累計400万部シリーズのベストセラー小説『夢をかなえるゾウ』。
その最新作となる『夢をかなえるゾウ4 ガネーシャと死神』(文響社刊)が7月に出版された。

前作『夢をかなえるゾウ3 ブラックガネーシャの教え』から約5年の歳月をあけての本作は、余命3ヶ月を宣告された家族を愛する会社員が、ガネーシャの教えに従いながら、死ぬときに後悔を残さないように自分自身を変えていくというストーリー。
また、「夢をかなえる」ということを根幹から問い直し、「どうしようもないこと」にどう向き合うかという、これまでの自己啓発の本流とは一線を画すテーマが含まれている。もちろん、主人公とガネーシャの漫才のようなやり取りは健在だ。

新刊JP編集部は作者の水野敬也さんにお話をうかがい、個性あふれるキャラクターたち、そして今後の書きたいテーマなどについて聞いた。

(取材・文:金井元貴)

■「惨めさとの対峙」がこれまでのベストセラーを生んだ

――この5年間の水野さんの変化についてお話をうかがってきましたが、ご自身の中で本を書く理由は変わりましたか?

水野:いえ、それは全く変わっていないです。惨めさを感じている人たちのために僕は本を書いていますし、それはずっと一貫しています。

自分自身も惨めな思いをしてきましたからね。男子校に通っていた学生時代、イケメンの男子が女子高の女の子たちからモテているのを見ていて、何とかこの状態をひっくり返さねばと思って、『LOVE理論』が生まれました。僕は必死にピラミッドを登ろうとしていたんですね。

ただ、自分はそのピラミッドに惨めさを味わって、そこを登っていく方法を半生かけて追い求めてきたけど、そもそもこの構造っておかしくない?と思ったのが、『夢をかなえるゾウ3』を出した後の変化なんです。

どんな肩書きを持っていても同じ人間です。例えば芸能人だからすごいっていうのは、勝手に作られたある種の偏見です。ただ、その偏見があるからビジネスが成立している部分もあって、資本主義としてはそちらの方が、都合がいいわけです。価値にお金が動くわけですから。

でもそれって、ピラミッドの下の方で普通に生きている人たちに惨めさを与える結果になっていますよね。だから、そこで生まれる惨めさと闘っているんです。

――例えばSNSではフォロワー数であるとか、人気を示す数字的指標がありますね。

水野:そうですね。フォロワー数を追い求めはじめると、資本主義に巻き込まれてしまいますよね。

――お話をうかがって、水野さんは革命家的なマインドをお持ちなのかなと。

水野:単純に自分が惨めさを抱えていて、それを解消したいというところがあるんでしょうね。

『夢をかなえるゾウ4』の出版にあたり、書店で配布する小冊子をつくったのですが、内容はガネーシャへのインタビューです。そこで僕自身をネタに出して、水野敬也を馬鹿にするようなことを書いたんですけど、みんなその冊子を褒めてくれるんですよ。確かにすごくしっくりくるんです。なんでだろうと思ったら、僕は自虐を通して他者の惨めさを解消しているんですよね。読んだ人が「こんな人もいるんだ」と思う。それが自分の生きる道なのかなと。

それを革命と呼んでいただければありがたいですが、自分のテーマとしては「惨めさとの対峙」というものがあって、ずっと取り組んできたということなのだと思います。

――『夢をかなえるゾウ4』が今までとは変わった印象を持たれつつ、でもガネーシャのブレなさも読みどころの一つだと思います。

水野:それはすごいですよね。本当にガネーシャはブレていないんですよ。僕はこんなにブレているのに(笑)。『夢をかなえるゾウ』の1巻から3巻が新装文庫版で発売されることになって、読み直したんですよ。そうしたら、『夢をかなえるゾウ1』の最後で「成功だけが人生じゃない」とガネーシャが言っているんです。

これ、自己啓発書としてはハシゴ外しですよね。当時の僕は、ガネーシャが言いそうだと思って書いたんですけど、この時点ですべて知っていたんだなと思いますね。

■悩みが深ければ深いほど、プラスに転じたときの癒しも大きい

――『夢をかなえるゾウ』を執筆するときに、キャラクターの作り方ってどうされるんですか?

水野:僕は主人公の立場になって、自分自身の経験だったり、感じたこと、そこで生まれた疑問をガネーシャにぶつけるという形で書いています。納得できないことをガネーシャにぶつけて、彼が言いそうなことが返ってくる。その対話の繰り返しです。

――ストーリーを作る際のプロットは立てるのですか?

水野:今回はプロットを作っています。ただ、いつも作っているわけではないです。

なぜ今回プロットがあったかというと、「夢をかなえても幸せになれるわけではない」というテーマの本を書いていて、それを捨てたんですよ。で、『夢をかなえるゾウ4』に取り掛かる時にそれを下敷きにしたプロットを10分程度で書いて、担当編集者に見せました。

――『夢をかなえるゾウ4』はガネーシャの優しさが出た本だったと思います。

水野:優しいですよね。口は悪いけれど、すごく優しい。その意味では、優しさがコンテンツになってくるんでしょうね。

最近、ある寺院の普段は入れない場所にお参りをする機会をいただいたんです。そこには、上の方に釈迦の像が鎮座されていて、僕は座ってその像を見上げながら、お坊さんのお経を聴くんですけど、すごく感動したんですよ。

この感動は何だろうと思っていたんですけど、ここで普段は会えない仏像の前にお参りをすると、普段の悩みや苦しみ分が仏像の前に行くとそのまま感動に転じるんです。つまり、普段マイナス100の悩みがあるとすると、そのままプラス100の癒しを得られるということです。

そこで、これが、僕が自分の書いている本で目指しているものだと思ったんです。

――悩みが深ければ深いほど、大きな感動を得られる。

水野:そうあるべきだと思うんです。この世界が完璧で素晴らしいのだとしたら、苦しんだ人は報われるべきだし、ガネーシャは全知全能の神様ですから、そうするのは彼の義務だと思っています。

――死神のキャラクターも好きです。要所で重要な役割を果たしますね。

水野:『夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神』にも出てきますが、死神なのでどこまでコミカルにするのかというのはありました。ただ、やはり存在的に、怖さをまといつつ、教えを伝えるというキャラクターですね。あまり死神については悩みませんでした。

――そして、釈迦ですね。

水野:「釈迦がいないとこのシリーズではない」というようなキャラクターなんですが(笑)、扱いが難しいんです。悟りは釈迦の専売特許なので、釈迦が話すパターンもあるのかなと思っていましたが、やはりガネーシャに話させました。

■気になる続編のテーマは…?

――水野さんにとって『夢をかなえるゾウ』とはどんな作品なんでしょうか。

水野:『夢をかなえるゾウ』は超えるべき存在で、そのために行動をしたり、経験をしたりするんですけど、結局すべてこのシリーズが呑み込んでいくんですよ。だから、本当に踊らされているような感覚です。

逆に自分は『夢をかなえるゾウ』シリーズを書くためだけに存在しているんじゃないかと思うくらいなんですけど、それは自分にとって喜ばしい話かというと、感情的にはちょっと微妙ですね(笑)。もちろん、そういうシリーズがあって嬉しいんですけど、もっと自分はできるんだという思いもあるので。

――『夢をかなえるゾウ』には運命めいたものがありそうです。

水野:あると思います。今年、初めてインドに行ったときに、ガネーシャについて現地で調べたんですが、手にアイスクリームみたいなものを持っていて、それって実は甘味なんです。だから、ガネーシャがあんみつ好きという設定は全然間違いではなくて。最初はノリで書いていたけれど、続ければ続けるほどしっくり来るんです。運命というか、不思議な縁を感じます。

――『夢をかなえるゾウ4 ガネーシャと死神』ですが、どんな方に読んでほしいですか?

水野:まずは「夢をかなえたい」と思っている人に読んでほしいですね。こういう考え方もあるのか、と思っていただければ。そして、逆に夢を持っていない人にも読んでほしいです。

また、これまでの『夢をかなえるゾウ』シリーズをずっと読んできた人はもちろん、自己啓発書が苦手、好きじゃないという人にもぜひ。多分、今まで抱いてきたイメージがガラっと変わると思います。4巻からいきなり読んでも大丈夫です。

――では、次に書きたいテーマはなんですか?

水野:『夢をかなえるゾウ』の続編でできそうなテーマが、「そもそも夢を持っていない」という状況です。「どうやったら夢を持てるの?」「そもそも夢って必要?」という根本を問い直すテーマを、『夢をかなえるゾウ』シリーズでやらないといけないなと。ただ、すぐにできるかは分かりませんが(笑)。

――楽しみに待っています。

水野:僕も待つ側の人です。思い描いた通りにならないのが、このシリーズなので(笑)。

(了)

■水野敬也さんプロフィール
愛知県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。著書に『夢をかなえるゾウ』シリーズ、『人生はニャンとかなる!』シリーズほか、『運命の恋をかなえるスタンダール』『顔ニモマケズ』『サラリーマン大喜利』『神様に一番近い動物』『たった一通の手紙が、人生を変える』『雨の日も、晴れ男』『四つ話のクローバー』『ウケる技術』など。また、鉄拳との共著『それでも僕は夢を見る』『あなたの物語』『もしも悩みがなかったら』、恋愛体育教師・水野愛也として『LOVE理論』『スパルタ婚活塾』、映像作品ではDVD『温厚な上司の怒らせ方』の企画・脚本、映画『イン・ザ・ヒーロー』の脚本を手掛けるなど活動は多岐にわたる。