「ファジアーノ岡山が、日本のトップクラブとなる力になりたいと思っています。まずはその第一歩として、新しいチームメイト、そしてサポーターの皆さんとJ2優勝を目指します」

 インパクトのあるコメントを発表して岩政大樹が岡山へ入団したのは2015年シーズンだった。それから2年間、クラブに関わるすべての人々を巻き込みながら、本気で目標に向かっていく岩政の歩みを追い掛ける日々は楽しくて仕方なかった。

『サッカーダイジェスト』の依頼を受け、15年のプレシーズンにさっそく岩政のインタビューをさせてもらった。そのときの衝撃は今でも忘れられない。鹿島で、獲得できる国内タイトルのすべてをその手に掴み取ったDFは、新たな経験を求めて岡山で挑戦することを選んでいた。
 
「鹿島で10年間やってきて、このまま同じ経験をして引退するのはつまらないと思ったし、引退後に残るものが少ないとも思ったんですよ」

 そして岩政はこう続けた。

「でも、新しいことをするのは面倒くさいじゃないですか。自分も嫌だったんですけど、これから他のチームでどれだけ失敗しても、僕のサッカー人生はもうそんなに悪いもんじゃない。そう考えた時に、だったら自分が一番面倒くさいこと、これまでとはぜんぜん違うこと、それを思い切ってやろうと思ったんです。そういうことを経験していくことによって、必ず新しいものが見えてくるし、必ず新しい自分にも出会える」

 14年には海外挑戦を選択。タイの首都バンコクに拠点を構えるBECテロ・サーサナFCでプレーし、タイでもタイトルを獲得した岩政は岡山へやってきた。それもひとりの選手としてプレーするために契約を交わしたわけではなく、クラブを新たなステージへと導くため、一選手の枠組みを遥かに超えたミッションに挑戦するため、岡山へやってきた。

「鹿島は僕が入団する以前から一番タイトルを獲っていたし、僕が入ってからもタイトルを獲って、おそらくこれからもタイトルを獲っていくでしょう。そういうクラブの中で、時が経てば僕なんかはすごく小さな歴史の一部になっている。ただ、岡山は違う。このクラブにも下のカテゴリーから上がってきた歴史があるけど、これからまた違う歴史を作っていく時期に来ている」

「僕は将来、このクラブが日本のトップのクラブになるための手助けをしてほしいと言われて来ているし、このクラブが去年までと今年からは違うものを描いていかないといけない状況にあることが、僕の新しい経験になるんです」

 岩政は自分で「岩政大樹」というプロサッカー選手のキャリアをデザインし、プロとしてプレーすることを辞めた後のビジョンも描きながら、そのキャリアの最後になるであろう“本気の挑戦”を岡山でスタートした。
 
 その岩政の本気が、覚悟が、岡山を変えていった。

 もちろん選手として勝点の獲得に貢献する能力を有していて、チームをまとめる類稀なリーダーシップも持ち合わせていた。ピッチ内外で存在感は絶大だったが、勝点の獲得やリーダーシップの面で岩政以上に多くのことをもたらせる選手は他にもいるだろう。ただ、チームメイトを本気にさせ、ファン、サポーターも巻き込み、みんなの目の色を変えて大きなうねりを起こしていくほどのパーソナリティを持つ選手は他にいないだろう。

 しかし、あと一歩のところまで迫りながら、岡山を次のステージに導くことはできなかった。

 16年12月4日。J1昇格プレーオフ決勝。冷たい雨の降るキンチョウスタジアムで岡山はC大阪に0-1で敗れてJ1昇格を逃した。この結果を岩政は潔く受け止め、多くの人々に囲まれたミックスゾーンで自身の力不足を口にしている。

「最後の試合で隙ばかりを与え続けてしまった。それが自分のやってきた結果で、2年間にやってきたことの力不足を表わしている。みんなに言い続けることができなかった、徹底させることができなかった、日常を変えることができなかった、そういうことだろうと思う」
 

 岩政の力だけでは、2年間では、変わらなかった。

 それが結果だったが、16年シーズンが岡山に関わるすべての人々の心に刻まれていることは間違いない。岩政はいつも堂々と、本気で目標に向かっていく姿を見せてくれた。チームメイトも、ファン、サポーターも、その姿に感化されて本気でJ1を目指したからこそ、あの時の悔しさが今も忘れられないでいる。

 プレーオフ決勝の翌日。岩政は2年間の歩みを少しだけ冷静になって振り返ってくれた。

「これまでも、これからも、毎年クラブは目標を掲げると思うけど、それを100パーセント達成できるわけじゃないからスポーツというのは難しくて、だから感動もできる。いつかは達成する年がくるだろうけど、できる年とできない年があって、そのどちらの経験もしなければできた年も輝かないからね。ただ、まず第一歩として熱くなる雰囲気まで持っていかなければいけなかった。強くなっていくクラブにはそれが大前提にあるものだから。そういう面で、今年は本気度とか覚悟を一段階くらいは上げることができたのかなと思うね」

 本気で挑戦することの大事さ。岩政がそれは身をもって教えてくれた2年間は、岡山に関わるすべての人々が岩政に本気にさせられた熱い2年間だった。

取材・文●寺田弘幸(フリーライター)

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