新潟県などが出資する第三セクター「えちごトキめき鉄道」(トキ鉄、同県上越市)が今月、開業5周年を迎えた。車窓から日本海や妙高山の絶景を望むトキ鉄は、沿線住民の足であるとともに、全国から鉄道ファンや旅行者が訪れる観光路線となっている。節目の年、地域活性を担うトキ鉄に乗車し、魅力に触れた。

(安村文洋)

 ■希少な立ち売り駅弁

 トキ鉄は北陸新幹線の延伸開業に伴いJRから経営分離された並行在来線を引き継ぎ平成27年に開業。旧JR北陸線市振−直江津間を「日本海ひすいライン」、信越線直江津−妙高高原間を「妙高はねうまライン」として運行している。

 両ラインを結ぶ直江津駅のホームでは、希少な駅弁の立ち売りが見られる。同駅の駅弁といえば、JR東日本管内の駅弁頂点を決める「駅弁味の陣」で最高賞「駅弁大将軍」に選ばれたホテルハイマート(上越市)の「鱈(たら)めし」「さけめし」が有名だ。

 立ち売り歴20年の同社弁当部、下井道夫さん(72)は列車が到着すると駅弁入りの木箱を首からつり下げ、威勢よく乗客を呼び込む。「駅弁の立ち売りは今や全国で3人まで減り、本州では私1人になってしまった」と下井さん。

 同社の前身は明治時代創業の旅館山崎屋支店。駅弁の販売、製造を始めたのは明治34年で、120年近い歴史がある。継続には採算性の課題など苦労も多いというが、地域鉄道とともに観光振興に寄与しようという沿線企業の心意気が伝わってきた。

 ■後ろ見ながらバック

 はねうまラインの二本木駅は、急勾配対策として列車の進行方向を逆にしてジグザグに進むスイッチバック構造になっている。スイッチバックは全国的に珍しく、新潟県内の鉄道駅では唯一の存在だ。

 ワンマン列車がスイッチバックで進行方向を変える際には、運転士が車内を移動して反対側の運転席で操作することが多いが、同駅では運転士は移動せず窓から顔を出して後方の安全を確認しながら車両を後退させる。運転士歴4年目の榊原洋平さん(28)は「時速25キロ以下に落とし、車両が揺れないよう気をつけている」と話す。

 ■トンネル内の秘境駅

 ひすいラインには、全国でも数少ないトンネル内の駅がある。私鉄最長とされる頸城(くびき)トンネル(全長11・353キロ)内の筒石駅で、「秘境駅」として知られている。ホームと改札口をつなぐのは階段のみで、300段近くを上り下りしなければならない。

 同駅には今月14日のダイヤ改正に伴い、両ラインをまたぐリゾート列車「雪月花(せつげっか)」が従来の糸魚川発(午後便)に加え、上越妙高発(午前便)も新たに停車するようになった。停車時間は10分間(糸魚川発は9分間)。乗客に駅構内で「秘境」気分を味わってもらえる機会を増やそうという配慮だ。

 トキ鉄は4月、運賃を値上げする。厳しい経営環境を踏まえての措置だが、これまで独自の企画や商品開発で地域振興に貢献してきた。今後も地域観光資源の発信と利便性の向上を図りながら、人気鉄道であり続けることが期待される。