総合人材サービスのマンパワーグループの特例子会社(※)であるジョブサポートパワーは、全社員の約70%を占める重度障がい者のための在宅勤務の仕組みを整備してきた。16年間、改善を重ねながら手作りで創り上げてきた仕組みは、コロナ時代の企業のあり方を暗示している。

「新型コロナウイルス感染拡大に伴い、在宅勤務を始めた会社が増えていますが、当社は2004年から取り組んできました。当初は7人でスタートし、その後、多くの社員が在宅勤務を前提にした採用試験を経て入社しています」
 総合人材サービスのマンパワーグループの特例子会社ジョブサポートパワー(東京都立川市)の代表取締役・小川慶幸氏が話す。主な業務は、グループ会社が新たに商取引をする際の与信判定業務や契約書のファイリング、発送、顧客リストの作成などだ。

全社員の約65%が在宅勤務
 全従業員160人のうち、マンパワーグループからの出向者が16人、プロパー社員は144人、障がい者は137人で内訳は約9割が身体、約1割が精神、知的で、半数以上が重度だ。
 在宅勤務の主な対象は働く意思がありながらも、通勤が困難な重度障がい者。対象者は2013年に全社員の半数を超え、20年8月1日時点で全社員の約65%の94人。首都圏や関西圏在住者が多い。
 就労場所は本社や横浜、大阪などのオフィス、マンパワーグループ各社のオフィスと社員の自宅で31都道府県に及ぶ。在宅勤務の場合は、採用の際に就労場所を「自宅」と決めて募集し、試験を行う。本人の希望や適性、障がいの部位や程度、心身の健康状態、PCスキルを確認したうえで採否を決める。
 在宅勤務の就労は通常週5日、1日6時間。基本的にオフィスへの出社や残業はない。心身の健康を重視するために労働時間の管理は厳格に行う。全員が午前9時の朝礼、午後4時の終礼に参加し、互いに出勤や退勤、健康状態を確認する。会社が、障がいの部位や程度に合わせたパソコンや周辺機器、ソフトを各自に貸与している。業務の報告や連絡、相談は主に電話やメール、マイクロソフトの「Teams」を使う。
 在宅勤務者だけで構成されるグループは七つ。1グループの平均は、8〜12人。センター長もしくはリーダーの下にサブリーダーが通常1人で、その下に社員がいる。健康状態に急変があった場合、社員間で担当業務を変えて、フォローする。そのため、日頃から情報共有を徹底させている。
 「社員間で常に声を掛け合うなどして関知し合い、健康状態や業務の進(しんちよく)捗(しんちよく)を確認します。在宅勤務はこれらの仕組みを設けないと、十分に機能しません」(小川社長)
 2018年までは、個々の社員の健康や業務の進捗・課題を正確に把握するために2人の業務コーディネーターを本社に置いていた。2人は各リーダーと毎日連絡をとり、状況を把握し、社長や人事総務部長に報告する。問題がある場合は社長か人事総務部長が早急に意思決定し、改善を図る。現在は社員が増えたために、業務コーディネーターをセンター長(現在5人)にして体制をより一層整えた。
 
機能させる三つのポイント
 小川社長によると、現在まで大きなトラブルや混乱はないという。それには、次の三つの理由が考えられる。まず、入社3カ月間の研修とその後のフォローである。
 この時期に研修グループの社員たちが、性格や協調性、技能、障がいの程度、特性、仕事をする際の課題、本人の考え、希望を丁寧に観察・聞き取りをする。特に協調性の有無を重視。グループに配属後、人間関係でトラブルが生じる可能性がある場合、本人にその旨を伝え、言動を改善してもらうようにする。改善の余地がない時は、3カ月終了後、さらに延長し、研修をするケースがある。ポイントは、研修をいわばルーティンワークとして3カ月終了後に機械的にグループに配属しないことだ。
 二つ目の理由は、配属会議、チーム編成方針である。研修後、新たな人材を受け入れたいリーダーたちが集い、センター長を交え、話し合う。まず、新入社員の障がいの程度や特性、性格、技能を共有する。その後、正式に受け入れたいリーダーは申し出る。複数の場合、調整し、いずれかのグループに配属する。受け入れを願うリーダーが1人もいない場合、研修を延長。受け入れるリーダーが現れるまで続けるが、通常その期間は短い。
 グループメンバー編成の際に重視するのが技能。リーダーは本人がどのような仕事をどのレベルでできるのかを丁寧に確認する。年齢、性別は参考程度だ。
 「技能をもとに編成をしないと、後々、トラブルになります。優れた技能を見いだし、伸ばしていくことが、障がい者雇用を安定化させるためにも重要です」(小川社長)
 配属後、リーダーとの関係が悪化し、修復が難しい場合は、状況いかんでは社員が他のグループに異動になるケースがある。なお、障がいの程度はグループの全員が把握するようにしている。公にしたくない社員もいる場合、その考えを尊重し、非公開とする。
 そして、三つ目は業務設計、在宅勤務者の手作りの制度だ。
 センター長の上田玲奈氏は、4人(他の3人は北海道と神奈川県、兵庫県在住)グループのリーダーでもある。主に予算作成管理から売上管理、全社員の勤怠管理、広報を担当する。入社した2013年から社員たちと仕事の進め方、情報共有のあり方について合意形成をしてきた。それらを実践して改める点を見つけ、改善を繰り返した。
 「フォルダなど情報を共有するツールの活用は不可欠で、特に力を入れてきました。在宅勤務でトラブルはなく、不便さも感じません。みんなで話し合い、パソコンでほとんどの作業ができるようにしてきたのが大きいですね」(上田氏)
 各グループの業務は、障がいのある社員自らが、働きやすいように設計してきたものだ。手作りの在宅勤務制度とも言える。その一つが、データの容量が大きい場合の対応だ。現在は、オンラインストレージ(インターネット上でデータが保管できるディスクスペース)を使用している。
 「多くの障がい者を雇い、育成するなかで、必要に迫られその都度態勢や仕組みを整えてきました。今後は、在宅勤務を全社員の9割にするために、さらに環境を整備していきたいと思います」(小川社長)
 この現場目線にもとづいた在宅勤務制度には、学ぶ点が数多くありそうだ。  (ライター・吉田典史)
※特例子会社…企業が障がい者の雇用を促進する目的でつくる子会社のこと

COMPANY DATA
ジョブサポートパワー
設 立 2001年1月 (特例子会社として認定は2003年)
所在地 東京都立川市曙町2丁目34-7ファーレイーストビル8階
従業員数 144人