警察官の男が、静岡県東部に住む知人女性2人の自宅に侵入し、小型カメラを設置して裸を撮影するなどした事件。「罪を犯すことがどういうことか、分かっていた」と話す元警察官はなぜ、一線を越えてしまったのだろうか。

住居侵入と窃盗、静岡県迷惑防止条例違反の罪に問われたのは、静岡県警三島警察署刑事課に勤務していた警部補の男(37)。元警察官は、2022年から2023年にかけて、静岡県東部に住む2人の女性それぞれの自宅に侵入し、小型カメラを設置して女性の裸を撮影した罪などに問われていた。

「間違いありません」
事件を受けて、静岡県警を懲戒免職処分となった元警察官の男は、逮捕から3か月後の2023年10月に行われた初公判で起訴内容を認めた。

「劣等感を覚えていた」警察署の女子トイレにも…

2022年6月頃から女性らの自宅へ侵入する機会をうかがっていたという元警察官。ある日、女性らの自宅が無施錠であることに気づき、部屋に入ってスペアキーを撮影。その画像を元に、業者へ依頼して合鍵を作製し、2人の女性宅を自由に行き来するようになった。

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そのうちに、元警察官は「女性の裸を撮りたい」と考えるようになり、浴室出入口付近の洗濯機の下に小型カメラを設置し、撮影。しかし、裸体を撮影するだけに留まらなかった元警察官は、それぞれの女性が暮らす室内で名前入りのTシャツを発見し、盗んだという。行動はさらにエスカレート。 警察署内の女性トイレに出入りしたり、道場の女子更衣室に入ったりもしていた。

裁判で行われた被告人質問では、元警察官が犯行に及んだ動機が明らかになっていった。

<弁護人>
「あなたの犯行動機は?」
<元警察官の男>
「端的に申し上げると、仕事で抱えていたストレスの発散」

<弁護人>
「ストレスとは」
<元警察官の男>
「自分の希望する部署にいけずに、同期が希望の部署にいったことに劣等感を覚えていた」

<弁護人>
「性癖もあったのではないか」
<元警察官の男>
「それもないわけではないが、根本でいえば、仕事でストレスを抱えていて、その結果、嫉妬心が暴走した。自分の理性をコントロールできなくなっていた」

弁護人からの質問に対して、犯行当時はコロナ禍であり、ストレスを発散できない状況だったと話した元警察官。続いて、検察官がなぜ、女性2人をターゲットにしたのかと咎めた。

「1人には好意があった もう1人は…」

<検察官>
「なぜ、この2人の女性を狙ったのか」
<元警察官の男>
「1人には好意があった。もう1人は犯行がしやすい状況にあった」

<検察官>
「犯行がしやすければ、誰でもよかったのか」
<元警察官の男>
「違うと思う。(好意がなかった)もう1人の方についても、容姿が整っているというか、そういう女性だったので対象にした」

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<検察官>
「犯行を通してストレスは発散できたか」
<元警察官の男>
「できなかったが、私の中でもどんどん行動がエスカレートしていった」

<検察官>
「誰だってストレスはあるが、犯行に手を染めないのではないか」
<元警察官の男>
「私自身もそういう職務についていたので、犯罪を犯すということがどういうことか分かっていたが、被疑者を扱う中で、そういうことをしてはいけないという気持ちが裏返ってこういう行動に移ってしまった」

警察官がなぜ、犯罪に手を染めたのか。裁判官から追及が続いた。

「事件が起きれば仕事が溜まっていく」

<裁判官>
「幸せな生活を送っていても、犯罪によって社会的な地位を失った人を見てきたのに、どうして歯止めが利かなかったか」
<元警察官の男>
「どうしてコントロールができなかったかと言われると、なかなか難しいところではあるが、言い訳かもしれないが、当時、仕事は自分なりに頑張ってきたつもりだった。平日も遅くまで仕事をして、休日も朝から仕事をして、事件が起きれば、どんどん仕事が溜まっていく。そんな中でストレスが溜まり、正常な判断ができなくなっていった」

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<裁判官>
「いずれは社会復帰していくと思うが、近くの人に性的に興味を持ったらどうするつもりか」
<元警察官の男>
「精神的なコントロールをして、そういう気持ちが起こらないようにする」

検察側は元警察官に対し、「警察官の知識を悪用して、合鍵を作製したことは卑劣な犯行」「警察官の信用を失墜させた社会的影響は大きい」などと指摘。女性の尊厳を無視した犯行で、情状酌量の余地はないとして、懲役2年6か月を求刑した。

一方、弁護側は、元警察官が罪を認め、被害女性2人に対して、合計約510万円の被害弁償金を支払っていること、すでに警察官を懲戒免職になるという社会的制裁を受けていることなどを挙げ、執行猶予付き判決を求めた。

最後に元警察官は言った。
「どのような処分が出ても、それを受け止めて、社会生活を送っていければと思います」

「実際にやったあなたにはわかっていると思う」

2024年5月17日、静岡地方裁判所沼津支部が元警察官に下した判決は、懲役2年6か月、執行猶予3年。量刑の理由として、「手口が巧妙で悪質性が高く、警察に対する信頼を損ねたという社会的影響も看過できない」などを挙げた。

また、元警察官の「仕事上のストレスに苦しんでいた」という主張については、「正当化する事情とはいえない上、警察官という法の遵守を強く求められる立場にあったことからすると、酌量の余地はなく、強い非難を免れない」として退けた。

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一方で、元警察官は、女性2人に対して慰謝料などを払い、示談が成立していること、懲戒免職処分を受けるなど、すでに社会的制裁を受けていることなどを挙げ、酌むべき事情は存在すると判断した。

最後に、静岡地裁沼津支部の奥山雅哉裁判官は元警察官を諭した。

「悪質性が高い犯行と指摘しましたが、そのような表現では言い尽くせないものであることは、実際にやったあなたにはわかっていると思います。医療機関への通院はあなたの助けになると思います。大変だと思いますが、新しい道を一歩一歩進むことを期待します」