【後編】鹿島を支えるふたりのOBコーチ、柳沢敦と羽田憲司のいま。彼らの追求する指導者像とは?

【後編】鹿島を支えるふたりのOBコーチ、柳沢敦と羽田憲司のいま。彼らの追求する指導者像とは?


 6月頭に新体制へと移行して以来、8戦負けなし(7勝1分け)と快進撃を続けている鹿島アントラーズ。チームの指揮を執る大岩剛監督を支えているのが、柳沢敦と羽田憲司の両コーチだ。まだ若い彼らの指導者歴は短いが、それぞれの任務に対して、誠意を持ってあたっている。監督だけでなく、クラブや選手たちから彼らが信頼を得られるのは、現役時代に鹿島の一員として過ごし、クラブの哲学が身体に染みついているからだろう。

 
「当たり前のことを当たり前にやる。練習から厳しさがある。それが鹿島らしさだと思う」と羽田は言う。そして、柳沢は次のように語る。
「プロ中のプロであるジーコが築いたものがクラブの原点。それをずっと大切にしてきた。どんなに苦しい状況になってもその原点に立ち返って、正しい目で正しい判断を下してきた。しかも我慢強く。そこが根っこにあり、そのなかで選手たちが成長してきたし、(大岩監督は)僕ら指導者にも多くは語らないけれど、大切なことを伝えてくれる。連勝が続いている現在も大岩監督は『いつか負ける時は来る』というのを理解している。大事なのは、負けた時の負け方や選手の姿勢。そこがブレなければ、すぐに修正できると思っているし、それが鹿島なんだと」
 
 2015〜17シーズンに二度の監督交代を行なったという事実は、それだけチームが危機に陥ったということだ。素早くそれに対処したフロントの手腕がクラブの総合力を示しているのだろう。しかし、二人のコーチの立場も監督交代に合わせて変わった。
「正直、僕のなかでは、ペースが早いなというか、自分がその立場に追いついていないという事実も感じている。けれど、与えられたところで、しっかりと力を尽くさなくちゃいけないという思いでいます」
 
 そう語る柳沢は、現役時代の彼と変わらない。謙虚に自身の力不足を常に口にし、向上しようと努めてきた姿と重なる。
 
 鈴木隆行、平瀬智行、興梠慎三、大迫勇也……鹿島の歴代FWには大きな特徴がある。前線での豊富な動き直し、クサビのパスをしっかりと受ける強さと巧さ。柳沢につながるそのスタイルは、移籍加入した金崎夢生や若い鈴木優磨へと引き継がれている。
 
 その理由を鈴木満は「謙虚さ」だと語っていたが、柳沢自身にも訊いてみた。
「自分が鹿島に加入した時から、良い見本がチームにいるというのが一番大きい。どんな言葉よりもそばにそういう選手がいることが刺激的だし、学べるから。そして、僕がいつも言われてきた『点を獲るだけがFWじゃない』ということを理解し、認めてくれたのが鹿島だった。他のクラブだったら、ここまで長くサッカーはできなかったと思う。そういう評価というか、FWの在り方というのは、変わらず、このクラブにあると思います」
 前編で紹介したように、技術について語るよりも、その姿勢や精神について、選手へ話すことが多いという柳沢のスタンスは、『「献身」「尊重」「誠実」=ESPIRITO(ポルトガル語で「精神」の意味)』というジーコが残した伝える作業につながっているに違いない。
 
「自分にはまだ若い選手がどんな風に成長させていくのかという意味での経験がない」と話す指導者5シーズン目の羽田。今季は植田直通の負傷もあり、本来のボランチだけでなく、CBで起用される三竿健斗や2年目の町田浩樹に先発機会が巡ってきた。
 
「健斗は昨季までメンバー外になることも多かったけど、その頃から地道にトレーニングに取り組んできた。練習をやり続けてきたからこそ、チャンスが巡ってきた時に力を発揮できている。神戸戦で先発した町田とは、相手ストライカーへの対応を練習したけれど、抑えることができなかった。だからこそ、練習の重要性を痛感したと思うし、それは僕自身も同じ」(羽田)
 
 現役選手であれば、練習で全力を尽くすだけで良かった。しかし、コーチになると、選手たちが力を尽くせる環境を作るところから考えなければならない。
「練習のテンポもそうですし、雰囲気もとても大事だと思っています。やはり練習でしか鍛えられないモノもあるから。練習で培った力を試合で試し、練習でさらに磨いていくという作業が重要。ちょっと試合に出て、活躍しても、レギュラーの座を手に入れられるものじゃない。やはりレギュラー選手には経験があるし、若手と経験者とでは見えない差はあるから。それは自分が鹿島に入った時にも痛感したこと。
 確かに若手が『なんで今度は外されたのか』と、疑問や不満に思う気持ちも理解できるけれど、つべこべ言わずにただやり続けなくちゃいけない。言って分かるものでもないだろうし、実際は言葉で理解するのではなく、選手自身が自然に気づくことが大事だと思います。『なんでだよ』という思いを抱いた選手とどうコミュニケーションを取ればいいのか、それは選手それぞれで対応も違うので、難しいところではあるけれど、それが僕らの仕事だと思っています」
 選手のメンタルについての重要性を語ってくれた羽田は、カシマスタジアムでプレーする選手を見ながら、「僕自身はあまり鹿島でプレーできなかったから、『こんななかでプレーする、選手はすごいな』って思うこともある」と笑い、続けた。
 
「鹿島のコーチはみな現役時代、クラブに貢献した人ばかり。正直、選手としては貢献できなかった僕が今、トップチームでコーチをやらせてもらっている。そう考えると、今、コーチとしてしっかりと貢献しなくちゃいけないという責任の重さを感じています」
 
 いつかはJリーグで監督をやりたいという目標を持つ羽田だが、柳沢は将来について訊くと「監督とか、まだまだそんな先のことは考えられない」と答える。
 
 柳沢は彼らしく、目の前にある現実の課題と向き合っていた。寡黙な男は、言葉の力が求められる指導者という仕事の難しさを実感しながら、奮闘している。そして、現役時代同様に、「なにより大切なのは今日の練習」という姿勢も変わらない。
 
「指導者としては選手を育てるとか、チームのマネジメントとか、先のことも考えなくちゃいけないけれど、今日、いい練習ができるのかというのは重要じゃないですか? 選手時代は余計なことは考えず、一生懸命与えられた練習で力を尽くせば良かった。でも指導者は、一生懸命やったことで身につく練習をさせなくちゃいけない。選手個々もそうだし、グループとして必要なものを提示していくうえでは、細かいことに目を向けて、繊細な心配りができないといけないし。そういう意味でも誠実さが大事だと思います」
 
 実戦的にリーダシップを発揮し、行動する羽田と実直ながらもカリスマ性を漂わせる柳沢。同じスピリッツのもとで鍛えられている個性の違うふたりの若いコーチ。彼らの成長が鹿島の未来へとつながっていく。
 
取材・文:寺野典子(フリーライター)
 

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