【小宮良之の日本サッカー兵法書】武器は必要だが、それを有効とする土台はでき上がっているか!?

【小宮良之の日本サッカー兵法書】武器は必要だが、それを有効とする土台はでき上がっているか!?


 先日、ルポ取材のため、スペイン・バスクで数日間を過ごした。
 
 現地では、林業、建築業、畜産業、鉱業、漁業など、その地域に根付いてきた生業が、スポーツに結び付いた様子を追った。巨石を持ち上げる競技や斧で丸太を削る競技、ボートを早く漕ぐ競技は想像が付くかも知れないが、さらに芝を刈る速さを競ったり、牛乳瓶を持って競走したりというのもあり、とても興味深かった。
 
「日常的に競うのが好きな民族性がある」という話だった。
 
 300万人に満たないバスク人によるクラブが、世界最高峰リーガ・エスパニョーラの1部リーグに4つも在籍し、多くの優秀な選手を育てているのは、健全に競技者を育てる土壌があるからだろう。
 
 アスレティック・ビルバオは100年間、バスク人のみで戦う「純血主義」を貫き、バルセロナ、レアル・マドリーと並んで、2部リーグに降格がしたことがないクラブのひとつである。
 
 レアル・ソシエダは先発選手の半数以上が下部組織出身者で、欧州のトップクラブでは随一の比率。オサスナは現在、2部にいるが、ハビ・マルティネス(バイエルン)、ナチョ・モンレアル(アーセナル)、セサル・アスピリクエタ(チェルシー)、ミケル・メリーノ(ニューカッスル)など、多くの選手を欧州のビッグクラブに送り込んでいる。
 
 そして指導者も、勝利のための戦術を運用する腕に長ける。スペイン代表のフレン・ロペテギ、パリ・サンジェルマンのウナイ・エメリ、そして東京ヴェルディのミゲル・アンヘル・ロティーナなどは、堅実な結果を叩き出している。
 
 バルサのエルネスト・バルベルデはエストレマドゥーラ出身だが、幼少期からバスクで育っていて、「実直な働き者でバスク人よりバスク人」といわれる人物である。
 
 今回の取材では、現地のバスク人サッカー指導者たちと交流を持つ機会があった。
 
「サッカーに特効薬はないよ。ベースを上げるしかない。バスクではそうやって、土壌を作り、愚直な選手を育ててきた」
 
  50代後半のバスク人指導者はそう言ってから、眉をひそめた。
 
「でも最近は、指導者がプレーを細分化しすぎている。木を見て森を見ず、というのか……。例えば、『トランジッション(切り替え)』が大事だと言う。そうなると、守りから攻めの切り替えの練習ばかりをする。しかし、そんなものに何の意味もない」
「トレーニングしなければならないのは、攻めている時、守っている時のポジションや、選手同士の距離感や身体の向きという基本だ。それが結果として、トランジッションで有利になる」
 
 フットボールにおいては、ボールを持っている時、ボールを持っていない時、そのどちらかしかない。トランジッションというのは、その瞬間を切り取ったものにすぎないと、バスクの指導者は言う。トランジッションを成功させられるか否かの鍵は、より根本的な部分にある。
 
 守っている時には攻める準備を整え、攻めている時には守る準備を整える。ポジショニングやタイミングを共有するトレーニングで、スペースを11人でどう共有するか。各自が持ち場を守りながら、「カバーもできるし、前にも出られる」という状況を整理するのが、戦術的トレーニングだ。
 
 ところが、練習を重ねるにつれ、どうしても指導者は「言葉に引っ張られる」という。例えばプレッシング、例えばリトリート。プレッシングのためのプレッシング、リトリートのためのリトリートになってしまうのだ……。
 
 先日、日本代表は親善試合でブラジル代表と対戦し、力の差を見せつけられた。
 
 日本は強度の高いプレッシングを、試合開始から行なった。相手の鼻っ面に一撃を食らわしたわけだが、その後は、ブラジル人選手の狭いスペースでの技術に圧倒された。
 
 プレッシングに固執した結果、前の選手が突出しすぎ、中盤はぽっかりと空いてしまった。スキルの高い選手が前線にいるだけに、バックラインも容易にラインを上げられない。結果、裏の広大なスペースを埋めるためにズルズルと下がり、前のスペースを使われ、鋭いカウンターを浴びた。
 
 言い換えれば、スペースの陣取り合戦で自ら墓穴を掘り、一敗地にまみれたのである。
 
 プレッシングとはそもそも、相手のスペースを圧縮して優位に立つ戦術である。つまり、敵の攻撃に蓋ができない場合、やり方を変えなければならない。もしくは圧縮するスペースを変更すべきだ。
 
 臨機応変に戦えるか。
 
 指導者は、細部のキーワードを掘り下げるのではなく、ベースを分厚くするしかない。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、今年3月にはヘスス・スアレス氏との共著『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』(東邦出版)を上梓した。

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