中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会で30日可決した「香港国家安全維持法案」。高度な自治や法の支配を認める「一国二制度」に支えられてきた香港だが、同法の成立で中国政府の統制強化は必至だ。香港で育った人々の目には、一体どう映っているのか。(桑村朋)

 「香港が香港でなくなってしまう。香港人としての意識もある私にとっては本当に怖く、悲しい」

 そう語るのは6歳から香港に移住し、永久居民権を持つ会社員の日本人女性(25)=東京都墨田区。大学卒業まで約18年を過ごした香港は日本と同じ「故郷」のような存在。「中国の近くで唯一、自由を愛した希望の場所だったのに…」と肩を落とす。

 2014年の民主化運動「雨傘運動」、昨年の事件容疑者を中国に引き渡せるようにする「逃亡犯条例改正案」…。中国が統制強化の動きを見せるたび、香港人は大規模なデモで社会を変えようとした。

 だが、香港国家安全法の下では、政府を批判するデモや集会などは「違法」になる恐れがある。「昨年のデモにはまだ変革への希望が残されていた。でも、それも同法の可決でほぼなくなってしまった」と嘆く。

 「香港国家安全法でより良い国へ」。いま香港の街中には、こう書かれたチラシがそこら中に張り出されているという。女性の友人には「香港の終わり」とSNSに投稿したり、政府を批判した過去の投稿を消し始めたりする人も少なくない。

 SNSで香港の観光情報や治安情報を発信している女性のもとには、「香港の今を世界に知らせて」との連絡がくるという。「これまでできた発信もできない状態だ。自由が必ずしも正しいとは思わないが、今のままで良いはずがない。日本人にはどうか香港のことを忘れず、現状を知ってほしい」と訴える。

「投稿で政治犯にされるかも」

 一方、「一国二制度は死んだ」と話すのは、現地に住む香港人の女性(23)。昨年の大規模デモ以来、SNSで政府や警察を批判するような政治的な投稿も行ってきた。ただ、過去の投稿は削除するつもりだ。「ちょっとした投稿で政治犯にされるかと思うと本当に怖い」と話す。

 今年は新型コロナウイルスへの対応で政治の動きはないと思っていた矢先の同法の可決だった。「予想できたことだが展開が早過ぎる。中国政府は香港人の意見も聞かず、勝手に進めて不公平だ」と憤る。

 自身は1997年の香港返還の年に生まれた根っからの「香港人」。隣の中国に政治方針を決められたくないという。「今は不安や絶望感しかないが、まだあきらめたくない。自由のある香港に今後も住み続けたい」と話した。