株式会社オルツ(al+)代表取締役CEO 米倉千貴 AIでつくる分身ロボット

株式会社オルツ(al+)代表取締役CEO 米倉千貴  AIでつくる分身ロボット

将来、人工知能(AI)が人の仕事を奪うと話題になっている。AIで先行する海外勢のグーグルやアマゾン・ドット・コムをはじめ、フェイスブック、マイクロソフト、アップル、ツイッター、インテル、中国の百度など、大手IT企業がひしめくAI市場に打って出る日本のベンチャー企業がある。従業員30人ほどの株式会社オルツ(東京都千代田区)だ。 

同社の米倉千貴代表取締役(写真1)は、6億円以上の資金調達と、自身の声と会話パターンを引き継いだ3Dアバター(分身)となるAIの開発を進め、昨年から話題だ。新進気鋭で型破りの若き経営者はどんなキャリアから今に至ったのか。

(国立研究開発法人 科学技術振興機構 産学官連携ジャーナル編集長 山口泰博)

 

▍哲学を学んだ異質の経営者

AIの企画・開発で存在感を示す米倉氏は、2001年に24歳の若さで名古屋のITベンチャー企業(現東証一部上場、電子書籍配信会社の株式会社メディアドゥ)の取締役戦略企画部長として経営に参画した。03年には電子書籍の企画販売などを手掛ける有限会社STAR BUGを設立し、社長に転身。06年には電子書籍の企画などを行う株式会社未来少年を設立し、業容を拡大させた(STAR BUGは11年に未来少年と合併し解散)。さらに14年、株式会社ウェアラブルを未来少年の子会社として設立し、年商15億円に成長させると、全事業をあっさりバイアウトし、その年の11月に現在の株式会社オルツを設立した。 

39歳にして四つの会社の経営に参画もしくは設立し、関わった企業をいずれも成長させてきた。愛知大学では哲学を学び、経営やITを専攻してきたわけではないが、プログラミングは子どものころからやっていたという。 

前職は人事の業務が多く、1日に8人ほどのペースで応募者の面接をする日々が1年続いた。頭の中で面接のルーティンがルール化されていたことで、「だったら、人がやらなくてもシステム化できるのではないか」と考えたそうだ。そこで実験も兼ねて、他の社員には内緒でチャットの自動化を行った。すると、本人が応対していないことを誰にも気付かれなかった。それがBot(ボット)だった。

 「ボット」とはロボットの略称で、人がコンピューターを操作して行う処理を、人に代わって自動的に実行するプログラムのことだ。検索エンジンがウェブページを自動収集するクローラや、オンラインゲームで人に代わってキャラクターを自動的に操作するプログラムも同様の仕組みである。 

「面接も電話対応も、自分である必要はない…」開発中のパーソナル人工知能(P.A.I.)は、インターネット上にあるさまざまな情報やSNSなどから、デジタルで受け取れる情報を引っ張ってきて、パーソナルデータを蓄積・解析し続ける。例えばAさんのパーソナルデータを蓄積解析し、Aさんの人格をほぼコピーすることができ、さらに、同社が開発中の音声解析AIとリンクさせると、Aさんの声もそのままコピー可能となる。

 

▍もはや身近なAI

AIが囲碁や将棋で人間に勝ち、記者として新聞記事を執筆するなど何かと話題となる中で、すでにAIは身近なところで人の仕事や作業を奪っている。 

ウェブまたはスマートフォンのアプリケーション上で、顧客からの質問などに自動で応答するシステム「AIチャットボット」の導入を進めるECサイトや、金融業界などでは顧客サポート業務が一部人からAIに移行している。従来、電話やメールで行うカスタマーセンターを自動化することで、人員削減と効率化を図れるからだ。 

Windows10に搭載されたパーソナルアシスタント「Cortana(コルタナ)」や、Macintosh搭載の「Siri(シリ)」のような音声認識アシスタントもAIの一種で、自然言語処理を用いて、声を使って「メッセージを送る」「電話をかける」「質問に答える」「ウェブサービスの利用」などを、タッチパネルなどの操作なしで行ってくれる。AIがさらに進化すれば、自ら手間をかけなくても、仕事の一部を代行してくれる。そんな時代は目前に迫っている。

 

▍好きなこと以外は自分の分身が担う

米倉氏は、自らの経験から「人によってリテラシーがばらばらなので、増員したときの人の管理、人材のリソース化が最も大変」だと感じている。「自分はPI(Principal Investigator)の基礎技術や、AIのOSのようなミドルウエア開発と発明が好きなので、好きなこと以外は自分の分身であるAIでもできそう」と語る。 

「日本人は、ロボットといえばドラえもんや鉄腕アトム、コピーロボットを想像するかもしれませんが、それは究極の姿です。現在のAIはまだまだ機械的ですが、これからはパーソナルな時代に突入していきます」。今は米倉氏自身の分身でテスト中だが、さらに精度を上げて2年以内に市場へ投入する予定で進めているのが、人格をコピーする「パーソナル人工知能」(P.A.I.)だ。

 

▍論文執筆者へのアプローチで産学連携

面白そうで、自社の開発に合いそうだと思えば、論文の執筆者へ積極的にアプローチしてきた。 

技術顧問に人工知能学会元会長の松原仁氏や、ニューヨーク大学の関根聡氏を招聘(しょうへい)し、電気通信大学大学院教授の栗原聡氏との汎用(はんよう)人工知能(AGI)の研究開発、国立情報学研究所准教授の山岸順一氏との音声サンプルから音声クローンを生成する共同研究など、産学連携も積極的に進める。開発やマネジメントをオルツが担い、AI研究のプラットフォームのような存在を目指す。「イノベーションを起こすなら、誰もが感動するような夢を」と起業家にエールを送る。

 AI研究に関しては、近々国際的な学会で発表していく予定であるが、そのためには信用と、ある程度の企業規模が必要だ。同社の採用面接や電話は、米倉氏の分身AIが対応する日も近いかもしれない。

 (産学官連携ジャーナル 2017年5月号)


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