たしかにJリーグ開幕によって「日本サッカーは成長した」とジーコは認めるも、反面、加速する若手の海外移籍について懸念も抱く(前編、中編はこちら)。そこで、本インタビューの後編では、Jリーグが世界に追いつくためにはどうするべきなのか、語ってもらった。

※本稿はサッカーダイジェスト本誌19年9月26日号から転載。一部、加筆・修正。インタビューは19年9月5日に実施。

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 Jリーグが世界に追いつくために――。

 ジーコがその改善案として挙げたのが、外国籍選手枠である。

「5人の外国人枠は無意味だと考えています。外国人はよく日本語風に言われるのは『助っ人』ですよね。『助ける』、『人』と書く。観客が見て、外国人が日本人との実力差を感じないと、その外国人は無意味。外国人は助ける立場であるべきです。

 日本人から『この人すげえな』と尊敬の眼差しで見られ、お手本となる。日本人が吸収しようと真似をする。そんな存在が『助っ人』です。そういう存在であれば、外国人がいるのは正しいと思います。

 ただ、そういう存在でないなら無意味。現在、外国人枠は、ACLでは『3+アジア枠の1』なのにJリーグは5人(試合エントリーは5人。チーム登録は制限なし)です。例えば鹿島では5人の外国人がいますが、ひとりはACLに出場できない。彼は『やっぱり俺は使われないんだ』とモチベーションが低下し、それがチーム内にも波及して悪影響を及ぼすリスクがあります。

 だから、ACLのルール通りに『3+アジア枠1』という外国人枠のルールを取るべきです。もっと言えば、その外国人も高いレベルの選手でないといけない。例えばプレミアリーグでプレーするには、一定以上のA代表出場数を満たしていないと、ビザが発行されませんよね。そのような制限をJリーグも設ければ、レベルアップにつながるかなと。Jリーグ開幕当初、代表レベルの選手を見て日本人が成長したようになるはずです」
 一昨年までは1チームにつき外国籍選手の登録は5人まで、試合へのエントリーは3人とアジア枠のひとりまでだった。その外国籍選手枠は昨季からアジア枠が撤廃され、1チームあたりの登録数は無制限、試合エントリーはJ1で5人までに変更(J2とJ3は4人まで)。ジーコはこのルール変更に異を唱えているのだ。それは、“助っ人”のあるべき姿も含め、「日本人の成長のため」だろう。では、環境を整える以外の視点として、日本人選手自体が変わらなければいけないことを提言してもらった。

「正直、日本人はもう、技術とフィジカルに関しては申し分ない。改善すべきはメンタルです。メンタルトレーニングをしてでも、メンタルタフネスを身に着けないといけない。サッカーにおいて、失点は当たり前。だけど、日本の場合は失点したらドダバタして、2,3分後にまた失点、そしてまた失点と、失点を重ねてしまう。日本代表のワールドカップでも短い時間で失点を重ねたり、鹿島でも失点でメンタルがブレてしまうことをよく見てきました。代表でも鹿島でも、僕はそこを改善できなかったことが非常に心残りです。例えば、海外で言えば、『3−0』はもう終わっている試合。けど、何が起きたのか、日本では1失点すると、先ほども言ったとおりドタバタして逆転される試合をよく見ますよね。そうならないように、『どんな状況でも大丈夫』というような良い意味で開き直りともいえるような、ブレないメンタルタフネスを身に着けないといけない。そこを改善すれば、もっと世界で活躍できるはずです」
 メンタルの鍛え方を聞くと、ジーコは様々な例を出して力説した。

「ひとつは精神科医の採用です。ブラジルでは貧困で不安定な環境で育った人もいるので、精神科医と話して打ち解けて、メンタルを改善するメンタルトレーニングが昔から主流です。アメリカでも取り入れていると聞きます。スポーツの分野でも、代表やクラブで精神科医を取り入れているんです。彼らは、例えば失点した時に屈辱や悲しさを言った感じることを聞いてくれて、それをどう改善するかアドバイスしてくれる。それによって選手は弱い部分を強くすることができる。そのようなアドバイスをできる、例えばスポーツ心理学の先生を、クラブや代表でも取り入れるべきです。

 実はあるモチベーターと出会って僕の人生は急激に変わりました。その人が教えてくれた言葉は『負ける恐れが勝つ意欲を失わせる』。僕はそれをずーっと頭の中に入れて生活しています。負けることを恐れる、あるいは『負けるんじゃないか』と思ってピッチに立つと、『勝とう!』という気持ちにはならないんです。負けない方法、弱気な部分を考えてしまうと、勝つ確率は低くなるんです。

 とある他のモチベーターには、『ライオンとワニは戦ったらどちらが勝つと思いますか?』と質問をされたことがあります。その問題の答えは、『ライオンは陸で勝てる、ワニは水の中なら勝てる』。質問の意図は、『自分の置かれている強い環境なら勝てる』ということでした。そのように、『勝つ』ためにどう戦うかを考えることが大切です」
 スポーツ心理学の先生の力を借りてでも、“勝つ”マインドになるためのメンタルトレーニングをするべき。ジーコはそう話すが、ただメンタルを改善するだけでなく、もちろん努力も必要だと続ける。

「ブラジルが生んだ伝説的なバスケットボール選手のオスカー・シュミットで、こんなエピソードがあります。彼は実力を評価する意味で『神の手』と呼ばれていました。ですが、とあるインタビューでオスカーは『僕は神の手を持っていない。毎回、練習で1000回スリーポイントシュートを練習しているから、運が味方をするようになるんだ』と答えたんです。つまり、この話から言いたいことは、努力をしたから運が味方をする、ということ。何もしない人に運はついてきません。サッカーでも一緒。相手を研究し、対策を練って、練習をして、そうして初めて結果がついてきます。

 それを個人で努力するのではありません。サッカーは団体スポーツ。『自分が目立とう』、『自分が点を取ろう』、『自分が顔になろう』ということがよく見られますが、団体スポーツでは、勝たなければ個人は台頭していかない。だから、チームのために自分が頑張れば、必然的に自分も目立つようになるということを選手たちは理解しないといけない。特にキャリアの浅い若手にはそれを教え込まなければならないです」
 
 たしかに、例えばロシア・ワールドカップの決勝トーナメント1回戦・ベルギー戦で日本は、2−0でリードしていたものの、69分の失点から一気に逆転されるなど、往々にして“逆転”がよくある。それはジーコの言うとおり、メンタルも影響しているとなると、スポーツ心理学を学ぶべきなのかもしれない。いずれにせよ、ジーコはさらなるJリーグの発展のために、日本人選手へ「メンタルの改善」を提言している。

 Jリーグ開幕当初には選手として、その後は日本代表監督、現在は鹿島のテクニカルディレクターとして、日本サッカーの成長に尽力してくれているジーコ。日本サッカーの功労者は、Jリーグ、ひいては日本サッカーが発展することを願ってアドバイスをしてくれている。これからも、日本サッカーの伝道師となってくれるはずだ。

取材・文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)
通訳●高井蘭童(鹿島アントラーズ)

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