エムバペはなぜ速い? Jリーガーやプロ野球選手を指導するプロスプリントコーチが徹底解説!

エムバペはなぜ速い? Jリーガーやプロ野球選手を指導するプロスプリントコーチが徹底解説!


 パリ・サンジェルマンに所属するフランス代表FW、キリアン・エムバペの最大の持ち味は、圧倒的なスピードだ。では、他のフットボーラーと何が違うのか。これまで数多くのJリーガーやプロ野球選手を指導してきたプロスプリントコーチの秋本真吾氏に、速さの秘訣を解説してもらった。

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POINT①
■回転が速いうえに歩幅が広い
 走り方には絶対的な理論が存在します。スピードは、ピッチとストライドの掛け算になっています。脚の回転を速くして、その回転の速さを維持したうえで一歩の歩幅を広げていく作業ができれば、必然的にスピードは上がります。

 この理論を当てはめたうえで見ていくと、脚の速いサッカー選手はそのいずれか、あるいは両方が間違いなく優れています。サッカー選手に多いのは、どちらかと言うと回転が速いタイプです。ボールが絡むうえアジリティー要素も強いので、急速にグンと回転させてスピードを出している選手が、割合的には多いという印象です。

 それに対してエムバペは――ロナウド(ユベントス)やオーバメヤン(アーセナル)、ベイル(R・マドリー)もそうですが——、回転も速いですが一歩で進む歩幅が広い。ぐんぐん前に進んでいくイメージがあるのは、ストライドが広いから。それがあの推進力に繋がっています。

POINT②
■姿勢が素晴らしい
 回転と歩幅、この2つの要素を高いレベルで成立させる第一ベースは、走る時の姿勢だと僕は思っています。陥りがちなのが、「速く走る=身体を前に倒す」になってしまうこと。トップレベルのJリーガーやプロ野球選手にも多く見られる傾向です。

 ボールが前に転がり、ゴールも目前。早く行こう。そう焦って思わず前かがみに、いわゆる「くの字」になると、絶対に速くは走れません。身体を前に倒すと、脚の軌道は身体の後方で回転してしまいますから。運動会でお父さんが転ぶ理論と同じです。この姿勢で強引に脚を前に出そうとすると、太ももの裏の怪我にもつながります。

 大事なのは「くの字」ではなく、姿勢が真っすぐであること。要するに正しい前傾が、とても重要です。(ワールドカップの)アルゼンチン戦で見せたエムバペのあの独走は、まっすぐの姿勢でスタートしています。ロナウドもそうですが、彼らは「くの字」で走っている印象がまるでありません。まっすぐの姿勢のほうが、確実に地面に力が伝わります。

 例えば地面に置いた缶を踏むとき、身体を曲げた状態よりも背筋を伸ばしたほうが力が入りますよね。それと一緒です。回転と歩幅を成立させる姿勢そもそもが、エムバペは素晴らしいです。

POINT③
■アキレス腱を巧く使えている
 足のどの部分で接地しているかも重要なポイントです。要は、着地の時に踵が離れているかどうか。例えば縄跳びをする時は、踵が地面に着地する瞬間がないのでアキレス腱が伸縮して、縦のジャンプが連続してできます。大事なのはこのアキレス腱で、ふくらはぎの腓腹筋やヒラメ筋と呼ばれる筋肉が一気に収縮することで、腱が伸ばされて身体がバネのように弾みます。踵だけでジャンプしてみてくださいと言われても、できませんよね。

 この腱を使う動きは、僕ら陸上選手は当たり前のようにやってきたことですが、サッカー選手にはあまりない感覚のようです。踵から着地したり、足の裏全体で着地して腱の反射を使わずに筋肉の力だけで走ったりしている選手が、実はすごく多い。

 Jリーガーやプロ野球選手を指導していて常識を覆されたのは、それでも速い選手がいること。ただこれは、怪我にも繋がってきます。筋肉へのストレスが尋常ではないからです。なので、ある程度は速く走れていても(キャリアを)長く続けられないリスクがある。伸びしろがすごいとも言えますが。

 その点、エムバペは踵をつかない走りができています。彼はドリブルするときも踵をつけていないんです。要するにドリブルと素走りの差がない。速い選手は、このように腱を上手に使えています。
POINT④
■股関節、膝関節、足関節の安定感
 速い選手は、ドンっと片足が地面に着地したときに、股関節、膝関節、足関節という3関節の角度が変わりません。遅い選手ほど膝が曲がったり、股関節が開いたりして、爪先で着地しても踵が潰れしてしまいます。要するに、速い選手は力を逃がさず推進力に代えることができている。例えば堅い棒を落とした時は大きく跳ね返るけど、それがこんにゃくなら潰れてしまいますよね。それと同じ原理です。

 エムバペは、それぞれの角度がほとんど変わっていません。一歩一歩の着地で力がまったく逃げていない。だからぐんぐん進んでいける。強いボールを蹴る時もそうですが、大事なのはインパクトです。走りの接地もまったく一緒で、「べたっ」ではなく「トンっ」と、いかに短時間で(地面に)高出力を加えられるかが重要です。エムバペはそれをこなせている。これも速く走れる秘訣だと思います。
 

POINT⑤
■初速の速さを支えるテクニック
 1〜2歩で置き去りにできる初速の速さについては、身体能力というよりも、どちらかと言えばテクニックの要素が大きいです。例えば重たいものを持つとき、背中から腰までのラインが真っすぐになっているデッドリフトのような姿勢、いわゆる腰が入った状態を作れていれば、腰も痛めず力が出せる。これに近い理論です。

 陸上のスタートも同じ。ヨーイドンで走った時に、加えるべき力の方向は真下なんです。前に飛び出ているように映りますが、足は真下に降ろしている。サッカーで初速が速い人は、これが出来ています。エムバペもそうですね。(陸上100㍍競技の世界記録保持者である)ウサイン・ボルトのスタートと同じような形で、彼は初速を作れています。
 
Q.さらに速くなる余地はありますか?
A.十分にあります。
 現状、上半身と下半身のタイミングが微妙に合っていません。片方の腕を伸ばす癖が、エムバペにあります。ショート系のスプリントで細かい動きをする時は直るんです。これは当たり前で、腕を伸ばしてしまうと速い動作はできませんからね。ドリブルするときに無意識にバランスを取っている側面もあるとは思いますが、このあたりがもっと(下半身の動きと)噛み合ってくれば速くなると思います。

 あとは単純に筋力の部分。まだ19歳ですからね。ロナウドと比べても、筋力は弱いと思います。ここは十分に鍛えられる部分でしょう。

●分析者プロフィール
秋本真吾/プロスプリントコーチ
福島県大熊町出身。速く走るためのスプリント指導のプロフェッショナル集団「0.01」の代表。2012年まで400mハードルの陸上選手として活躍し、オリンピック強化指定選手にも選出される。当時、陸上特殊種目200mハードルアジア最高記録、日本最高記録、学生記録を樹立した。100mのベストタイムは10秒44。16年全日本マスターズ陸上において100mで優勝。13年からスプリントコーチとしてプロ野球選手やJリーガー、なでしこリーグ所属選手、アメリカンフットボール選手、ラグビー選手など300名近くのプロスポーツ選手に走り方を指導。全国各地で年間1万人以上の子どもたちに小学生向けの走り方教室も開催している。11年に被災した地元「大熊町」のために被災地支援団体『ARIGATO OKUMA』を立ち上げ、子どもたちへのスポーツ支援、キャリア支援も精力的に行なう。
 
※ワールドサッカーダイジェスト2018.9.20号より転載


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