ドラフト研究の第一人者であるスポーツライターの小関順二氏が「チーム編成」の視点から12球団の戦力を徹底分析した書籍『2024年版 プロ野球 問題だらけの12球団』。

一部を抜粋・再構成し、昨季はGW前には借金7で最下位だったものの、今季はまだ踏ん張っている中日ドラゴンズの戦力を分析する。

中日のドラフトは〝失われた10年〞になるのか

立浪和義氏の監督就任が決まった21年から中日のドラフトがおかしくなった。23年版では根尾昂の遊撃手から投手へのコンバート、さらに根尾のレギュラー遊撃手定着の壁になっていた京田陽太(DeNA)、阿部寿樹(楽天)を次々にトレードに出し、いなくなった内野手の穴をドラフトで補塡するチーム作りを批判して、次のように書いた。

「『ドラフトでは即戦力候補の内野手、村松開人(明治大2位)、田中幹也(亜細亜大6位)、福永裕基(日本新薬7位)を獲っていますから』そういう反論が聞こえてきそうだが、私が一番嫌いなのは『即戦力』という言葉。耳に快い響きに多くの球団はこれまで貴重な上位枠を無駄遣いしてきたが、そうならないよう心から期待している」(『2023年版プロ野球問題だらけの12球団』より)

過去3年のドラフトでどういう野手を指名してきたのか振り返ってみよう。

21年 1位ブライト健太(上武大・外野手)、2位鵜飼航丞(駒澤大・外野手)

22年 2位村松開人(明治大・内野手)、4位山浅龍之介(聖光学院高・捕手)、5位濱将乃介(日本海オセアン福井・内野手)、6位田中幹也(亜細亜大・内野手)、7位福永裕基(日本新薬・内野手)

23年 2位津田啓史(三菱重工East・内野手)、3位辻本倫太郎(仙台大・内野手)

彼らがいなくても、捕手石橋康太、一塁手中田翔、二塁手龍空、三塁手石川昂弥、遊撃手カリステ、左翼手上林誠知、中堅手岡林勇希、右翼手細川成也という布陣は組めた。そう考えると過去3年のドラフトは何だったのかと思う。

順調なら28年オフには岡林、29年オフには石川の国内FA権取得の話題が出る。今のままのチーム状況(勝てない、内外からの監督批判、年俸への不満)で岡林や石川が残留すると考えるのは相当能天気。野手陣の力が落ちたらそれを補うのは投手力である。現在の西武を見ればそういう理屈が腑に落ちる。

ところが20年以降、中日は野手偏重のドラフトを繰り返してきた。主力投手の国内FA権取得は、柳裕也が25年オフ、小笠原慎之介はポスティングシステムを活用したメジャー挑戦を表明しているのでXデーはそう遠くない。

それらを考えると、立浪監督の道楽と言っていい〝二遊間集めドラフト〞をやっている時間的な余裕はないのである。落合博満GM(13年オフ〜17年1月)の〝社会人集めドラフト〞といい、過去10年の中日はどこへ向かって走っているのか誰にもわからない迷走状態にあると言っていい。

これほど悪い条件が揃っても、24年のチーム状況がそれほど悪く見えないのが不思議だ。落合GM、立浪監督と被らない17〜20年のドラフトで獲得した選手たちがチームに明るい光をもたらしているのである。

17年……4位清水達也(花咲徳栄高・投手)

18年……1位根尾昂(大阪桐蔭高・投手&野手)、2位梅津晃大(東洋大・投手)、3位勝野昌慶(三菱重工名古屋・投手)、4位石橋康太(関東一高・捕手)

19年……1位石川(東邦高・内野手)、5位岡林(菰野高・外野手)

20年……1位髙橋宏斗(中京大中京高・投手)、3位龍空(近江高・内野手)

落合、立浪両氏のドラフトはチームを小さく縮めてきたが、これから舵取りをするフロントマンにはその逆を行く、スケールの大きいオリックス型のチーム作りをめざしてほしい。

その役割を担うのは結果こそ出ていないが18年組の4人。根尾は大谷翔平に続く〝二刀流〞になれる可能性を依然として秘めていると思うし、4年間で通算7勝6敗の梅津の可能性も否定しない。

私は星野仙一氏の信者ではないが、星野氏は最下位になることを恐れず次代の若手を積極的に抜擢してきた。96年にホームラン王になった山﨑武司(当時中日)、90年の立浪(当時中日)がいい例で、今もちょうど最下位を恐れずに若手を抜擢できる時期である。

スタメン分析 中田翔の移籍で中軸が固まる

中田翔は22年オフに巨人と3年契約を結んでいたが、23年オフにオプトアウト権(複数年契約を選手自身が破棄すること)を行使して自由契約になった。秋広優人の成長で出番が少なくなった巨人を出る以上、攻撃力の低い中日を選ぶのは当然だ。23年の中日のチーム打撃成績は以下の通り。

打率・234(10位)本塁打71(12位)得点390(12位)盗塁36(11位)

日本ハム時代、本拠地が広い札幌ドームでありながら261本のホームランを記録した中田なら、本拠地をホームランの出にくいバンテリンドームに変えても自分の力は十分に発揮できると考えていい。中田の昨年までのプロ通算成績も紹介しよう。

打率・250本塁打303打点1062※打点王3回(14、16、20年)ゴールデングラブ賞も一塁手として5回受賞し、国際大会は、WBCに2回(13、17年)選出され、17年の同大会ではホームランを3本放ち、15年に選出されたWBSCプレミア12では打率・429、安打12(参加選手中1位)、本塁打3、打点15(1位)を記録、大会後、ベストナインに選出されている。

マスコミは広いバンテリンドームをホームにするマイナス面ばかり強調するが、中田の真骨頂は打点。大島洋平、岡林勇希といったチャンスメーカーもいるし、今年は塁上に走者を置いた場面が多く見られそうだ。

ファームで注目するのは21年2位の鵜飼航丞(外野手)だ。23年のファームでの成績、打率・287、安打80、本塁打7、打点38は、安定感と長打力が両立しているのがいい。台湾で行われたアジアウインターリーグには16試合出場し、打率・280、4本塁打、12打点(リーグ2位)を残している。

巨人の成長株、萩尾匡也(外野手)が同リーグで打率・326を記録し、注目されているが、鵜飼のことを「(岡本)和真さんとかウォーカーのバッティング練習を見ているような感覚で、スイングも鋭い。鵜飼さんをよく見るようになって、ストイックに毎日ウエートトレをやっていた。そういうところを見て僕も台湾では毎日ウエートについていくように頑張ってみました」(『サンスポ』配信、2023年12月18日)と語っている。

レギュラー捕手の確立も課題だ。21、22年に120試合にマスクを被った木下拓哉が昨年87試合に減少したのは骨折が原因。23年6月に行われた試合中、涌井秀章のワンバウンド球を捕り損なったときに発生したもので、昨年の後半には一軍の試合にキャッチャーとして出場している。

ただ、もう大丈夫と軽々に言えないのは、木下の欠場中に一軍で起用された石橋康太や日本ハムから移籍した宇佐見真吾が頭角を現しているからである。とくに石橋は今年24歳の成長株でチームの将来も担っている。木下に悠長に構えている余裕はない。

チームの課題である二遊間の確立は、難問だ。昨年、各選手が同ポジションに就いた試合数は以下の通り。

二塁……村松開人70、福永裕基68、龍空19、石垣雅海15

遊撃手……龍空96、カリステ34、村松開人30、溝脇隼人24(自由契約)

福永は8月22日以降の試合が多かったにもかかわらず打率・241、本塁打2を記録、シーズン通算守備率・979も村松、龍空を上回っている。二塁は打撃でライバルの上を行く福永がレギュラーに最も近い。

ピッチングスタッフ分析  
先発、リリーフとも数字以上に充実している

先発、リリーフとも充実している。昨年のチーム防御率3.08(2位)、ホールド142(1位)がそれを証明している。リリーフ陣では防御率2点以下が多いことに驚かされる。守護神マルティネスの0.39をはじめ、齋藤綱記0.73、藤嶋健人1.07、松山晋也1.27と続き、2点台も勝野昌慶2.01、福敬登と2.55が並ぶ。

セーブ37はリーグ4位に過ぎないが、このうち抑えのマルティネスにセーブポイントがついたのは32試合。リードしている展開でないとつかないのがセーブポイント。

チームが2年連続最下位で、チーム得点390は同リーグ5位広島の493に100以上後れを取る、圧倒的(12球団中)最下位。そしてマルティネスの防御率0.39はセ・リーグのリリーフ投手全般の中でも圧倒的ナンバーワン。

40イニング以上投げた中に防御率0点台は他におらず、1点台も石井大智1.35、岩崎優1.77、桐敷拓馬1.79(ともに阪神)、ターリー1.74(広島、現楽天)、ウェンデルケン(DeNA)1.66、田口麗斗(ヤクルト)1.86、藤嶋健人(中日)1.07だけ。その中でも藤嶋が第2位なので中日リリーフ陣の充実ぶりがわかる。

マルティネスはストレートが最速161キロの速さで、さらに投球フォームが正真正銘のオーバースロー。193センチの長身の頭上高くからリリースされる球に、打者は2階建ての家の屋根から投げ下ろされているような錯覚を覚えるのではないか。

昨年の与四球率0.77、奪三振率11.96も完璧。球数の少ないリリーフ投手には珍しく、ナックルカーブ、ツーシームファストボール、チェンジアップ、スプリットを備え、日本人には徹底してストレートで攻めるのに対し、外国人にはナックルカーブ、チェンジアップなどを連投して打ち取るなど、状況に応じたピッチングができるところが秀逸。

21年オフに3年契約を結んでいるので、それが切れる今季のオフはメジャー各球団を交えた争奪戦が演じられるのは必至。マネー合戦になったら勝ち目はないので、それ以外の魅力で対抗しなければならない。今から準備しないと大変なことになる。

先発陣も頑張っている。昨季、柳裕也は4勝11敗だが、6イニング以上投げて2失点以内が15試合あり、その勝敗は3勝5敗。チームがまともな得点力を備えていればすべて勝っていてもおかしくないので、16勝6敗の可能性もあった。

それほど攻撃力には泣かされてきたのに、7月以降、失点2以内で6イニング以上投げた試合が10試合もあった。防御率2.44は勝敗だけで評価されてなるものか、という柳の反発力の強さを証明している。

髙橋宏斗の昨季の7勝11敗、防御率2.53にも柳と同じような不運のあとが見える。23年5月7日の巨人戦は7回投げて1失点、6月4日のオリックス戦は7回投げて無失点、8月26日のDeNA戦も7回投げて無失点でも勝ち負けなしという不運。

WBC決勝のアメリカ戦では3対1でリードした5回に登板、トラウトをフォークボール、ゴールドシュミットを156キロのストレートで三振に取ったシーンは日本中の野球ファンが見ている。

ペナントレースの7勝11敗という成績とWBCで見せた熱量の差、つまり国際大会とペナントレースのインパクト(衝撃度)の差の中に、野球ファンに晒している現在の中日の姿が認められるのである。

先発は他にも小笠原慎之介、涌井秀章、福谷浩司、松葉貴大がいて期待の梅津晃大は昨年、8月31日にトミー・ジョン手術からの戦列復帰を果たし、9月にも2試合登板し、9月25日の阪神戦では先発して1失点に抑え1177日ぶりの勝ち星を挙げている。こうして見ると投手陣のレベルは阪神、広島に次ぐ高さと言っていい。


図表/書籍「2024年版 プロ野球問題だらけの12球団」より
写真/shutterstock

2024年版 プロ野球 問題だらけの12球団(草思社)

小関順二
2024年版 プロ野球 問題だらけの12球団(草思社)
2024/2/27
1,870円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4794227164

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【12球団 今季はどうなる?】

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