東京都知事選(7月5日投開票)で、インターネットでの選挙運動の存在感が増している。新型コロナウイルスの影響で、「3密」を避けるため演説会や握手といった従来型の活動が思うように展開できない中、そうした制約とは無縁のネット上で各陣営がさまざまな工夫を凝らす。専門家は「選挙運動の主流がリアルからネットに移る分岐点になるかもしれない」と分析している。(荒船清太、大森貴弘)

 ■「オンライン元年」

 「(コロナ対策は)初動の遅れがあったのでは」「東京都としてしっかりと対策を進めていた」−。告示前日の17日に行われた主要立候補予定者による共同記者会見。舌鋒(ぜっぽう)鋭い論戦は従来通りの光景だったが、「舞台」はネット上のビデオ会議だった。

 ネットの活用では、現職の小池百合子氏(67)がコロナ対策などの公務を優先して街頭演説を行わず、告示日の第一声も動画配信。ツイッターで「#小池ゆりこに物申す」と題して質問を募ったり、地域に特化した動画を配信したりするなど、ネットでの選挙活動に徹している。

 一方、第一声に続いて街頭演説を実施している他の主要候補者も、ネット活用では演説配信だけにとどまらず、知恵を絞っている。

 れいわ新選組代表の山本太郎氏(45)は、演説に文字や効果音を付けた動画を配信するほか、全文を文字に起こしてネット上にアップ。元熊本県副知事の小野泰輔氏(46)は、テーマ別に動画にテロップを付けて公開している。

 ビデオ集会を取り入れたのは、元日弁連会長の宇都宮健児氏(73)。ミニ集会に代わりビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で500人限定で参加を募り、意見交換を行うなどしている。

 NHKから国民を守る党党首の立花孝志氏(52)も自身のネット戦略を「個人演説会などは一切せず、選挙カーの上で公約を訴えてユーチューブのライブ配信を含めた動画として出し、文字、ツイッターで拡散する」と解説する。

 こうした活動について、永田町関係者は「通勤中などにスマートフォンを見ている有権者に届ける工夫だ」。ある選対幹部の都議は「今回が本当の意味でのオンライン選挙元年といえるかもしれない」と話す。

 ■情から理に?

 選挙運動に詳しい麗澤大の川上和久教授(政治心理学)は「3密を避けるために握手や動員も自粛しており、選挙におけるネットの重みは増さざるを得ない。今回の都知事選が、歴史を変える選挙になるかもしれない」と推測する。

 「これまでは候補者が現場での演説などを通じて有権者の『情』に訴えてきたが、今後は有権者がネット上で政策などを自ら検索し、候補者を選ぶようになる可能性がある」とした上で、「ネットでは候補者が有権者と握手などができず、情に訴えるのに不向きだ。候補者は有権者にどう『理』で訴えるかが重要になるだろう」と述べた。

 東京工業大の西田亮介准教授(政策・メディア)は「ネット重視の選挙では瞬間、瞬間で人々の印象をつかむことができる候補者の訴求力が増し、『印象』の重要性が増す可能性がある」と指摘。「極端な主張や表現が支持を集めやすくなる恐れがある」と懸念を示した。