2018年9月に発足した森保一監督率いる日本代表は、2019年のアジアカップ(UAE)やコパ・アメリカ(ブラジル)を経て、2022年カタール・ワールドカップ・アジア2次予選の戦いに突入した。その後、国際Aマッチは新型コロナウイルス感染拡大の影響で、現在はストップしている状況にあり、今後どうなるのかまだ先は見えない。いずれ来る活動再開に向けて、森保監督がこれまで、どのようにチーム強化を進めてきたのか、ポジションごとに検証していく。(文●元川悦子/フリーライター)

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 2018年のロシア・ワールドカップを最後に、8年間キャプテンマークを巻いた長谷部誠(フランクフルト)が去り、日本代表ボランチ陣のポジション争いは混沌とした状況だ。

 森保ジャパン発足に当たり、ロシアで異彩を放った柴崎岳(ラコルーニャ)、2014年ブラジルから2大会連続で世界舞台に参戦した山口蛍(神戸)、ヴァイッド・ハリルホジッチ(現モロッコ代表監督)・西野朗(現タイ代表監督)両指揮官に高く評価された大島僚太(川崎)や井手口陽介(G大阪)らが候補者として残ったが、2018年9月の初陣・コスタリカ戦(吹田)で選ばれたのは柴崎と遠藤航の同級生コンビ。92年度生まれのプラチナ世代で、育成年代からともに日の丸を背負ってきた2人は息の合った連係を見せ、非常にポジティブな印象を残した。

 そこから2019年1〜2月のアジアカップ(UAE)までは彼らがファーストチョイスと位置付けられた。柴崎の高度な戦術眼と洗練されたパスセンスとゲームメイク力、遠藤航のボール奪取力とハードワーク、ベルギーで磨きをかけたビルドアップ能力がうまくマッチし、2人のコンビには安定感が見て取れた。大会途中までリーダーシップを発揮した青山敏弘(広島)の好サポートもあり、彼らは伸び伸びとプレーできたことだろう。


 しかしながら、青山と遠藤が立て続けに負傷離脱し、最重要マッチだった決勝のカタール戦(アブダビ)で柴崎は塩谷司(アル・アイン)と初めてのコンビ形成を余儀なくされてしまう。攻守両面でのギクシャク感は否めず、その隙を相手に突かれ、日本はまさかの3失点。2大会ぶりのタイトルを逃し、彼らは大きな屈辱感を味わった。

 それでも、森保監督の中では「柴崎を大黒柱に据える」という意思がより強く固まった様子だった。当時、柴崎は所属のヘタフェで出場機会を得られない苦境に陥っていたが、指揮官は真っ先にスタメンに抜擢。昨年6月のコパ・アメリカ(ブラジル)でもキャプテンマークを託し、練習中にもしばしばマンツーマンで意見交換する姿を見せていた。

「私が広島の監督をしていた時、鹿島の柴崎には何度も痛い目に遭わされた」と指揮官は語ったことがあったが、現役時代の自身と同じボランチではあるものの、タイプ的に真逆とも言える華麗さがウリの彼に、特別な感情を抱いているようにも見受けられた。柴崎が長谷部のような絶対的な存在になってくれれば――この先の日本代表を牽引してほしいという期待も込めて、こうした扱いをしたのかもしれない。
 


 柴崎も森保監督からの絶大な信頼と期待を自覚し、2022年カタール・ワールドカップ2次予選スタート時から中盤の司令塔として君臨している。それは指揮官の思惑通りに違いないし、彼自身が心身両面で目覚ましい成長を遂げているのもチームにとって大きなプラスと言っていい。スペインで出場機会を増やし、個人能力をさらに研ぎ澄ませていくことが、今後の柴崎に求められるところだ。

 その一方で、柴崎への依存が高まれば高まるほど、「いざという時」が不安視されるようになってきたのも事実。柴崎の相棒としては、当初ファーストチョイスと位置付けられていた遠藤航を筆頭に、2019年から一気に頭角を現わした橋本拳人(FC東京)、1年ぶりに代表復帰した山口や井手口、昨年12月のE-1選手権(釜山)で初キャップを飾った東京五輪世代の田中碧(川崎)らが名乗りを挙げている。さらなる成長が期待される選手が多いなか、ここからどんな軌跡を描いていくか分からないが、現時点では「柴崎不在でも十分に戦える状況」とは言い切れない。森保監督はそういう評価をしているはずだ。

 振り返ってみると、代表ボランチはこれまでも特定の選手に依存する傾向が高かった。史上初のベスト16入りを果たした2002年日韓ワールドカップも稲本潤一(相模原)と戸田和幸(解説者)が鉄板だったし、2010年南アフリカ・ワールドカップ以降は遠藤保仁(G大阪)と長谷部のコンビが長く君臨してきた。



 アルベルト・ザッケローニ監督が指揮を執っていた頃は2人以外の組み合わせが考えられないほどだった。ゆえに、長谷部のケガや遠藤の不振がブラジル本番に大きく響いた。山口と青山も奮闘したが、急な抜擢でチーム全体の歯車が微妙に狂い、好結果にはつながらなかった。

 その後のハビエル・アギーレ監督も遠藤と長谷部に依存し、ハリルホジッチ・西野両監督も長谷部に頼り続けた。強い代表を作ろうと思うなら、ボランチの多彩なバリエーションを用意していなければならないのだが、日本はまだそこまでの領域に達していないのかもしれない。「柴崎依存問題」もしばらく続きそうな気配だ。


 とはいえ、2021年にスタート予定の最終予選に向けて、柴崎の代役を用意することも考える必要がある。パスセンスや戦術眼という観点では大島がベストチョイスなのだが、川崎の10番はこれまでも肝心なところで怪我を繰り返し、大舞台を逃してきた。

 昨年11月のベネズエラ戦(吹田)の時も「怪我をしないように気を付けたい」と自虐的にコメントしていたが、大島がフル稼働できる状態なら柴崎に引けを取らないパフォーマンスができるはず。再開後のJリーグを継続して万全な状態で戦うことで、さらなるレベルアップやコンディションの向上を図り、2021年は柴崎との真っ向からのポジション争いに期待したい。

 大島がボランチの軸に加われば、東京五輪世代の成長株・田中碧もスムーズにA代表に入り込めるだろう。田中は「一緒にプレーしていて、すごく巧いなと感じますし、ボールを取られないところはホント際立っています。見えている範囲も広いし、見えているものの質も高いので、学ぶべき部分は多いです」と大島に最大級の敬意を払っており、代表で共演できるようになればお互いに持ち味を出しやすくなる。



 そうやって柴崎抜きの組み合わせも用意することができれば、余裕を持って最終予選を戦い抜けるだろう。遠藤や橋本、山口、井手口といった候補者たちもできる限りの自己研鑽が求められてくる。柴崎と同レベルの存在感を発揮する人間が何人も出てくることが、この先の日本代表にとっては理想的なシナリオだ。

文●元川悦子(フリーライター)