かわの・たかのぶ
東京工業大学大学院修了。三菱総合研究所で市場リスク管理や金融領域を専門とする研究員として従事。グリーやベンチャー企業での勤務を経て、2016年6月株式会社バカンを設立。社名は「vacant」から。最近の息抜きの過ごし方は子どもと遊ぶこと。

IoTデバイスを駆使し混雑のない社会をつくる

 レストランやカフェ、あるいはトイレの混雑状況をリアルタイムで配信するサービスを展開しています。
 5月末には、地図上から施設ごとの空き状況を把握できるウェブサービス「VACAN(バカン)」の提供を開始しました。掲載しているのは飲食店や美容室、図書館や市民プールといった公共施設など。お目当ての店舗をタップすると、「空きあり」「やや混雑」「満」の3段階で混み具合を表示します。
 これまでは、おもに来店客の利便性向上を図る目的で導入されていましたが、ソーシャルディスタンシングが叫ばれるなか、「安心・安全の確保」の観点から検討されるケースが目立っています。引き合いが特に増えているのは宿泊施設で、大浴場やレストランにおける混雑状況の可視化ニーズが高まっています。全国で提供しており、今後は掲載店舗数をさらに増やしていく予定です。

人気飲食店の行列を解消
 当社のサービスを利用しているのは大規模施設ばかりでなく、中小規模の飲食店やホテル、旅館も少なくありません。
 例えば東京・浅草にあるラーメン店では、入店待ちの行列ができるのを防ぐため、ウェブ行列管理サービス「VACAN Noline(ノーライン)」を活用しています。路地裏にある人気店ゆえ、ピーク時には店頭に20人ほどの行列ができるなど、混雑の解消が課題になっていました。行列が広がらないようロープで規制したり、看板を出して注意を促したりしたものの、解決にいたりませんでした。
 店主はVACANを利用している近隣飲食店から評判を聞きつけ、サービスを導入。タブレット端末と整理券発行機を店頭に設置しました。端末から発行される整理券、もしくはウェブ上でデジタル整理券を取得し、順番待ちできるようになりました。自分の順番が近づくとメールで通知するため、わざわざならぶ必要はありません。飲食店を取り巻く環境はコロナ禍で激変しましたが、このお店の行列は解消しつつあるそうです。
 このように、われわれの提供するサービスの特長は、混雑状況を「リアルタイムに」把握できるところ。地図上から店舗等の混雑状況を調べられるサービスは従来からあったものの、データ反映までタイムラグがあり、即時性を確保するには高いハードルが存在していました。当社はカメラやセンサー、独自開発のIoTデバイスを駆使し、タイムリーな情報を提供しています。
 当社の提供するソリューションは大きく三つに分類できます。ひとつめはヒトが一切介在せず〝ノンオペレーション〟で運用する方法。人工知能(AI)がカメラ等から取得したデータを解析し、店頭やトイレ入り口にある電子看板に混雑状況を表示します。
 ふたつめは店舗スタッフが店内の混雑状況を目視して判断し、「IoTボタン」と呼んでいる専用デバイスで客に通知する方法です。このボタンには「空」「やや混雑」「満」の3種類のスイッチがあるのみ。採用まもないスタッフも簡単に操作できる利便性が評価され、一気に普及が進んでいます。
 そして三つめはNolineのタブレット端末を用いるアプローチ。店内が混雑してきたら店舗スタッフがタブレット端末を操作し、行列受付開始モードに切り替えます。するとタブレット端末やウェブ上から整理券を受け取れるようになる仕組みです。

譲り合いの精神を喚起
 混雑状況を可視化する対象として最初に選んだのは、「トイレ」でした。子どもを連れて商業施設に行ったとき、空室のトイレを探しまわるうちに子どもが泣き出してしまい、せっかくの楽しい時間が台無しになったことがあったんです。また、会社員時代もオフィスビル内のトイレがよく混雑していて、困った経験も少なからずありました。大学院で学んだ画像解析技術を活用し、そうした無駄な時間の削減に役立てられたらという思いから事業をスタートしました。
 今ではトイレ個室の空き状況を単に知らせるだけでなく、長時間利用の抑制を図るサービスも提供しています。「VACAN AirKnock(エアーノック)」というサービスで、個室内のタブレット端末がトイレの混雑状況をリアルタイムで表示。長時間の利用者には滞在時間がカウント表示されるようになっていて、自主的な退出を促します。あるオフィスビルでは、個室使用時間が月間約350時間減少するなど、その効果はてきめんでした。日本人には人を思いやる気持ちがある点を再確認できた出来事でした。 
 当面の目標は、VACAN掲載店舗を500店まで増やすこと。ゆくゆくは予約申し込み機能も追加し、利便性をさらに引き上げていきます。台湾の一部店舗も掲載していて、本格展開に向け準備を進めているところです。日本中のあらゆる施設が当社のサービスを利用することで、一見矛盾しますが、繁盛しつつも混雑のない社会を創り出したいと考えています。