「背番号11番、FW、ロマーリオ!」

 2000年9月3日、日韓ワールドカップ南米予選第8節のブラジル対ボリビア戦。雨に煙るマラカナンスタジアムでブラジル代表の先発選手たちが次々と紹介されていく。そしてGKから始まった選手紹介のアナウンスが最後のひとりをコールした時、マラカナンの熱量は沸点に達し、スタジアムは揺れた。

 当時の予選で、ブラジルはかつてないほどの不振に喘いでいた。チームを指揮するのは、徹底した規律とチーム戦術を武器に、国内クラブで結果を出し、満を持してその座に就任したバンデルレイ・ルシェンブルゴ。ところが、希代の戦術家に率いられたセレソンは、周囲の期待とは裏腹に低空飛行が続いていた。

 戦術重視のスタイルは選手たちの個性を消し、チームは本来の力を発揮できずにいた。確かにサッカーにおいて戦術は無視することができない勝利へのカギだ。ただ、ブラジルは世界中のクラブ、代表チームにあって、選手の個人能力がチーム戦術を凌駕する例外的なチームでもある。

 ルシェンブルゴはそうした側面を重視せず、クラブで成功を収めた手法である徹底したチーム戦術をセレソンにも課した。それは勝利するための信念であり、また野心の表われでもあった。彼はブラジル代表という最高の素材を使って、自分が作り上げるサッカーが、どこまで高みへと昇り詰めることができるのかを確かめたかったのだろう。

 だが、セレソンは迷走し、苦境に立たされる。しかも、ルシェンブルゴは“扱いづらい”とされるロマーリオの招集を敬遠していた。ロマーリオは全盛期を過ぎたとはいえ、依然としてゴールへの嗅覚は衰え知らずで、天才ぶりは健在。ゴールゲッターとしての能力は疑いようもなく、チームの低迷打開のために国民の多くが招集を望んでいた。
 
 調子の上がらない現実と、膨れ上がるサポーターからの不満。追い込まれたルシェンブルゴは、彼の本意ではまったくなかっただろうが、このボリビア戦で背番号11が代名詞のトラブルメーカーをついに招集した。

 ロマーリオの代表復帰において、話題に上がったのがブラジル代表での得点記録だった。ジーコが積み上げた得点に、ロマーリオが近付いていることを各メディアがこぞって報道した。ただ、オフィシャル、ノンオフィシャルと、どの試合をカウントするのかメディアによってまちまちで、得点差にはバラ付きが見られた。共通して言えたのは、どのメディアの記事でもその差は一桁だったが、1試合で抜くには難しい数字だったと記憶する。

 ロマーリオは復帰戦を前にしてこう豪語する。

「みんなはジーコとの得点差がまだあるように言っているが、俺の感じだと2点差だ。だからボリビア戦でハットトリックを決めてジーコを抜く」
 
 歴代のスターを引き合いに出して、自分の能力を誇示する大胆さ。おそらくロマーリオも、本心では得点差はまだあると理解していたかもしれないが、復帰戦となるボリビア戦で、自分が言ったことは確実にやり遂げて、ブラジル代表にとって重要な選手であることを証明したかったに違いない。

 そして、ロマーリオは見事にやってのける。11分、バンペッタのドリブル突破から得たPKによる先制弾を皮切りに、78分と80分にもゴールネットを揺らす。宣言通りに3得点を叩き出したのだ。他にもシュートをクロスバーとポストに当てていて、運が良ければ5ゴールを決める圧巻の活躍を見せたのだった。

 この原稿を書くにあたり、改めてふたりのセレソンでの通算得点記録を調べ直したが、やはり数字はまちまちだった。ただし、このエピソードにおいて、正確な数字はある意味、どうでもいいことではないだろうか。なにより重要なのは、3点を決めると言って、それをやってのけたロマーリオの実行力だ。

 ボリビア戦は、ロマーリオのハットトリックに加え、リバウドのヘディングシュートと相手のオウンゴールで、5-0の大勝を飾る。試合後の記者会見に出席したリバウドは「ゴール前20〜30メートルでは、誰もロマーリオを止められない」と賛辞を贈った。

 ロマーリオはスピードがあるタイプではない。得意としているのは、基本技術をベースとしたワンタッチプレーと、相手との駆け引きから逆を取ってかわす老獪さだ。神出鬼没な動きで、いとも簡単にマーカーを振り切るのも実に巧みだ。
 
 先制点のPKに関しては、リバウドは「(ロマーリオが)蹴っていいかと聞いてきたから、代表に復帰してゴールをしてもらいたかったから譲った」とも言っていた。

 それを聞いた友人のブラジル人カメラマンは、実際のPKの場面の状況を教えてくれた。彼はロマーリオがシュートするところを撮影しようとゴールの近くにいたため、ふたりの会話を聞くことができたようだ。筆者は、シュートを決めて喜ぶ表情を狙おうとコーナーに近い場所で撮影していたため、ロマーリオとリバウドのやり取りは分からなかった。

 友人が言うには、「確かにロマーリオは、PKを蹴っていいかとリバウドに聞いていた」。だが、記者会見でのコメントのように素直には認めなかったようだ。「リバウドは小さく肩をすくめて、どうだか、みたいな顔をしていたよ」というのだ。

 世界チャンピオンを目指す代表チームの中の、さらに中心となるべき選手が持つ“自分がナンバーワンだ”という強烈な自負には驚くばかりだ。結局、苦戦を強いられた南米予選は無事に突破。リバウドは本大会でチームを優勝に導く活躍を見せた一方、ロマーリオはメンバーから外れることになる。

取材・文・写真●徳原隆元

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