【総体】なぜ流経大柏は夏を獲れたのか? “小さな巨人”が明かす「戴冠劇の舞台裏」

【総体】なぜ流経大柏は夏を獲れたのか? “小さな巨人”が明かす「戴冠劇の舞台裏」


 チーム屈指のファンタジスタは、真夏のトーナメントで黙々と汗をかき続けた。攻守両面でつねに最良の選択をし、名黒子となった菊地泰智。流経大柏の快進撃を陰で支えた、まさに“小さな巨人”だ。
 
 2年前、浦和レッズジュニアユース出身の青年は、千葉の強豪の門を叩いた。本来はFWもこなすほどの攻撃性能を誇るアタッカーで、160センチ・56キロというサイズながら体幹が素晴らしく、コンタクトプレーにも屈しない。自慢の左足を駆使してチームアタックに幅と奥行きをもたらす、天才肌の男である。

【総体決勝PHOTO】流経大柏が9年ぶり2度目の優勝! 2年生MF熊澤が決勝弾
 
 そんな菊地は、最終学年を迎え、自分になにができるかをあらためて熟考した。2年生だった昨年からともに主軸として活躍してきた主将、宮本優太とは、揺るがない固い絆で結ばれている。
 
「まあこっぱずかしいから面と向かっては言いませんけど、選手権予選で負けて新チームが立ち上がる時に、『俺たちが変えようぜ』と軽く言い合いました。どうすれば勝ち進めるかは、試合に出ていた俺たちにしか分からない。しっかり伝えていかなきゃと心に誓った。学校じゃいつもふざけ合ってますけどね(笑)」
 
 今大会5試合で、菊地のスタートポジションは目まぐるしく変わった。初戦(2回戦)と3回戦はボランチで先発し、以後は左サイド、右サイドと移り変わり、決勝ではトップ下に配備されている。本田裕一郎監督の菊地への高い信頼度の表われだ。そして、チームとしての攻撃の狙いもそこにあった。
 
 守→攻の切り替え時に、どこにいようがまず顔を出すのが菊地だ。散らすか、下げてやり直すか、それとも素早く縦へ送るか。チェンジ・オブ・ペースの中心にいた。
 
 背番号10はこう説明する。
 
「相手のスカウティングは徹底してますし、それを頭に叩き込んで試合に臨みます。どこで攻撃の起点を作るかは毎回違うし、そのなかで自分がなにをするのかも変わってくる。僕は左利きなんで、右に入ったら中へ切れ込んでシュートまで行くけど、左ならフォワードの落としを確実に拾いながら、開けてくれたスペースに上手く飛び込んでいったり。ボランチならどんどんパスを回して散らす。プロに行きたいから点を取ってアピールしなきゃなんですけど、まあ取れませんでしたね(笑)」
 
 春先からチームの調子がなかなか上向かず、苦しんだという。
 
「プリンス(関東)も含めてぜんぜん勝てなくて、インハイ予選は決勝で市船に勝ったりで良くなるかなと思ったんですけど、また上手く行かなくなって。大会前も決して自信はなかった。でも、練習でこれでもかってくらいみんなで合わせる作業を続けて、ようやく波に乗れた感じですね。もともと仲のいいチームで、どんなに調子が良くなくてもインハイは獲りに行こうぜって話をしていました。夏に強いというのはみんなの拠り所で、監督もチームカラーだと話してくれてたんで、そこに強みを持てるように練習で頑張ってきた。走りや球際のところだけは絶対に負けないぞと」
 
 遠野、市立長野、長崎総科大附、そして前橋育英と、列強をなぎ倒してきた赤黄軍団。だが、決勝の日大藤沢戦に臨んだイレブンには少し硬さがあったようだ。
 
「みんなどっかで緊張していたというか、力が入りすぎてる印象でした。やっぱりこういう試合を経験してないから、去年の決勝を経験している僕や優太がしっかりしなきゃいけないと思いました。個人的には柔らかい動きをするというか、力を抜いてプレーするように心がけてましたね」
 
 試合は両チームともに守備第一のアプローチを貫き、見せ場の乏しいじりじりした展開となった。そんななか、トップ下の菊地はパスとドリブルを巧みに使い分けて攻撃の糸口を探り、守っては敵のCBやボランチに猛然とフォアチェックを敢行。「違いを見せなきゃいけない立場ですから」と、奮闘を続けた。
 
 そして終了4分前の後半31分、“モッてる男”熊澤和希が豪快弾を蹴り込み、9年ぶりの戴冠を手繰り寄せた。前回は市立船橋との両校優勝。つまり、夏の単独優勝は初めてだ。
 
 名将、本田監督も菊地の労をねぎらう。話せば話すほど、熱を帯びた。
 
「どこでもなんでもやれる賢い選手ですよ。こちらの意図なり戦術をしっかり理解して、試合で表現できる。うちはありがたいことに、毎週半ばに大学チームと試合をしてもらえる。こっちのリクエスト通りにやってくれるんですが、菊地はそこでも十分戦えてますよ。Jリーグではあまり小さい選手は好まれないんだけれど、イタリアに遠征に行った時は『小さくてもぜんぜん問題ないよ』と、高い評価を受けてましたよ。真面目で、得意な攻撃のところだけじゃなく守備もできる。わたしのお薦め選手なんです」
 
 高卒でのプロ入りを目ざす菊地にとっては、勇気づけられるコメントだ。
 
「どんなポジションであっても、やっぱり僕の武器は攻撃のところ。しっかり点が取れる選手になれるように練習します。インハイで優勝できて本当に嬉しいけど、僕たちに休んでる時間はない。明日からはもう和倉(キャンプ)ですからね(笑)。プリンスで巻き返して、選手権の舞台にも絶対に立ちますよ」
 
 5試合すべての試合後に話を聞かせてくれた。この決勝後の握手にいちばん、力がこもっていた。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWen編集部)
 

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