対戦相手はC大阪。舞台はヤンマースタジアム長居だった。

 前半こそ手堅い展開で大きな波を起こすことなくスコアレスで折り返したが、後半になるとJ1級の戦力を誇るC大阪に押され、愛媛は防戦一方になった。それでも粘り強く守り、最終盤まで耐え、試合終了間際に訪れたCKに最後の望みを託した。相手の意表をついたショートコーナーに、ニアで内田健太(現・甲府)が難しい角度からボレーで合わせた。

“ついに来た!”
 
 筆者は記者席で勢いよく立ち上がり、両拳を突き上げようとするところだった。しかし、シュートはC大阪GKキム・ジンヒョンの身を挺したビッグセーブによりゴール寸前で阻まれ、振り上げた手でそのまま頭を抱えた。

 そしてタイムアップ。愛媛の選手たちは一様に膝から崩れ落ち、しばらく動くことができない。それはチームが全力を出し切ったことを意味するだけでなく、勝敗が決し、夢破れたことも表わしていた。

 2015年のレギュラーシーズン終了から6日後の11月29日、愛媛は悲願のJ1昇格を懸けてJ1昇格プレーオフ準決勝を戦うも、スコアレスドロー。レギュレーション上、リーグ戦上位であったC大阪の決勝進出が決まった。

 試合後「(J1昇格に)手が届くところまで行けたという悔しさを体感できた」と、西岡大輝はコメントを残した。

 悲願は叶わなかったが、ボトムハーフから一度も脱したことのなかった愛媛にとって、リーグ戦5位という過去最高成績を残したこのシーズンが最も“J1昇格”を肌で感じたシーズンであることは間違いない。加えて、就任1年目の木山隆之監督(現・仙台監督)の率いたチームが、クラブ史に大きな足跡を残したと言っても過言ではないはずだ。

 しかし、そのシーズンの始まりは胸のすくような快進撃とは対照的な難局の中にあった。

 チーム始動日直前に、2期にわたるクラブの粉飾決算が発覚。まさにチームが船出しようとしていた矢先、大きく視界を遮る暗雲が立ち込めたのだ。
 
 クラブの不祥事によるJリーグからのペナルティは、結果的にけん責と制裁金300万円という“温情”裁定で済んだものの、県民クラブを名乗るチームへ向けられた目は冷ややかなもので、その矢面に立たされた選手たちは“被害者”という他なかった。また、クラブが緊縮財政を強いられたために前年まで行なっていたキャンプも取り止めるなど、シーズン開幕前からネガティブな要素ばかりが飛び交った。

 戦わずして訪れたピンチ。しかし、これこそが反撃の火種になるとは、番記者ながらこの時は想像できなかった。

 反撃の旗手となったのは新任の木山監督。クラブの苦しい台所事情をある程度把握したうえで、あえて火中の栗を拾うようにオファーを受諾した新指揮官の覚悟は決まっていた。

 「(粉飾決算は)クラブで起こったことだけど、我々もクラブの一員。もう一度、愛媛を応援してもらうスタンスを作れるのは、勝利する姿を見せられる我々でしかない。だから苦しんでいるクラブを自分たちの力で何とかしていこうと思うし、そのモチベーションで我々は戦っていくつもり。僕は自分のことを雑草だと思っている。恵まれていないことは平気。逆にその中で何ができるか。選手らと一緒になって周りの人たちの評価を覆していけたら、こんなに楽しいことはない」
 
 愚痴がこぼれてもおかしくない状況の中、木山監督はなにひとつ言い訳することなく、それらをすべてを背負うことで、エネルギーに変えようとしていた。そして、淀みなくストレートに突き刺さる指揮官の言葉は「自分たちから良い知らせを発信していけば、このチームが生まれ変わるチャンスになる」(河原和寿)と選手たちも突き動かし、指揮官のポジティブなマインドに染まったチームは、知らぬうちにもくもくと反撃の狼煙を上げようとしていた。

 チームは前半戦を粘り強く戦って中位でシーズンを折り返すと、夏場での5連勝を皮切りに一気にシフトアップ。その勢いのままに混迷を極めたプレーオフ戦線へ割って入り、見事J1昇格挑戦権を手に入れた。

 この年の愛媛は決して力や技で対戦相手を打ち負かすチームではなかったが、まるでスポ根ドラマのような良い意味でプロらしくない真っ直ぐなピュアさがあった。自己犠牲心を惜しまず、とにかく走り、食らいつき、どんな状況でもファイティングポーズを取り続ける姿勢はチーム全体の共通意識として浸透。だからこそ、負け試合でも無様な姿を見せることはなく、観る者に最後まで諦めないスタンスを訴えかけた。

 木山監督はプレーオフ準決勝敗退後、会見で戦評を述べたあとに次のようなコメントで締め括った。

 「今季、選手たちが見せてくれたものは愛媛の人たちに希望を与えるものだった。しっかり胸を張って帰りたい」

 チームはピンチを跳ね返し、強固なリバウンドメンタリティを武器に周囲の評価を見事に覆した。なにより、スタジアムを去る際に指揮官が見せた晴れやかな表情がシーズンの充実ぶりを表わしていた。

取材・文●松本隆志

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