【みうらじゅんの収集癖と発表癖】地獄表 行きはヨイヨイ帰りはナシ

【みうらじゅんの収集癖と発表癖】地獄表 行きはヨイヨイ帰りはナシ

 最近よく、テレビで見かけるバスの旅。タレントが数人で地方のバスを乗り継ぎ、目的地を目指すという企画であるが、「やったー!あと30分したらバスが来るよ」などと、実に楽しそうにしてる。

 そりゃ辛いこともあるんだろうが、テレビカメラが回っているからいちいち機嫌悪くしてるようじゃ今後のタレント生命にも関わる。要するに、これでギャラを貰(もら)ってるんだからという意識が大切なのだ。たとえ気の合わない人とであっても、こんなのバスを待たないで車に乗りゃいいじゃんという“それを言っちゃ、おしめぇだよ”発言はなし。そこが一般のバス旅と大きく違うところである。

 今はインターネットの普及でどんな田舎のバスの時刻表だって前もって調べることが出来るんでしょ? この不確かな物言いには理由があって、スマートフォンこそ持ってはいるがうまく使いこなせた試(ため)しがない僕としては、そんなの本当の旅じゃないよって言い張るしかないわけだ。毎回、行き当たりばったりで出掛け、バスなどすぐに諦めてタクシーに乗ってしまうのが昨今の旅のあり方だ。

 それでも若かった頃は金もないし、2時間程度の待ち時間など屁(へ)とも思わず、その無計画さが却(かえ)って“気ままな旅”の醍醐味(だいごみ)であるとさえ思えたもの。そんなフォーエバーヤングを「そういえばぁーヤング」と回想するようになった頃、僕は一度、旅の途中でとんでもない間違いを犯してしまった。

 目指していたのは山形県の湯殿山。折しも何度目かのワールドカップの期間。全くサッカーに興味のない僕は喧噪(けんそう)を逃れ、湯殿山に伝わる即身仏を訪ねる計画を立てたのだった。

 鶴岡駅からそんなに待たずバスに乗れたのはいいが、途中、何を思ったのか山中で降車。まだまだ目的地は先だったことに気付いた時は既に手遅れ、バスは行ってしまった。呆然(ぼうぜん)とその場に立ち尽くす僕が見たものは何と、地獄のように来ないバスの本数だった。若い頃なら気ままで誤魔化(ごまか)せたかもしれないが、ほぼ3時間待ちは流石(さすが)にこたえた。

 この恐怖体験から得たことは、この世に時刻表ならぬ地獄表というものが存在するってこと。一日に数本ならまだしも、ひょっとして一日に1本なんてのも有るかも知れん。便利やスムーズに慣れてしまった僕にとって地獄表のある風景はもはやあの世だった。

 気になって気になってそれ以来、地獄表のありそうなバス停を捜すことがマイブームとなった。行きはヨイヨイ帰りはナシって、そりゃないぜぇ。(作家、イラストレーター)=月1回掲載します

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