【西日本豪雨】最後の電話「早く助けにきて」 足不自由な夫を抱きかかえた妻 倉敷で犠牲の西原さん夫妻

【西日本豪雨】最後の電話「早く助けにきて」 足不自由な夫を抱きかかえた妻 倉敷で犠牲の西原さん夫妻

 西日本豪雨で、広い範囲で浸水被害が出た岡山県倉敷市真備(まび)町。同町辻田では、西原俊信さん(86)と妻の明子さん(84)が自宅で死亡しているのが見つかった。逃げ遅れて濁流にのまれたとみられ、自衛隊のボートで自宅を訪ねた孫が発見した。「天国から見守ってほしい」。あまりに突然の別れに、残された家族は悲しみに暮れている。(神田啓晴)

目と足不自由な夫を妻が抱きかかえた状態で

 真備町一帯が濁流にのまれてから一夜明けた8日朝。西原さん夫婦の孫、征輝(まさき)さん(25)は自衛隊のボートで夫婦の家へ向かった。水は引き始めていたが、何度となく足を運んだ祖父母宅の周辺の景色は、変わり果てていた。

 家に入った征輝さんは、言葉を失った。壁に掛かる時計の針は止まり、俊信さんが趣味で作っていた木彫りの皿や小物入れが泥水まみれの状態で散乱。茶道教室を開いていた明子さんの茶室は畳がめくれ上がり、土壁が無残にも崩れ落ちていた。

 2人が見つかったのは、1階の台所。親子3代で囲んだ食卓の近くで、泥水の中に倒れていた。目と足が不自由だった俊信さんを連れて逃げようとしたのか、明子さんが俊信さんを抱きかかえるような格好だったという。身元確認を求められ、2人の顔を見た。間違いない。「逃げ切れなかったのか…」。思い出すと、今も涙があふれる。

「できれば、ひ孫を見せたかった」

 優しいおじいちゃん、おばあちゃんだった。手先が器用で、定年退職後は木彫り作品を作るのが楽しみだった俊信さん。今年4月、近くの寺に一緒に出かけたのが、最後に共に過ごした時間となった。

 明子さんは、遊びに行くといつもおいしいお茶を用意してくれ、仕事からプライベートまで、細かく気に掛けてくれた。「たくさんかわいがってもらった。もっとドライブとかに連れて行ってあげたかったし、できれば亡くなる前に結婚して、ひ孫を見せてあげたかった」。征輝さんは台所にそっと手を合わせた。

 約40キロ離れた同県久米南町に住む長男の英信さん(58)は、刻一刻と深刻になる大雨の中、「そっちの家は大丈夫か」と電話で気遣ってくれた俊信さんの声が忘れられない。「仕事熱心で、厳しいところもあったけれど、優しい父だった」と話す。

最後の電話「早く助けに来て」「水が机の上にまできている」

 最後の電話は、7日午後。「早く助けに来て。水が机の上にまで来ている」と、助けを求める声だった。だが英信さんも、約30キロ離れた同県玉野市在住の次男の幹夫さん(54)も、激しく降る雨に阻まれて助けに行くことはできなかった。

 厳しくも、愛情深い両親だったという。英信さんは「仲のいい両親で、大切に育ててもらった。最後まで幸せな人生だったと思う」。幹夫さんは「父に叱られていると、母が『もういいじゃない』と優しく止めてくれた」と振り返った。

「本当に悔しい」

 10日には、夫婦の葬儀も終えた。家族は2人の思い出の品々と向き合いながら、片付けを進め始めている。征輝さんは「こんな形で最期を迎えるなんて、本当に悔しい」と声を震わせ、亡き祖父母にこう呼び掛けた。

 「最期は苦しかっただろうけれど、天国で見守っていてください」


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