新型コロナウイルスの影響で音楽ソフト(映像商品を含む)は発売延期などが続き、4月の生産数量は941万枚(日本レコード協会集計)で、比較可能な平成11年以来初めて1000万枚を割った。5月は455万枚でさらに半減だ。しかし、話題作は生まれている。6月のアルバムを紹介する。(石井健)

 ボブ・ディランが自作曲で固めた8年ぶりの新作「ラフ&ロウディ・ウェイズ」〔1〕を、デジタル配信で出した。CDは7月8日に出る。2016年のノーベル文学賞受賞後初の新曲群は、どれもブルースやカントリーなど伝統的、古典的な米大衆音楽の作法にのっとった。ディランは15〜17年にフランク・シナトラのレパートリーに取り組んだアルバム3作を出したが、その成果も感じられる。つまり、ディランはあらゆる米国大衆音楽の伝承者となった。

 3月に配信していた17分近い「最も卑劣な殺人」という歌もボーナスで収録されているが、このケネディ大統領暗殺から始まる長大な歌詞でディランは、まさに米大衆文化史をたどる。歌詞の対訳を読みながら聴きたい。楽曲は多様だが、独特のしゃがれ声で歌われると一様に静寂に包まれた気分になるのはなぜだ。

 「ナイス・ン・イージー」〔2〕は、そのフランク・シナトラの代表作の一つで、発売60周年を記念して特別盤が出た。「ザ・ボイス」と呼ばれたシナトラ。ディランと比べればはるかに声は美しいが、字義通りの美声の持ち主ではなく、感情の乗せ方、表情の付け方において圧倒的な巧者であったことが、これを聴くと改めて思い知らされる。伴奏のオーケストラの美しさも有名だ。初登場の音源も収録。配信あり。

 こちらはデビュー20周年。「Papillon(パピヨン)−ボヘミアン・ラプソディ」〔3〕は、氷川きよしが昨年の紅白歌合戦で披露した「限界突破×サバイバー」など、演歌ではない歌に取り組んだ。英ロックバンド、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」を音楽評論家で作詞家の湯川れい子による日本語詞で歌いあげるのが話題だが、自分の歌い方で堂々と挑んだ。伴奏に、氷川と対抗する強さがあればなおよかった。

 「eyes」〔4〕は、新人シンガー・ソングライター、milet(ミレイ)の初アルバム。18の収録曲のほとんどがテレビ番組やCMで使われている。その声を誰もがどこかで耳にしていそうだ。各種チャートをにぎわしている。いわゆる日本人離れした歌声だが、ほんのわずか少女っぽい不安定さが混じり、それが個性となっている。配信あり。

 「キョウソウカ」〔5〕も琴音(ことね)(ことね)という新人シンガー・ソングライターの初アルバム。若者らしい挫折感をファルセットを多用して絶唱するが、ピアノだけを従えた表題曲で見せる深遠な表情や、ロッカバラードで披露する小唄的な軽やかさが案外、味わい深くて良い。配信あり。