【書評】揺れ迷う女たちの日々描写 『意識のリボン』綿矢りさ著

【書評】揺れ迷う女たちの日々描写 『意識のリボン』綿矢りさ著

 若い女性を中心に人気の作家、綿矢りさの新作は8編の作品からなる短編集だ。連作の形はとっておらず、内容はバラエティーに富んでいる。共通点といえば、ありふれた日常に視点をおいていることくらいだろう。殺人事件も不倫も恋愛も社内トラブルも出てこない。しかし、ユニークな好奇心と鋭い観察眼から醸し出される描写は興味深く、はっとさせられる。

 冒頭に置かれた「岩盤浴にて」は、デトックス(毒素排出)をしに行った岩盤浴で、年配女性二人組の会話から、友人同士のパワーバランスに思いをめぐらす話だ。

 「履歴の無い女」は、結婚で名字が変わり新しい生活に入った姉が主人公。名字が変わった後、前の名字に未練を感じない自分に戸惑いを感じるというもの。携帯の履歴と人生の履歴を対比させているところに時代性を感じる。

 また、「怒りの漂白剤」では、どうやったら怒りを抱えず、穏やかに、ラクに暮らせるか、脳内分析を繰りかえす女性が描かれている。現代人が抱える心のもやもやを、作者は的確に言語化して提示してくれている。自分自身と重ね合わせ、共感をおぼえる人も多いだろう。

 平成16年に19歳で芥川賞をとり、世間を騒がせた著者も結婚し、今や1児の母親。その経験と強さがよく表れているのが、ラストに置かれた「意識のリボン」だ。

 交通事故に遭い、死にかかった女性が「ひかり」に導かれ、今までの人生の記憶をたどる旅をする。肉体を失って振り返ると、他者との競争に勝ったことなどは、ほとんど意味をなさず拭い払われ、それよりもどれだけ人を助け、助けられてきたかを再認識するという、不思議で穏やかな作品。

 どの主人公たちもたわいないことの意味を考え、ぐだぐだと悩み、それでもひたむきに歩んでいる。そんな日々の積み重ねを、それでもいいよと作者は肯定してくれる。

 8編のうち7編が若い女性の視点で書かれたものだが、男性にも読んでもらいたい。揺れ動く女心を知る手がかりになるだろう。(集英社・1300円+税)

 評・赤羽じゅんこ(絵本作家)

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