カカトを潤し、足元から体を温める――。二重編みの機能性靴下「ラブヒール」は、1993年に開発されて以来、現在でも年間15万足以上売れているロングセラー商品だ。「これがないと冬が越せない!」という熱烈なファンが全国にいるという。

 ラブヒールの開発・生産を行っているのは、愛知県西尾市にある有限会社石川メリヤス。作業用手袋の製造を中心とする1957年創業のニット工場であり、2代目社長の石川君夫氏は作業用手袋以外の商品開発にも積極的に取り組んだ。従業員数は26名という小規模工場ながら、「ニット小物の製造なら何でもできる。他の工場でできないことを頼まれることが多い」(石川氏)という自信と気概に満ちている。
 ラブヒールはアウター(外側)とインナー(肌側)の二つのニット生地を縫い合わせ、カカト部分には特殊保温シートを縫い込んで作られている。石川氏の長女であり、2016年に3代目社長に就任した大宮裕美氏が、生地に使っている糸の特徴を説明する。
 「アウターは当社オリジナルの紡績糸で、極細のアクリル繊維とナイロンおよびウールを配合して紡績してもらい、ソフトでしなやかな糸にしました。空気をたっぷり含むため、断熱効果があります」
 一方のインナーはセラミックを練り込んだ特殊糸を使用。遠赤外線の温熱効果を得られる。大宮氏は、着け心地へのこだわりも強調する。
 「つま先付近に縫い目が残らない横編み機で作っているため靴を履いても違和感がありません」
 この靴下を買いやすい価格で大量に生産するのは容易ではなかった。開発者である石川氏は、編み立て以上に縫製工程に苦労したと振り返る。
 「インナーとアウターはつま先と履き口(裾)のところで縫い合わせています。どちらも真っ直ぐに縫わないと、インナーとアウターが一致せず、一つの靴下になってくれません。優秀な内職さんに慣れてもらうことが必須でした」
 
最盛期には年100万足販売
 愛知県は戦前から繊維産業が盛んで、石川メリヤスが位置する西三河地方は「特紡(とくぼう)」と呼ばれる繊維のリサイクルの中心地。紡績や編立の工場だけなく、それを支える内職の技術も根付いている。ラブヒールの安定的な生産には地場の「内職さん」の存在が欠かせない。
 最盛期には年間100万足も生産していたラブヒール。しかし、どんなものにも寿命はある。卸売りを中心とする石川メリヤスは自社で小売価格を決められない。一時はネット通販などでラブヒールを安く大量に売られてしまい、値崩れが起きた。
 「値が戻ったときには、地方の洋品店などの売り手が減ってしまっていました。商品を大事にしてセールなどはしない店もありますが、かつてほど数は出ないのが現状です。(コロナ禍の)今年は10万足を割り込むのではないかと予想しています。社長交代の際も、父からは『ラブヒールは死んだものだと思って新しいことに取り組め』と言われました」
 3代目社長の大宮氏は厳しい見通しを隠さない。危機感をバネにして、後述するように新たな商品開発に取り組んでいる。
 ただし、愛用してくれる顧客がいる限り、ラブヒールにはまだまだ可能性があるとの考えも貫く。では、今後も長く愛される商品にするためには何をどうするべきか。
 「ラブヒール自体はシンプルなデザインで、抜群の温かさと履きやすさが魅力です。それをパッケージなどで若い世代にもわかりやすく伝えていく努力、すなわちブランディングが欠かせません」
 将来的には全商品のリ・ブランディングを予定しているという大宮氏。そのためには「石川メリヤスらしさ」という横串を通して、統一感を出していくことが大切だと考えている。
 「石川メリヤスらしさとは、シンプルに見える商品の中にも機能や使い心地へのこだわりが詰まっていることです。原料である糸選びから編み方、包装の仕方に至るまで、『毎日身につけても飽きが来ない』商品作りを全社員で追求しています」
 新パッケージにも「10年後も使えるような色あせないデザイン」をデザイナーに求めた。製造や物流、販売現場、さらには環境への配慮も欠かせない。積み重ねやすく、側面からでも種類がすぐに判別できるようにし、プラスチックは使っていない。結果として、積み重ねると小さなボックスティッシュのように見える独特のパッケージが生まれた。
 「パッケージだけではありません。履き口のデザインを変えたり、ラブヒールのラインアップに新しい色を加えたりと、時代に合わせたプレゼンテーションを心がけています」
 
ニットマスクにヒットの兆し
 高品質で安定的なモノづくりに誇りを持っている石川メリヤス。しかし、モノがあふれる現代では、時代のニーズをくみ取って、商品開発や改良をし、効果的に告知しなければならない。大宮氏がそれを実感したのが、コロナ禍の要請に応えて素早く開発したニットマスクだ。
 「本体からヒモまで、すべて無縫製の一体型ニットマスクなので、縫い目が肌に当たらず、耳が痛くなりにくいのが特徴です。既存の機械と使い慣れた糸を使い、みんなで知恵を絞って開発しました」
 気温が上昇してきた6月には「涼しさ」を追求した夏用のプリーツ入りマスクを新たに開発。生地に凹凸が出る編み方を取り入れ、マスクと肌の接触面積を減らし、息苦しさや生地が顔に張り付く不快感を軽減した。上下の長さの調整が可能で、顔の大きさや形に合わせて伸縮してフィットする。
 「宣伝にはPRTIMESというリリース配信のネットサービスを利用しました。反響は想像以上です。ネットで話題になっただけでなく、新聞やテレビにも取り上げていただき、生産が追いつかないほどでした」
 機能性を追求したこのマスク。期せずして独自の形状が生まれ、「高級車の顔のようだ」という評判も獲得。石川メリヤスの新たなロングセラー商品になりそうだ。
 「でも、マスクが必要な世の中が続いてほしくはありません。早く他の商品へのニーズが出てくれればいいと思っています。長く売れる商品があると作る側は確かに楽ですが、最初からロングセラーを作ろうとすると開発方針がブレてしまいます。私たちは、消費者でもある自分たちが欲しいと思うモノ、お客さんに喜んでもらえるモノを懸命に開発してしっかり生産するだけです」
 自らに言い聞かせるように表情を引き締める大宮氏。創業者である祖父の石川進氏の口癖は「メーカーの基本は何よりも品質」だったという。最初からロングセラーを狙うことなく、時代のニーズに応えて品質を高めることに集中する。真のロングセラーはそこから生まれるのかもしれない。

COMPANY DATA
石川メリヤス有限会社
創 業 1957年4月
所在地 愛知県西尾市吉良町富好新田紺屋堀27-2
売上高 6億6000万円
社員数 26名(パート含む)