懐疑論者を黙らせた久保建英のデビュー戦。それでも「新シーズンはBチーム」と予想する根拠と懸念

懐疑論者を黙らせた久保建英のデビュー戦。それでも「新シーズンはBチーム」と予想する根拠と懸念


 あながち過剰な報道でも、誇大な表現でもなかったということだろう。
 
 レアル・マドリーのトップチームに帯同し、北米遠征に旅立って以降の久保建英にまつわる報道は、個人的には常軌を逸しているように思えた。練習中の目を引くワンプレーを切り取って、チームメイトや関係者の好意的なコメントをつなぎ合わせて、この18歳になったばかりの若者を、実像以上に大きく見せようという魂胆が見え隠れしていたからだ。

 けれど現地時間7月20日、アメリカのヒューストンでマドリーの一員として実戦デビュー(対バイエルン・ミュンヘン戦)を飾った久保のパフォーマンスには、私を含めた懐疑論者を黙らせるだけの十分な説得力があった。
 
 ことボールタッチの技術、前を向くターンの鋭さは、後半にピッチに立ったセカンドチームの11人の中でも際立っていただろう。むしろ、すでに昨シーズンにトップデビューを飾ったヴィニシウス・ジュニオールの技術が、久保との比較で拙く見えたほどだ。
 

 プレッシャーを掛けられても簡単にボールをロストしないから、チームメイトも安心して久保にパスを預けた。北米遠征がスタートしてからのおよそ2週間で勝ち取った、信頼の証だろう。後半の45分間、久保はマドリーの攻撃の中核を担い続けた。
 
 62分にヴィニシウスに通したスルーパスなど、随所にそのフットボール・センスを垣間見せた久保。なによりも驚かされたのは、その強靭なメンタリティーだ。チームメイトに指示を飛ばし、味方のシュートミスをオーバーアクションで悔しがり、レフェリーに壁の位置の修正を要請するその立ち居振る舞いからは、世界的なビッグクラブの一員としてデビューを飾ることへのプレッシャーなど、微塵も伝わってこなかった。過緊張から視野狭窄を起こすこともなく、まるで味スタのピッチに立っているかのように落ち着き払っていた。
 
 4−3−3(あるいは4−1−4−1)のインサイドハーフとしての可能性を示したことも、今後に大きな意味を持つだろう。新戦力のエデン・アザールを含め、ややタレントが過剰気味の3トップの両サイドだけでなく、インサイドハーフでも使えるとなれば、それだけチャンスは広がるのだ。
 
 マドリーが現時点のベストメンバーで臨んだ前半、もしイスコではなく久保をインサイドハーフで使っていたら──と、そんな想像も膨らむ。この日は明らかに球離れが悪く、それでいて強引さが目立ったイスコ。ルカ・モドリッチと久保のコンビなら、もっと攻撃のテンポは上がったのではないだろうか。
 
 とはいえ、プレシーズンマッチ1試合のパフォーマンスをもって、「久保をトップチームでプレーさせるべきだ」と、乱暴なことを言うつもりはない。
 
 組み立てや崩しの局面で違いを作り出した久保だが、フィニッシュに絡むシーンはほとんどなかったし、ゴールやアシストといった目に見える結果を出したわけでもない。
 
 現時点では、あくまでもセカンドチームの中で「上手いなぁ」と思えるプレーヤーの一人に過ぎない。控え組で構成されたバイエルン戦の後半に、それこそ圧倒的な存在感、異次元のレベルを示せないようでは、マドリーのトップチームに名を連ねることなど不可能なのだ。
 

 久保に関する最近の報道が、あながち大げさに脚色されたものではなかったのだと、バイエルン戦の45分間で確認はできた。それでも、今後のプレシーズンマッチでよほどの活躍を示さないかぎり、久保の新シーズンの主戦場は当初の予定通り、Bチームの「カスティージャ」になるだろう。
 
 確かに久保は、バイエルン戦の45分間限定では、イスコに取って代わりうる可能性を秘めた逸材にも映った。しかし、このインサイドハーフのポジションにはドイツ代表のトニ・クロースもいれば(カゼミーロ不在のバイエルン戦ではアンカーに入った)、ウルグアイ代表のフェデリコ・バルベルデ(20歳)、スペイン代表のダニ・セバージョス(22歳)のような若手逸材も控えている。彼らを飛び越えてポジション争いに加わるのは、かなり難易度の高いミッションに違いない。昨シーズンのマドリーで十分な出番を得られなかったセバージョスは、アーセナルへのレンタル移籍が秒読み段階とも言われているが、その一方では、ポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)、クリスティアン・エリクセン(トッテナム・ホットスパー)、ドニー・ファン・デベーク(アヤックス・アムステルダム)といった実力者の獲得が噂されてもいる。そうなれば、なおさらトップチーム昇格の道は狭まるだろう。
 
 それは、ガレス・ベイルの退団が決定的になった両サイドでも同じだ。左にはアザール、ヴィニシウス、右にはマルコ・アセンシオ、ルーカス・バスケスとレギュラークラスが2枚ずつ揃っている。さらに久保と同じ18歳のニューフェイスで、このバイエルン戦で直接FKからゴールを決めたロドリゴ、スペインU−21代表の有望株ブラヒム・ディアスなどもチャンスを窺っており、おいそれとは出番が回ってきそうにない。
 
 あくまで現実的なプランを描くなら、まずはカスティージャでラウール・ゴンサレス監督の信頼を勝ち取り、実力を蓄えつつ不動のレギュラーとしての地位を固め、昨シーズンのヴィニシウスのように昇格のチャンスを辛抱強く待つことだ。そして、与えられた出番で確実にインパクトを残すことだ。
 
 ただ、カスティージャで戦う際にひとつ気掛かりなのは、日本代表の一員としてコパ・アメリカの大舞台を踏み、その後、間髪入れずにマドリーのトップチームに合流。連日スタープレーヤーとともにトレーニングを重ね、そして実戦デビューも飾ったこの夢のような1か月と、これから始まるハードな2部B(実質3部)での戦いとの“巨大なギャップ”に、まだ18歳の若者が戸惑ってしまわないかということだ。
 

 マドリーのサテライトチームだけに、カスティージャは他の多くの2部Bチームと比べれば、もちろん待遇面は恵まれている。とはいえ、日本代表やマドリーのトップチームの比ではないはずだ。カスティージャが籍を置く2部B・グループ1の遠征先には長距離移動を伴う島のクラブがいくつもあり、さらにアウェーのグラウンドは広さも十分ではなく、荒れたピッチが大半だと聞く。久保のようなテクニシャンを、対戦相手はファウル覚悟のタックルで潰しにくるだろうし、チームメイトも1を言えば10を知る良き理解者ばかりではないだろう。
 
 五つ星ホテルのペントハウスを追い出され、いきなりワンルームマンションの一室に押し込められるようなギャップに、果たして耐えられるのか──。
 
 もっとも、18歳にしてすでに成熟した大人の思考を持ち、今の自分に足りないものを貪欲に追い求める久保ならば、大丈夫だろうとも思う。むしろメディアの攻勢から逃れ、静かに自分を磨けると、そんな風に気持ちを切り替えて、置かれた状況を楽しんでしまうのかもしれない。
 
 もちろん、そうした外野の予測さえも鼻で笑い、久保がこのままトップチームに引き上げられ、夢のようなキャリアを当たり前のように継続する可能性も100パーセントないとは言い切れない。大人たちの常識と想像を軽々と飛び越えていく久保の“跳躍力”は、そう断言できないほど計り知れないのだ。

文●吉田治良(スポーツライター)


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