電子ペーパー端末を使って地図ベースの情報を集めていった。コミュニケーションの障壁をどう解決すべきかに焦点を当て、障壁は何か、非言語とは何かを考えることが非常に難しかったという。 

一方、世界各地で農機具を販売するヤンマーは、欧州やオーストラリアなどの大規模農場で市場開拓を進めている背景があり、「ブドウ農園イノベーション」というテーマをリクエストした。このチームは工繊大の学生4人とオーストラリア・メルボルンのスインバーン工科大学の学生3人。大規模ブドウ農園での課題を探るため、メルボルン近郊の農園にも足を運んだ。現在の大規模農園での農薬散布は「ばらまき」が主流で、ピンポイントで農作物に噴霧できないことを農場主などから聞いた。これは周辺地域にも農薬が散布されることになり、環境問題にも関わる。そこで、農園での生産性向上のためのエンジニアリング「ブドウ農園における新しい農薬散布システムの提案」を解決策として導き出した。そして幾度も協議を重ね、ブドウの木だけに噴霧するためのマシンのデザインから設計、組み立てまで全て学生だけで製作した。

情報共有を何度も行い、課題の検証と実証などを繰り返し、最終製品のプロトタイプを製作する。2016年6月、再びスタンフォード大学に集結し、それぞれのプロトタイプのデモンストレーションと発表を行った。本来ならここで終了となるが、2016年8月23日から28日まで、東京都港区のアクシスギャラリーで『観光とデザイン展―世界規模の産学連携プログラム「ME310/SUGAR」と京都工芸繊維大学―』を開催し、活動成果を発表した。 

異分野、異なる国や文化・背景を持った学生が、9カ月に及んでイノベーターとしての経験を積み、日本という環境に限らない、世界に向けた幅広い視点を持つ人材として成長しながら、次回の参加に向けて準備を進めている。

(産学官連携ジャーナル 2017年4月号)


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