元ガールズバー経営者のA子さん(25)が東京・西新宿の自宅マンション敷地内で川崎市の運送業、和久井学容疑者(51)に刺殺された事件。かつて「太客」だった容疑者が「開店資金」として工面した約1000万円を取り返そうとこじれた末のトラブルとみられていた。同容疑者は趣味のレアバイクやスポーツカーを処分して捻出した大金を騙し取られ、「俺はストーカーじゃない」と主張していたが、A子さんの友人が「2年以上前からストーカーされ怖いと相談を受けていた」と証言、容疑者の別の側面も明らかになってきた。

「マンションの下で待ち伏せしている」「怖くてご飯も買いに行けない」

A子さんとは3年来の友人で、自身もキャバクラに勤務しているという20代の女性は証言の冒頭、「ネットで出回っている情報はまったく違うし、少なくとも私は2年以上前から和久井さんにストーカーされていて怖いとAちゃんから相談を受けていた」と怒りをあらわにした。

「Aちゃんは、私が以前働いていたキャバクラの最後の出勤日に『ずっとお会いしたかったんです〜』とSNSを見て駆けつけてくれたことから仲良くなったんですけど、当時から和久井さんについては悩んでいました。

初めて一緒にご飯に行ったときも、『あ、ちょっと待ってください』とやけに集中してスマホを打つので、理由を聞いたところ『ヤバいお客さんがいて、その人から鬼LINEがきてて困ってるんですよ〜』と打ち明けてきたんです。

発信元は和久井容疑者だった。

「それで『え、どんな〜?』と軽い流れで見せてもらうと、そのトーク画面には、5行くらいの長文メッセージが一方的に5個も6個も送られていて思わず『え、ヤバくない、そいつ⁉』と驚いてしまいました。

Aちゃんも『これキモくないですか〜?』とそのときは苦笑いしてたくらいですけど、一昨年の初めくらいかな? 彼女と電話してたら、『実はお客さんにストーカーされて困っていて...』と深刻に相談してきたんです。

その相手が、どうやら以前、鬼LINEをしていた男性らしくて『マンションの下で待ち伏せしていることがあるから、怖くてご飯も買いに行けない』と嘆いていました」

A子さんからの相談は、以降も続いたという。

「AちゃんとはLINEのやり取りは続けていて、『警察に何度も相談しているのに(和久井容疑者が)警告を無視して本当に困っている』とか『ストーカーが配達員のフリして玄関の前まで来たりした』とか『一日中マンションの下にいて殺人予告とかもしてくる』と相談してきました。

もちろんキャバ嬢の子って、自分のことを大げさに話す子も多いし『本当なのかな?』と半信半疑で聞いていました。その後、2022年の5月ごろに『もうストーカー捕まったんで大丈夫です〜』と言い出して、それ以来はこの話題を話すこともなくなったので安心していたら、こんな事件が起きてしまって。

最後に電話したときも『おかげで超元気になりました!』とうれしそうに話していたのに、どうしてこんなことになってしまったのか...という気持ちでいっぱいです」

「Aちゃんは本当にいい子なんですよ」

女性によればA子さんは新潟県出身だったという。

「Aちゃんは18歳のころに地元の新潟県上越市を出て、名古屋のキャバクラで3ヶ月働いてから上京して、銀座のキャバクラで働き始めたみたいです。

私と出会った当時からAちゃんには銀座のキャバクラ時代の同僚だったという彼氏がいました。その人とは何年か前に結婚したけど、つい最近は『旦那と離婚するかも〜』とも話していましたね。

それと、AちゃんはSNSではけっこう強気な発言をしてましたけど、中身はふつうの20代の女の子というか、本当にいい子なんですよ。私と話しているときも『うんうん』と向き合いながら話を聞いてくれるし」

銀座のキャバクラで一時はナンバー1を張り、その後、上野でガールズバーを経営するようになると「キャストの子には弱音は吐けないので」とこぼしていたという。

「だからか、かわりによく私に相談してきました。それこそ和久井さんの件で悩んでいたからか、Aちゃんは当時からよくデパス(抗不安剤)や睡眠剤を過剰摂取してましたね。

LINEのやり取りも『ストーカーの客と戦ってたらこっちまでメンタル死んでました』とか、Instagramの友達限定のストーリーでも『デパス1シート(10錠)飲んじゃった〜』と言ってましたし、その状態で電話をかけてきたことも何度もありました」

そんな若手女性経営者を恐怖のどん底に陥れ、そのうえ命まで奪ってしまった51歳バツイチ男について、前職の運送業で同僚だった60代の男性は「和久井は趣味に生きる人で浮ついた話は聞いたこともなかった」と振り返った。

「あいつは根っからのHONDA党でね、お互い前職を辞めたあとも、たまにウチに寄ってバイクや車の話をペラペラとうれしそうに話していたな。

当時はまだ運送業の景気もよかったから、前職で貯めたお金でHONDAのスポーツカー『NSX』とレーサー仕様のレアバイク『NR』も買ったんじゃないのかな? どちらも中古で買ったらしく、当時はそんなにプレミア価格は付いてなかったよ。『NSXは300万円くらいで買いました』とか言ってたし。

俺も昔はバイクとか車は好きだったから、趣味を共有したかったんだろうね。ウチに来るたびに『エアロパーツ組んだんですよ』とか『フルカバーのヘルメット買ったんですよ』とか『Sタイヤに買えて、今度富士スピードウェイに行くんですよ〜』なんて自慢しにきてさ。

たしかヘルメットは十数万円したとかで『ぜひ被ってみてくださいよ』とか言うもんだから『お前のニオイしかしねえのに被りたくねえよ』と冗談交じりに返したら、あっちも笑ってたよ」

元同僚は「空気の読めないところはあったよね」

この男性にとって、趣味に生きがいを見出す「同僚」はまぶしくもあった。

「そうして自慢されるたびに『こんなのに金かけてバカだな〜』と茶化してたけど、俺としてはやっぱり趣味に生きられる人って、うらやましかったんだよね。逆にあいつからは女性の話なんて一度も聞いたことないし、前職のころに結婚してることは知ってたけど、浮いた話も一切ゼロって感じ。

だから話の流れで、ある日に『実は最近離婚しまして...』と聞いたときは『ご苦労さん。車とバイクに夢中になりすぎたんじゃないの?』と言ってやったら、本人も気にする素振りもなく『ハハハ』と笑ってたよ」

そんなバイクと車のオタクに「異変」が起こったのは約3年前のことだった。

「配達途中にウチに寄ったあいつに『最近乗ってんの?』と聞いたら『乗ってるには乗ってますけど、そろそろ売るかもしれないです』と言い出したんだよ。

理由を聞いたら『もう年だし、近所を周るのもラクな車にしたいんですよね』とか『維持費も高いし、それだったら乗ってくれる人に乗ってもらったほうがいいかなって』とか言うもんだから、ちょっと感心したね。

だって車好きでも、乗らずにコレクションにする人も多いわけでしょ? そんななかで、乗ってもらえる人に車を譲ろうとしてると知ったときは『こいつは本当に車が好きなんだな』って思ったよね」

このとき和久井容疑者がA子さんにハマって貢いでいることは、同僚には一切感じさせることはなかったという。

「趣味に生きる人ってみんなそうだと思うけど、和久井はとにかく、一方的に自分の好きなモノについて話すというか、悪く言えば空気の読めないところはあったよね。

こっちの反応が薄くても、『この前、HONDAの青山一丁目のショールームで電動自動車を試乗してきたんですよ』とか『今度F1の上映会があるんですよね』みたいなことを永遠に話し続ける。

当時は給料をすべて趣味に注ぎ込んでいて、もうそれしか見えていない感じだった。だからキャバクラの女性に対しても、そうして前のめりになっていったんじゃないのかな。ましてや女性のために大好きな車やバイクまで売ったそうだし、それで騙されたというのなら相当思うところもあったんじゃないの」

いずれにせよ、25歳で命を奪われたA子さんの運命は悲しすぎる。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班